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アリス葬儀
~Where is Alice?~

【あらすじ】

かつて不思議の国に迷い込んだアリスは、チェシャ猫、帽子屋、女王らと親交を深めたが、嫉妬に駆られた白ウサギによって殺されてしまった。

その後、記憶を失ったアリスが棺の中で目覚めると、自らの葬儀が始まろうとしていた。その場にいたのは謎に包まれた葬儀屋、イカれた三月ウサギ、そして生意気な双子たち。どうやらここは不思議の国ではないらしい。アリスはこの国と過去の記憶について探ることにする。


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「アリス殺人事件~Who killed Alice?~」のその後のお話ですが、前作を知らなくても構いません。
・性転換→×
※但し、演者の性別は問いません。
・一人称、口調、語尾等変更→○

・人数変更→〇(双子を分けても構いませんが、台詞量は二人合わせて他と同じくらいです)
・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇

 

♠登場人物♠

アリス:

(女性)

かつて不思議の国で万人に愛されていた無邪気で愛らしい少女。特定の人物との親交を深めたため、嫉妬に狂った白ウサギによって殺された。目覚めた時には、過去の記憶を失っていた。

 

葬儀屋:

(性別不問)

不思議の国にはいなかった、謎の人物。怪しい仮面を着けている。アリスの葬儀を執り行うことに固執している。常にわけのわからないことを言っているが、何の意味もなさそうで実は深い意味がある。

 

三月ウサギ:

(男性)

不思議の国にいた、ウサギ耳のイカれた青年。熱々の紅茶と喧嘩を好み、黄色を嫌う。常に他人のことを馬鹿にして横柄な態度を取るが、アリスのことだけは気に入っている。

 

双子:

(ディー)(ダム)(性別不問)

不思議の国で城の門番をしていた双子の少年たち。生意気で口が悪く、都合に合わせて子供らしく振る舞う。時々入れ替わって遊んでいるため、どちらがどちらなのかは誰にもわからない。アリスのことは慕っている。

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背景:AIPICT(https://aipict.com/)様

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アリス:

(あくびをする)んー……よく寝た。ずいぶん長いこと眠っていた気がするけど、なんか大事なことを忘れているような……。(起き上がろうとして)あいたっ! 何これ。天井? おかしいわね。私の部屋の天井が、こんなに低いわけないわよね……?

葬儀屋:

ではこれより故アリス・リデルの葬儀を執り行います。皆様、どうぞ棺の周りにお集まりください。

双子:

(ディー)うわーん、うわーん! 先に置いていくなんてひどいよ、お姉さん!

(ダム)うっ……ううっ……ひっく。僕たちも後からそっちへ行くからねー、お姉さーん!

三月ウサギ:

ぐすっ……ぐすっ。おいおい、アリスう~!! ああ、綺麗だなあ。死体のお前も最高にイカしてるぜ!

 

アリス:

―は? 葬儀ってまさか……私、死んだの?! それでこの周りにあるガラスみたいなのが、棺ってこと?! 冗談じゃないわ。さすがに夢よね?(頬をつねる)痛った! ……夢、じゃない?

葬儀屋:

それでは、「白の女王語録」の一節をお読みいたします。「永遠(とわ)の別れとは漫然と訪れるものである。切り札は死にして、うつせば生。ああ、儚くして恒久(こうきゅう)かな。赤と白。血と涙。全ては対(つい)であり、同一であり、この世界を超越するのである。」

アリス:

なんか、どっかで聞いたことがあるような、ないような。……ありがたそうに聞こえるけど、大した意味もなさそうね。(棺を叩く)ちょっと、私は生きてるわよ! ねえ、聞こえてる? もしもーし!

三月ウサギ:

アリスー! お前が好きだったあっつあつの紅茶だぜ。いつも淹れてくれた帽子屋はいねえから、ちっとばかし前のとは違(ちげ)えけど、そこは勘弁な。ほら、たーんと飲め飲め。(棺に紅茶をかける)へっ、この香りと舌にじーんと来る熱さ、たまんねえだろ? あっひゃっひゃっひゃ!

双子:

(ディー)あっつ! ちょっとイカレウサギ! ぼくたちの方にも紅茶が飛んできたんだけど。どうしてくれるんだよ! 

(ダム)ちょっとー、棺が曇ってお姉さんが見えないよー。ボクたちの邪魔をしないでよー、クソウサギー。

アリス:

なんか水がかかったと思ったら……あの人、熱々の紅茶をかけてるの? うわあ……どうかしてるわ。

葬儀屋:

故人アリス・リデルは、かの国でも万人に慕われ、好かれておりました。無邪気で愛らしく、時に利己的で憎たらしい。けれども、私はここで声を大にして申し上げたいのです。全ての人に愛される。果たしてそんなことがあるのでしょうか。ゆえに私は、かの国で薄れゆく彼女の魂をうつし、この国へお連れしたのです。まあ、これらのおまけもついて来てしまったわけですが。

アリス:

この人はこの人で……変な仮面を付けてるし、不気味ね。さっきから何を言ってるのか一つもわからないわ。良いから早く、棺を開けなさいよ。(蓋を持ち上げようとする)うっ! この蓋……重くて全然動かないじゃない!

葬儀屋:

ではこれより棺をお開けして、故人へ最後のお別れをいたしましょう。皆様、献花(けんか)のご準備はよろしいでしょうか。

三月ウサギ:

ケンカ……? ああ、喧嘩かあ! へへっ、見てろよアリス。俺がこの中でいっちゃん強いってこと、証明してやるからな。おら、クソガキども! どっからでもかかってこいよ。ぶっ殺してやるぜ!

双子:

(ディー)バカウサギがあんなこと言ってるけど、どうする? 兄弟。

(ダム)相変わらずアホウサギだー。でも、売られたものは買わなくちゃ損だよねー、兄弟。

三月ウサギ:

さっきからバカだのアホだのいい加減にしろよ、クソガキ! てめえらが行かねえなら、こっちから行くぜ! おらおらおらっ!

双子:

(ディー)挟み撃ちにしよう、兄弟。えいっ!

(ダム)賛成だよー、兄弟。しねしねー!

アリス:

もうめちゃくちゃだわ。こんな葬儀、見たこともないし聞いたこともないわよ。だいたい、私は生きてるし。(葬儀屋に)ねえ、そこのあなた。私のこと、気づいてるんでしょ? 早くここから出してちょうだい! 

葬儀屋:

故人がお喋りを……? これはいけませんね。葬儀が中止になってしまいます。見なかったことにいたしましょう。

アリス:

ちょっと! どうしてそうなるのよ!

葬儀屋:

一度始めてしまったものは、途中でやめるわけにはまいりません。葬儀は最後まで完遂しなくては。どうしてもと仰るなら、あなたが彼らを止めてくださいませんか?

アリス:

はあ?! なんで私が!

三月ウサギ:

二人がかりでその程度か? 遊んでやってるわけじゃねえんだからよ。もっと本気で来いよ、クソガキがあっ! 

双子:

(ディー)目障りだね。おまけに耳障りだ。

(ダム)まずはあの黄色い耳からちぎってやろうよー。

三月ウサギ:

ああ? 誰が黄色いって? 俺はなあ、イカレちゃいるが黄色いわけじゃねえ。てめえ、ディーだったか? てめえからぶっ殺してやるぜ!

双子:

(ダム)ボクはダムだよー。ねえ兄弟、こいつ目も悪いみたいー。目からやっちゃおうよー。

(ディー)いや、まずはこの汚い口からやっちゃおう。これ以上は聞いてられないよ。

アリス:

ねえあなたたち、喧嘩はやめて。たぶん、「ケンカ」の意味を勘違いしているのよ。この人が言っていたのは、花をささげる献花の方で……ねえ、聞いてる? 

葬儀屋:

はあ、なるほど。ケンカ違いですか。しかし、葬儀さえ滞りなければ、私はどちらでも構いませんので。

アリス:

もうすでにしっちゃかめっちゃかよ。これが「滞りない」なんて、あなたの目はとんだ節穴ね!

葬儀屋:

お褒めにあずかり光栄です。故アリス・リデル。

アリス:

だから死んでないってば!

三月ウサギ:

さっきから、目だの耳だのうるせえな! 俺が嫌いなのはな、ぬっるい紅茶とよく喋るクソガキなんだ。そういやてめえら、帽子屋の茶会で会った時から気に食わなかったぜ! ふん、こっちに来る前に、もっと早く殺しとくべきだったなあ!

双子:

(ディー)ああ、うるさい。こいつのよく喋る口が動かなくなったのを想像してみなよ。口から行こうよ。兄弟のわからずや!

(ダム)違うよー。目をつぶす方が効率的なのに、君がそんなバカだったなんて思わなかったよー。兄弟のおたんこなすー!

三月ウサギ:

てめえら、何勝手に仲違(たが)いしてんだ! 相手は俺だぞ?! おい、こっち向けや。……ははっ、いいな。楽しそうじゃねえか。俺も混ぜろ!

アリス:

―あなたたち、いい加減にしなさい!!

双子:

(ディー)っ? 兄弟、見て! 

三月ウサギ:

おい、よそ見すんな……ああん? 

双子:

(ダム)っ! お姉さんが、喋った……。

葬儀屋:

(咳払いする)皆様。お気づきかとは思いますが、故人が注目をご所望です。

アリス:

はあ……。ここがどこなのかも知らないけど、まずは棺を開けて。みんなで協力して。いいかしら?

双子:

(ディー)なんかくぐもった声がすると思ったら……お姉さんだったのか。

三月ウサギ:

おお、アリス! 生きてたのか?! あっ、俺の紅茶どうだった? 美味かったよな? ひゃっひゃっひゃ! 最高にイカしてんだろ?

双子:

(ダム)お姉さん、会いたかったよー。生き返ってよかったー。

葬儀屋:

ふむ……葬儀の中止は何としてでも避けたかったのですが、こうなっては仕方ありません。全員で棺をお開けいたしましょう。

ー棺の蓋が開く

アリス:

はあ、はあ……。やっと、外に出られたわ。空気が新鮮ね。……辺りは真っ白だわ。ここはどこなの?

葬儀屋:

ええ、そうでしょう。いかがですか? 新しい国は。

アリス:

新しい……国?

三月ウサギ:

俺たちも前の国とおさらばして、こっちの国にやってきたんだぜ。へへっ、やっと会えて嬉しいぜ、アリス!(抱きしめる)

アリス:

ぐっ……苦しいわよ! 離して!

双子:

(ディー)ぷっ……! クソウサギ、お姉さんに振られてやんの。あっはっはっは!

三月ウサギ:

おう、わりいわりい。つい力が入って熱いハグになっちまった。何せ、前の国でお前は死んじまったっていうからよお。

双子:

(ダム)セクハラだよ、黄色ウサギー。今すぐお姉さんから離れて、一生近づかないでー。

三月ウサギ:

黄色じゃねえ! アリスは嬉しいに決まってんだろ。こんなに喜んでやがるしなあ?

アリス:

ちょっと、待って。いろいろ聞きたいことはあるんだけど……新しい国? 前の国で私は死んだって……一体どういうこと?

葬儀屋:

ええ。あなたは以前いた不思議の国で何者かに殺されたので、せめて葬儀だけでも行おうと、私があなたの魂をうつし、この国へお連れしました。

三月ウサギ:

そして俺たちも一緒に、な!

葬儀屋:

誠に不本意ながら、出口でうっかり見つかってしまったもので。

双子:

(ディー)違うよ。お姉さんの魂が不審者に連れて行かれそうになってたから、ぼくたちが守ろうとして……

(ダム)えいっと飛び込んだら、いらないウサギも付いてきたんだよー。

アリス:

教えてくれてありがとう。でも、ごめんなさい。あまりよく覚えていないの。前の国も……あなたたちのことも。えっと……知り合い、なのよね?

葬儀屋:

無理もございません。あなたの心を守るため、といったところでしょう。うつしたばかりは、そういうものです。皆様。アリス・リデルも混乱されていることですから、まずは自己紹介と致しましょう。では、僭越ながら私から。私は葬儀屋と申します。魂をうつし、この国へお連れしております。それでは、そちらのおまけたちも。

双子:

(ディー)むっ。失礼な葬儀屋さんだなあ。ねえ、お姉さん。覚えてない? ぼくはトゥイードル・ディー。向こうの国のお城の門番だよ。それで、

(ダム)ボクがトゥイードル・ダムー。忘れるなんてひどいよー、お姉さんー。でもウサギ野郎の記憶を消すためなら、しょうがないかー。

三月ウサギ:

おいてめえら! なあアリス、俺は三月ウサギだ。本当に覚えてねえか? 一緒に帽子屋の茶会で楽しくお茶したじゃねえか。ま、最後の日はあいつに追い出されちまったわけだが……。ったくよお、茶会に水を差すなんて、紅茶がぬるくなんだろ。なっちゃいねえよなあ!

アリス:

みんな……ごめんなさい。だめだわ。全然思い出せないみたい。

双子:

(ディー)がっくし……。切ないね、兄弟。ぼくたちの美しい過去が……。

(ダム)そうだねー兄弟。お姉さんとの輝かしい未来がー……。

三月ウサギ:

なものはどこにもねえから安心しろ、クソガキ!

アリス:

そういえば、私はさっき殺されたって言ってたわよね。誰に殺されたの? その……どんなふうに?

葬儀屋:

残念ながら、帽子屋からあなたの魂を受け取った時には、赤の女王、チェシャ猫、白ウサギが眠りこけておりまして……。なにぶん急ぎだったものですから、誰によって殺されたのかもわからずじまいでした。

三月ウサギ:

へん、どうせあのクソババアに首をはねられたんだよ。ああ、アリスは覚えてねえか。不思議の国には赤をこよなく愛する女王がいてな。口を開けば「首をはねよ」っつうんだ。俺も何度はねられかけたことか……うげえっ、思い出すだけで寒気がするぜ。

双子:

(ディー)案外、チェシャ猫がサクッとやってたりしてね。あいつ、お姉さんを独り占めしようと必死だったもん。クソつまんないなぞなぞ仕掛けてさ、笑えるよね。

(ダム)いや、どうせ白ウサギだよー、こいつと同じウサギだしー。そういえば、帽子屋さんって何者なんだろうねー。いつもちゃっかりしてるけど、何か知ってそうで怪しいなー。

アリス:

帽子屋、女王、チェシャ猫、白ウサギ……。だめだわ。思い出せない。

葬儀屋:

ふむ……そうですか。しかしここでは、誰に殺されたかなど大した問題ではありません。

 

アリス:

そんなことはないでしょう? 私が誰に恨みを買っていたのか、きちんと知る必要があるわ。

葬儀屋:

知ったところでどうなさるんです? 謝るんですか? なるほど、それは大きな誤りでしょう。塀から落ちたハンプティ・ダンプティは、二度と盆には返れません。かの者があなたを殺したという事実は変わらないのです。

アリス:

じゃあ、どうしろっていうのよ。

葬儀屋:

かの国ですべての人から好かれていたあなたですが、にも関わらず殺されてしまいました。ならばこの国ではすべての人から嫌われてみてはいかがでしょう。

アリス:

そんなことをしたら、それこそ恨まれて殺されてしまうわよ。それに……好かれてたなんて、覚えがないわ。

三月ウサギ:

酷いぜ、アリス。俺があの手この手でささやいた愛を覚えてねえっていうのか? よし、紅茶を淹れ直すぜ、座んな。俺たちの愛みてえにあっちあちのをな!

双子:

(ディー)うわ、きっも。ウサギってやっぱみんなストーカーになるのかな、兄弟。

(ダム)その点ボクらは子供で純粋だからさー。安心してよお姉さんー。

葬儀屋:

彼らがいると話の腰が折れてばかりですね……ちょうどいいところに棺がございます。ここに彼らを閉じ込めましょうか? そうすれば、私が葬儀屋として弔って差し上げますが。

アリス:

結構よ。もうみんな、揃いも揃って、言ってることもやってることもめちゃくちゃだわ。……いいわ。一度、整理しましょう。不思議の国で出会った人たち。彼らはみんな私のことが好きだった。でも私は誰かに殺されてしまった。そして、あなたが私の魂とこの人たちをこの国に連れてきたのよね。……そういえばこの国って、なんという名前の国なの?

三月ウサギ:

それが、俺たちにもわかんねえんだよ。赤の女王じゃなく、白の女王ってのが治めてる、っつうことはわかってんだけどな。

双子:

(ディー)葬儀屋さん、いい加減教えてよ。

(ダム)これじゃ誘拐だよー。ボクたちか弱い子供なのにー!

葬儀屋:

先ほども申し上げたはずです。ここがどこなのか、彼女自身で気付く必要がある、と。アリス・リデル。あなたは不思議の国へ来る前、どこにいたのか覚えていますか?

 

アリス:

私がどこにいたか……? ええっと、それは。

葬儀屋:

不思議の国は覚えていない。でも自分がアリスだということはご存じです。ならその前は? 時計を持った白ウサギを追いかける前、あなたは何をしていましたか?

三月ウサギ:

へっ。あいつを追いかけてた、ってのが気に入らねえな。あんな奴のどこがいいんだか。やっぱ白いのがいいのか? 足が速いのがいいのか? 女王のパシリだかなんだか知らねえけどな、俺だって負けてねえぞ! やっぱあのクソ白ウサギ、一回殺(や)っとくべきだったな。

アリス:

ああもう、あなたは少し黙ってて。白ウサギを追いかけた……? そう、庭で見かけて。誰かに呼ばれた気がしたけど……それで穴の中へ真っ逆さまに落ちていって……。追いかける? 落ちる? (怯える)―いや! これ以上は……考えたくないわ。

葬儀屋:

なるほど。ではあなたの心は何かを覚えているのでしょう。あなたはあなたをうつしたのですから。

双子:

(ディー)お姉さん、大丈夫? 凄く苦しそう。何か思い出せそう? ぼくたちに手伝えることはある?

 

アリス:

いいえ……ありがとう。でも大丈夫よ。ただすごく嫌な感じがして……なぜかしら。

 

双子:

(ダム)トラウマってやつなのかなー。記憶喪失なのもそのせいだよ、きっとー。

 

アリス:

不思議の国へ行くことは、もうできないの? 戻ったら何か思い出せるかも。

 

三月ウサギ:

おいおい、あっちにはお前を殺した殺人鬼がいんだぞ! 俺が言うのもなんだが、正気じゃねえぜ!

 

アリス:

それは……まあ、そうだけれど。

 

葬儀屋:

残念ながら、うつされた魂はこの国でしか生きることができません。

 

双子:

(ディー)ええっ?! うつされた魂ってことは、ぼくたちも死んでて、あっちに戻れないってこと?

 

葬儀屋:

あるいは、そうとも言えます。あなたがたのことは神のみぞ知る、です。

 

双子:

(ダム)肝心のことは答えないの、どこかの誰かさんにそっくりだねー。兄弟、こいつしばいちゃおうよー。

 

三月ウサギ:

そいつは俺も賛成だ。こいつは一回痛めつけてやらねえと、わかんねえみてえだしな。

 

葬儀屋:

おやおや……誰に連れてこられたのか忘れてしまったのでしょうか。私が死ねば、誰かをうつすことは不可能となりますよ。そこまでお考えになってのご発言ですか?

 

アリス:

もしかしてあなたは死神で、ここは死後の世界……とかなの?

 

双子:

(ディー)どうしよう、やっぱりぼくたち死んじゃったんだ! あれ? でもお姉さんも一緒なら悪くないかも。

(ダム)そうだよ兄弟ー。けどこいつら抜きで、ボクたちだけだったら最高だったんだけどなー。

 

葬儀屋:

あなたを生かしたこの私が死神ですか。なるほど、面白いですね。あちらで死んだあなたは、この国でしか存在できなくなりました。ここは死後ではありませんが、白に支配されています。こちらの声はあちらには聞こえない。あなたはあなたであってあなたではない。しかし、あなたであることに変わりはない。

 

三月ウサギ:

なぞかけはよせ、クソつまんねえぞ。あのクソ猫じゃねえんだからよ。はん、どっかの帽子屋といいてめえと言い、何とか屋って奴はどいつもこいつもうぜえな。屁理屈こねて、さもわかってますー、みてえにスカした顔しやがる。ムカつくったらありゃしねえ。

 

アリス:

こちらの声は聞こえない……。まるでさっきの棺にいるみたいね。私であって私ではない……私であることに変わりはない? どういう意味かしら。

 

双子:

(ディー)そういえば、不思議の国は赤だらけだったよね、兄弟。この国の女王様はどうなのかな?

(ダム)そいつもどうせ、血が大好きなとち狂ったおばさんだよー。

 

葬儀屋:

いいえ。陛下は高潔にして清廉潔白。全てにおいて正しく、万人から慕われ、白を好まれます。あの赤の女王と同じにして非なる存在なのですから。

 

アリス:

同じにして非なる……? さっき聞いた話だと、赤の女王は残虐で血を好むって……。似ても似つかないじゃない。もしかして顔だけが同じ、とかなのかしら?

 

三月ウサギ:

あのクソババアと同じ顔ー?! ぶはっ、そいつは傑作だな! 絶対ヒステリックババアだろ。こりゃおもしれえこと聞いたぜ。あっひゃっひゃっひゃ!

 

葬儀屋:

口を慎んでください。慈悲深き陛下は処刑などされませんが、深くお心を痛められ、涙を流されているはずです。

 

双子:

(ディー)あのおばさんって泣くことあるのかな。ぷっ、想像したら笑えて来ちゃった。

 

アリス:

血と涙……。何だか対照的だわ。そういえば、この国には他の住人はいないの?

 

葬儀屋:

この場にいる私とあなたがた、そして白の女王の他は、名もなき数字カードたちがおります。

 

双子:

(ダム)とっても過疎ってるねー。国として心配になってくるよー。

 

三月ウサギ:

おい。さっきから気になってたんだが……葬儀屋。てめえのその仮面、何だよ。見ててイライラするぜ。てめえがどんだけブサイクかは知らねえけどな、話をするなら顔くらい見せやがれってんだ!

 

葬儀屋:

私の顔など取るに足らぬことですが、あえて述べるなら……そうですね。葬儀屋としての雰囲気作りです。こういうのは形から入るタイプですので。

 

三月ウサギ:

そっかあ、なら仕方ねえな……とはならねえぜ。っし、隙あり! (葬儀屋を羽交い締めにする)ひゃっひゃっひゃ、つーかまえた! 

 

葬儀屋:

っ! 何をなさるんです? おやめください! 

 

双子:

(ディー)これ、気になってたんだよ。ふふん、よいしょっと。(仮面を取る)おお、やっぱこの仮面、かっこいいね! ぼくが代わりにつけようかな?

 

アリス:

ちょっと、やめなさいよ! 葬儀屋さんの大切なものかもしれないでしょう?

 

双子:

(ダム)そうだよ、兄弟ー。仮面をつけてる方が君ってわかったら、入れ替わり遊びがつまんなくなるよー。

 

葬儀屋:

悪ふざけも大概にして、速やかにお返しください。

 

三月ウサギ:

うつむいて顔見られねえようにしてんのか。どんだけ気にしてんだよ。やけどでもあんのかと思えば……はーん。綺麗なもんじゃねえか、ムカつくな。……って。あん? てめえ、どっかで見たことが……。

 

双子:

(ディー)嘘……でしょ? あの人とそっくり! 葬儀屋さん、帽子屋さんと同じ顔だよ。ってことは。

(ダム)ボクたちみたいに双子ー? 白の女王もあのおばさんと同じ顔って言ってたよねー。ここは双子の国なのー?

 

アリス:

もしかして、あなたが顔を隠していたのはそのせいなの?

 

葬儀屋:

あるいは、そうとも言えるでしょう。この国についての大きなヒントになってしまうかと思いまして。僭越ながら隠させて頂いた次第です。

 

三月ウサギ:

だからって、こんなにもあっちと同じ顔の奴らが集まるもんかあ? 双子のガキどもは置いといて、女王のババアに帽子屋。おまけに性格もてんで違うと来た。どうなってんだ?

 

双子:

(ディー)同じ顔と言えば、お姉さんも向こうのお姉さんと同じ顔だよね。もう死んじゃったけど。

(ダム)でもこっちのお姉さんは生きてるよー。それに性格も同じだよー。ただ生きてるか死んでるかが違うだけ―。

 

アリス:

もしかして……顔は同じだけどどこかがあべこべ。それが「うつした」ことによるものだとしたら、まるで不思議の国と対になってるみたいだわ……。なら、さっき言ってた「うつしてこの国へ連れてきた」の「うつす」というのは……まさか鏡に映した、とかなの?

 

葬儀屋:

……ご名答です。ここは鏡の国。うつした者の姿は変わりませんが、必ず対照的な部分がございます。生と死、赤と白。本来はあなたと私だけを映す予定だったのですが、あの場では隣にいた陛下も映ってしまったので、彼女は偶然の産物です。

 

三月ウサギ:

はーん、てめえが鏡に映したやつがここにいるってことか。じゃあこっちに来た後、俺たちはどうなってんだ?! あっちにも俺たちの分身がいんのか?

 

双子:

(ディー)お姉さんがこっちで生きててあっちで死んでるってことは、あっちのぼくたちも死んでるってこと?! な、なんてこった!

(ダム)さっきあっちに戻れないって言ってたのはそういうことだったのー? 酷いよ、ボクたちを勝手に殺すなんてー! 人殺しー!

 

葬儀屋:

人聞きの悪いことを……。元をたどれば、あなたがたが勝手についてきたのですよ。確かにアリス・リデルの生死や女王の性質については対になっていますが、あなたがたについては知る由もありません。だから申し上げたでしょう。神のみぞ知る、と。

 

三月ウサギ:

カニの味噌汁がなんだか知らねえけど、てめえが俺らに興味ねえから、投げやりになってんのだけはわかるぜ! 連れてきたんなら最後まで面倒見やがれってんだ!

 

葬儀屋:

いずれにせよ、あちらの国へは戻れないのですから仕方ありません。観念してこの国で生きるか。アリス・リデルについては、一つとなり、どちらからも消えるか。そうすれば元通りになります。この世界はあなたが作り上げたのですから。

 

アリス:

待って。消える? 元通りってどういうこと? この世界は私が作った、って……そんな覚えないわよ。

 

双子:

(ディー)お姉さんが消えるなんてあっていいはずがないよ。もう二度と会えなくなるんでしょう? そんなの嫌だよ、兄弟!

(ダム)ボクも耐えられないよー、兄弟! でも、その方がお姉さんにとっては良いかもしれないってことー?

葬儀屋:

これは、そのための葬儀です。あなたはどちらを選びますか? あなたが望んだ国で生き続けるか、再び死んで、元の世界に帰るか。さあ、選んでください。

 

三月ウサギ:

アリス……。帰りたい、なんて言わないよな?

 

双子:

(ディー)お姉さん……。ずっとここに居てよ。

(ダム)行かないでー、死んじゃいやだよー。

 

アリス:

……思い出したわ。私、誰からも愛されたかった。不思議の国は心地よかった。誰も彼もに好かれるのは、あまりにも都合が良くて……忘れていたの。彼らにも人格があるなんて、思ってもみなかったわ。

 

葬儀屋:

だから白ウサギの想いに気付かず、あなたは殺された。アリス・リデル。まだ、忘れていることがあるはずです。さあ、思い出してください。

 

三月ウサギ:

やめろ葬儀屋! アリスがここにいてえなら止めるべきじゃねえ! こいつは俺たちといる方が幸せに決まってんだろ!

 

双子:

(ディー)でもお姉さんは気づいちゃった。ぼくたちはもう、どうすることもできないよ。

(ダム)お姉さんは悪くないよー。だってもう、そうするしかなかったんだもん―。

 

アリス:

うっ……! 何、これ。世界がゆがんでるみたいだわ。目眩がする。もう、立っていられないわ……! (棺の中に倒れ込む)

 

葬儀屋:

さあ、棺の中へ。もう一度葬儀を始めましょう。帽子屋は、何も言えず殺されてしまったあなたが、ご自身で別れを告げられるよう、ここにお連れするのを望んでおりました。

 

アリス:

それが、私が鏡の国に来た理由……?

 

双子:

(ディー)うわーん、うわーん! ぼくたちを置いていかないでよ、お姉さん!

(ダム)うっ……ううっ……ひっく。ボクたちはもうそっちへ行けないんだね、お姉さーん!

 

三月ウサボク

ぐすっ……ぐすっ。おいおい、アリスう~!! ああ、綺麗だなあ。お前はいつも最高にイカしてるぜ!

 

アリス:

……そういえば、向こうのあなたは言ってたわね。全ては悪夢で、現実だって。それでも私はみんなに会えて幸せだったわ。また……会えるかしら?

 

葬儀屋:

さあ。それこそ神のみぞ知る、です。

 

アリス:

わかったわ。そうね。……そうよね。……もういい加減、目覚めないと。ありがとう。私、行ってくるわね。

 

葬儀屋:

ええ。さようなら、アリス・リデル。ここは鏡の国。目覚めたら全てが良い夢で、空想だったことがわかります。あなたはまだ子供で、もう大人。愛していたのは鏡の向こう。それは自分であり、自分ではない何かなのかもしれませんね。

ーFin

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