
怪談「心霊系配信者
『イヤコワチャンネル』」
百物語の企画に招待された、動画配信者。
自己紹介の後、最も恐ろしかった心霊スポットの話を語り始めます。
いわくつきの廃ホテルでグループを襲った怪奇現象と、
幽霊の映った映像から推察された悲しい噂の真相とは―。
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・一人称、語尾変更、アドリブ→○
◇登場人物◇
小岩井:
(性別不問)
心霊系動画配信者。チャンネル登録者数・百万人「イヤコワチャンネル」のメインパーソナリティー。百物語の配信企画に招かれた。
背景→AIPICT(https://aipict.com/)様

本日はお招き頂きありがとうございます。イヤコワチャンネルの小岩井(こいわい)です。今回は百物語の配信企画ということで、まずは自己紹介をさせて下さい。
私達イヤコワチャンネルは、スタッフ含め五人で活動してまして、全国の心霊スポットを巡って、動画を撮ってます。ありがたいことに、先日チャンネル登録者数が百万人に突破し、訪問した心霊スポットも百を超えました。こうも百に関連していると、おこがましいようですが、百物語に相応しいような気がしてきますね。
今まで行った心霊スポットはトンネル、病院、ダム、テーマパークと、まあ色々ありました。一番多いのはラブホテルですかね。経営難や殺人事件の噂で廃業して、取り壊しが途中で止まり、荷物もそのままっていうのもありました。そういう所って、情念と言うか、どろどろした独特の嫌~な雰囲気が漂っているんですよね。
一番よく聞かれるのは「幽霊に遭遇した事はあるか」ということなんですけど……もちろんあります。ただ、その場で気付くよりも、帰って動画を編集している時に「あ、これって幽霊じゃないかな」と思うことが多いです。
さて、前置きが長くなりましたが、今日はその中でも一番恐ろしかった心霊スポットの話をしようと思います。
その日、私は矢田(やだ)さんとスタッフのジュン君とA県にあるホテルに向かっていました。真偽の程は定かではありませんが、オーナーが自殺したという噂があり、地元では有名な心霊スポットみたいでした。ただ、所有者の方に聞いても、よくわからないとの事でした。
車を停めて、生い茂る草をかき分けて現れたのは、不気味な四階建ての建物でした。むき出しのコンクリートに、割れたガラス。ぱっと見で荒れているのがわかりました。入ってみると、中は落書きだらけ。受付のようなところにはパイプ椅子が積み重なっていて、帳簿やら請求書やらが散乱してました。日付をみたら三十年くらい前です。「夜逃げかなー」と話しながら、まずはざっと三人で見て回りました。
部屋は一つの階につき十くらいありました。部屋の造りはどこも同じです。風呂場にはゴミが溢れ、洗面所の鏡が割れてたり、ベッドのマットレスが腐ってたりと、まあ酷い有り様でした。
こういういわくつきの場所って、どこかしら怪しい部屋があるんですね。不気味で、なにか居そうな部屋。私達はそういう部屋を見つけると、定点カメラを設置して、誰か一人がその中で三十分待機するっていう実証実験(じっしょうじっけん)をやっているんです。今回もそういうのを探して歩いていたところ、矢田さんが怪しい部屋を見つけました。四階の一番奥で、唯一落書きがない所でした。焼けたという噂は聞いていないのですが、部屋の真ん中は天井が崩れ落ちていて、鉄骨まで丸見えになっていました。「一部屋だけなんておかしいよね」「じゃあここで実証実験をしようか」ということになり、ジャンケンに負けた私が部屋に残りました。あとの二人は一つ下、つまり三階の階段前で待機することになりました。
私は部屋の中心が映るように定点カメラを設置して、手持ちのカメラに向かって「嫌だなー」「怖いなー」だの呟きながら、いつも通り実証実験を始めました。とはいえ、ただぼーっと突っ立っているだけでは手持ち無沙汰なので、部屋を探索しながらカメラに向かって喋っていました。
暗闇の中、自分の息遣いしか感じられない空間は、何もいないはずなのに、何かいそうで……目、耳、鼻と、あらゆる感覚が研ぎ澄まされていくような気がします。
そうこうしているうちに、ギイギイという何かのきしむような音が聞こえてきたんです。ここには私達以外誰もいないはずなので、最初は風の音かなと思いました。こういう物音って、電話を介したら違う音に聞こえることもあるので、思い切って矢田さん達に電話をかけたんです。
「もしもしー? 今実証実験中なんだけど、変な音聞こえてさー」って。そしたら、あっちには聞こえないって言うんです。
まあ気のせいかもしれない、と思いながら探索を続けていると、落ちている天井の下から何か細いものが伸びているのが見えました。ライトで照らしてみると、薄汚れたベージュの糸のような束でした。「配線系かなー」と話していると、ふと電話の向こうからギイギイという音が微かに聞こえました。「そっち何か聞こえない?」と聞いたのですが、二人は「いやー、聞こえないですねー」と答えていた、そんな時でした。
スタッフのジュン君が、急に「わっ」と大声を出したんです。最初、私を驚かせようとしたのかと思いました。でもジュン君は真面目な子なので、珍しいなと思っていたら……「目の前を黒い影が横切った」と言うんです。それを聞いた矢田さんが、あわてて回していたカメラを確認しました。すると、「四階へ続く階段に黒い影が映っている」ということでした。ただ、ここから先は帰って明るさを調整してから確認しようということになり、私もそこで実証実験を切り上げることにしました。
もやもやしながら定点カメラを片付けていると、またあのギイギイという音が聞こえてきました。すぐ近くからです。私はあの剥がれ落ちた天井に近づきました。本当はすごく嫌な予感がしたんですが、ここで怖気付いたら撮れ高を逃してしまうと思うのは……悲しいかな、動画のためですね。思い切って、えいやと落ちた天井の一部を動かし……出てきたものを見て、ぎょっとしました。そこに下敷きになっていたのは、真っ黒に汚れたサビだらけのパイプ椅子でした。背もたれを下にして、折り畳まれた状態です。椅子の下には、あのベージュの糸束のようなものがありました。うねって途切れていたんですが、繋げたら1メートルはありそうな長さでした。
私はたぶん、これが何を意味するのかうっすらと気付いていたと思います。でも考えたくなくて、そのまま「今から出るねー」と言った時でした。すぐそばでガタン、と何かが倒れたような音がしました。さっきの落ちた天井の方からです。これって……。いやいや、まさか。でも、もしかして……。私は恐る恐る、倒れたパイプ椅子を少し持ち上げてみました。手を離すと、椅子は床にぶつかり、ガタンと音がしました。
あれ? これってさっきと同じ音では? ……いや、パイプ椅子は動いていません。それはカメラも収めているはず。おかしい。絶対にありえない。どっちにしろ、動画配信者としては確かめなきゃいけない。なのに、身体が動かないんです。その時、運の悪いことにライトが消えました。私はただ、目の前の汚れたパイプ椅子をじーっと、吸い込まれるように見つめていました。
辺りの暗闇が黒く濃くなっていくようです。その中でもひときわ濃いのは、椅子に落ちる影。その影は、自分のもののはず。でないとおかしいんです。私はその場から一歩も動いていませんから。と言うより、動けないんです。でも、めまいでしょうか。パイプ椅子に落ちる影は、なぜかゆらゆらと動いているように見えました。
何も言わない私を不審に思ったんでしょうね。「小岩井さん、何やってるんですか? どうしましたー?」矢田さんの呼び掛けで、ようやく我に返りました。金縛りはいつの間にか解けていました。これ以上ここにいるのは危険だ。そう直感した私は、一目散に逃げ出しました。
後日、動画を編集していたジュン君から電話が入りました。とにかく慌てていて、今すぐ動画を見てほしい。その一点張りでした。私はすぐにジュン君にデータを見せてもらいました。
一つ目は、矢田さん側の映像でした。実証実験の間、四階へ続く階段前で待機している二人を映したものです。「ここです」と言われた場面を見ると、一瞬映像が暗くなっていました。それから、黒く細長い影が、下から上へ向かうように消えていきました。
次に、ジュン君が拡大して、明度を上げてくれました。なんと、その影は……人の形をしていたんです。その動きは、あたかもカメラの前を横切り、階段を上っていくようでした。影は小脇に何かを抱えていました。ちょうど腰から足元までの大きさの、四角い何かです。
「これってもしかして……パイプ椅子じゃないですか?」ジュン君に言われ、はっとしました。実証実験した四階の部屋にあったのもパイプ椅子……。ギイギイという音。椅子の倒れる音……。ベージュの糸束……。その一つ一つの点が線として繋がっていくようでした。
次に、実証実験中に私が撮った映像も見せてもらいました。私が椅子を持ち上げて手を離した後です。ライトが消えてから、カメラに映っていたのは……パイプ椅子の上をゆらゆらと振り子のように動く人影でした。見間違いではなく、本当に揺れていたんです……。
その瞬間、口にするのもはばかられるような仮説がよぎり、私はジュン君と黙り込んでしまいました。
噂には聞いた事があります。自殺した幽霊は、自分が死ぬ瞬間を繰り返すそうです。ギイギイときしむパイプ椅子を持って、階段を上る幽霊。一部だけ剥がれた天井。ガタリと倒れた椅子。その後ゆらゆらと揺れていたのは……首を吊った人影。ベージュの束は……ロープの残骸。
あの幽霊はきっと今も、パイプ椅子を片手に階段を上り、四階の部屋へと向かっているのでしょう。首を吊り、己の命を絶つために。何度も、何度も、何度も。そうやって同じ苦しみを繰り返している。やりきれない、後味の悪さが残りました。自殺したオーナーの霊がいる、という噂ももしかすると本当なのかもしれません。
これが、私達の体験した世にも恐ろしい心霊スポットでのお話です。実際の動画は私達のチャンネルにありますので、是非チェックしてみてください。ただしかなり恐ろしいので、心臓の弱い方はお気をつけください。それから、心霊スポットと呼ばれる場所に、所有者の許可なく立ち入ることは禁じられています。くれぐれも場所の特定や訪問はお控えください。
本日は、ご清聴ありがとうございました。また私達の動画で、お会いできたらと思います。イヤコワチャンネルの小岩井でした。
ー終