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スパイたちの抒情詩(マスナヴィー)

【あらすじ】


これは、かつての同胞の決別と、翻弄される双子のお話。
 
西の大国・アレス王国と長年敵対してきた東の蛮国、アル・シャンマール。彼らは、若き王・ザイドの主導により、アレス王国の捨て駒同然である第十三王女・シエナを捕らえる。初めこそ、蛮族に嫌悪感を丸出しにしたシエナだったが、少しずつ自国の歪んだ思想に気付き、ひそかにザイドへ心を開くようになる。そんなザイドは彼女の想いには気づかぬまま、シエナを王妃に迎えることを決意する。
一方、ザイドに仕える双子の姉レイラは、かねてより密偵カラムの裏切りを疑っていた。婚儀を直前に控える中、密偵が迎えた待ち人とは……。
 
 
 
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・性転換→×
※但し、演者の性別は問いません。
・一人称、口調、語尾等変更→×
・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇
 


キャラクターが確立しているため、イメージを大きく損なうような改変はご遠慮願います。
前作は必ずしも演じている必要はありません。こちらから始めて頂いて大丈夫です。(但し、3作目「蛮族たちの風刺詩(ヒジャー)」の一読は推奨しています。)

​補足:アレス人は敵国を「シャンマール」と略して呼びます。対するアル・シャンマール人は自国を「アル・シャンマール」と正式名称で呼ぶことが多いです。
 
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⚔登場人物⚔

レイラ:
(レイラ・クラシー)(女性)
アル・シャンマールの弓使い。火矢を操り、気に入らないとすぐに燃やそうとする。考えるより先に身体が動き、男勝りで好戦的。短絡的であまり頭が良くない。一度敵と認識すると、テコでも動かない頑固なところがあり、感情に任せて先走ることが多い。双子の妹ゼフラには
たびたび馬鹿にされているが、何かと頭が上がらない

※アイシャ…レイラの上司に当たる女戦士。人望が厚く、皆に尊敬されている。

ゼフラ:
(ゼフラ・クラシー)(女性)
アル・シャンマールの医術と毒を担う。賢く冷静沈着で、どこかミステリアス。毒をこよなく愛し、研究には情熱を見せるので、暇さえあれば新種の毒を開発し、砂鼠(すなねずみ)に実験している。研究の環境を与えてくれたザイドには恩を感じており、忠実。双子の姉レイラはひそかに小馬鹿にしており、容赦ない毒舌を披露する。

※ザイド…アル・シャンマールの若き王であり、双子の主君。

※ラジャブ…ザイドの父の元側近で、最年長者。


カラム:
(カラム・ダーヤ)(男性)
アル・シャンマールの若き参謀。神出鬼没で密偵をこなす傍ら、煙幕などの開発をしている。一見気だるげでやる気がなさそうだが、何事もそつ無くこなし抜け目がない。効率重視で正面突破や面倒事は嫌う。彼なりにアル・シャンマールを誇りに思っているが、古いやり方や面子を保つことには興味が無い。

シエナの情報を得ようと秘密裏に行動していたため、仲間たちから裏切りを疑われているが、実は同郷で乳兄弟でもあるセシルとの接触を図っていた。
※シルティグアイム…アレス王国東の辺境で、アル・シャンマールとの国境にある寂れた領地。かつての戦いでアレス王国がアル・シャンマールの土地の一部を奪った際、住んでいた領民を新領地へ強制移住させたという。
 

セシル:
(セシル・オルコット)(男性)
シエナの教育係。勉強熱心で博識。人当たりがよく、口調はいつも朗らか。反面、時々引っかかるような物言いをして、どこか掴めないところがある。王家に次いで力を持つ貴族の子息らしい。

王都へ向かう途中の馬車でシエナとはぐれてしまって以来、消息不明だった。
実は、カラムにシエナの情報を流していた。また、かつてはアレスの東の辺境にある領主の息子だった。

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―アル・シャンマール西の砂漠にある神殿。柱の陰にはカラムの姿。

 彼を見守るように、レイラとゼフラが潜んでいる。

 

レイラ:

「ったく、あっちいなあ。よくもまあこんな動きにくそうな服着てられるもんだな。それにしても、こうして見るとさすが双子だよなあ。あーあ、あとは髪さえ切らせてもらえれば完璧だったんだけどなー。」

 

ゼフラ:

「髪は乙女の命なのですよ? いくらあなたの極秘任務とやらでも、こればかりは譲れません。良いではないですか。帽子を被れば同じですし。あとは、その知性の無い喋り方を何とかしてもらえればと。」

 

レイラ:

「んだと! あたしがバカだって言いてえのか。もう一度同じこと言ってみやがれってんだ!」

 

ゼフラ:

「そういうことについては理解が早いのですね。全く、困った姉ですこと。」

 

レイラ:

「ちっ。にしてもよ。てめえ、そんな喋り方じゃあ、一発でわかっちまうだろ。」

 

ゼフラ:

「とんでもありません。私(わたし)は本番に強いのです。見てください、この完璧な装いを。」

 

レイラ:

「あたしの服着て、髪下ろして、帽子被っただけじゃねえか。」

 

ゼフラ:

「あとは目付きを悪くすれば完璧ではありませんか。」

 

レイラ:

「てめえ、あたしをなんだと! ……ったく。にしても、カラムの野郎はこんな何もねえとこで何してんだろうな?」

 

ゼフラ:

「本日の婚儀は中央神殿にて執り行われるはず。砂漠に近いここは西の神殿。古くより祭儀に使われておりましたが、近頃は滅多に使われておりません。……妙ですね。」

 

レイラ:

「あー、とにかく、あたしがぜってえに、あいつの裏切りを暴き出す! そんでもって、アイシャ様に報告してやるんだ。その為には、この入れ替わり大作戦を何としてでも成功させねえとな!」

 

ゼフラ:

「これになんの意味があるのかわかりませんが……おつむが可哀想な姉に付き合うのも、妹の役目ですし。」

 

レイラ:

「おい、なんか言ったか?!」

 

ゼフラ:

「レイラ、違います。私なら、そこは『何か騒がしいですね、砂鼠(すなねずみ)がいるようです』とか『毒を試さなくては』と言いますよ。」

 

レイラ:

「ちっ。そんなこと、いちいち覚えてられっかよ。あー……ゼフラはあたしの練習しとかなくていいのか?」

 

ゼフラ:

「こう見えて変わり身の術は得意なのですよ。……こほん。『あたしはなあ、愚かなてめえらとは違って天才アンド、ちょー強いからな。余計なお世話ってんだ。』」

 

レイラ:

「なんかちょっとちげえ気もするけど……ま、あいつをカクハンさせて気を散らすくらいは出来んだろ。」

 

ゼフラ:

「攪乱(かくらん)、と言いたいのですね。わかりますよ、その気持ち。」

 

レイラ:

「あー……これは勢いあまって噛んじまったんだよ! いちいち突っ込むんじゃねえ! あのクソ野郎を思い出させるんじゃねえよ、ったく。気分わりい。」

 

ゼフラ:

「カラムも変なところで几帳面ですからね。」

 

レイラ:

「それなのに……なんでったってアレスのスパイになってるんだか。ちっ、仲間だと思ってたのに。……やっぱりあいつ、アレス人なんだろ?」

 

ゼフラ:

「レイラ、早計過ぎます。ザイド様も常に仰っているではないですか。アル・シャンマールの王に仕える者は、皆この国の民だと。生まれも血筋も、関係ないではありませんか。私たちの出自も、元をたどればこの国よりも東方なのですよ?」

 

レイラ:

「わかってるんだけどよ~……。あいつ、やる気ねえくせに任務はきっちりやるから、あたしだって信用してたんだ。なのに、アレスと通じてたんだろ? それにあのアレス女だって―」

 

ゼフラ:

「おひいさま、とお呼びください。いずれにしろ、彼女はあの国ではまともな扱いを受けておられませんでした。また、カラムの処遇についても、アイシャ様は保留にすると仰っておりました。」

 

レイラ:

「気に入らねえなあ。あー、またムカついてきた。早く証拠を押さえて、ぶん殴りてえな。」

 

ゼフラ:

「レイラ、噂をすれば。誰か来るみたいですよ。どうやら待ち人来る、のようです。」

 

レイラ:

「けっ。アレスに肩入れするクソ野郎は、こんなとこで誰と逢引してんだか。」

 

ゼフラ:

「逢引は恋人同士に使う言葉ですよ。私の姿で誤用はやめてください。品性が疑われてしまいます。」

 

レイラ:

「てんめえ……!」

 

ゼフラ:

「しっ。気付かれますよ。おとなしくしていてください。」

―ステッキを携えたセシルが神殿に現れる。

カラム:

「手紙。読んでくれたんすね。遠方からわざわざ、ご足労おかけしたっすね。」

 

セシル:

「あなたは……。あ~、そういうことですか。会場はここではないようですし……罠でしたか。まあ、そんな気はしていましたけどね。」

レイラ:

「ほーら、やっぱりアレス人じゃねえか。きんきらきんの頭に青い目だろ、間違いねえ。こんなところまで何の用だよ。砂漠に沈んでくたばりやがれってんだ。」

ゼフラ:

「元々知り合いだったというわけですか。それにしても、カラムの様子がいつもとは違うように見えますが……。」

 

カラム:

「そんで、騎士さんはどこにいるんすか?」

 

セシル:

「そんなことだろうと思って、先に本当の会場を探してもらっていますよ~。」

 

カラム:

「剣は持ち込んでないっすよね? 命が惜しいなら、本当は帰ってもらいたかったんすけど。」

 

セシル:

「僕たちはかつて殿下に仕えていたんですよ~? 国に戻ってこられないなら、せめて殿下の花嫁姿くらいは拝みたいじゃないですか。まあ、場所は違っていたようですけど。……ああ。もしや、僕に何かお話でも?」

 

カラム:

「単刀直入に聞くっすけど。あんた、シルティグアイムの領主の息子っすよね? 俺が昔住んでいたところの。」

レイラ:

「あ? なんだよ、『シルティグアイム』って。」

ゼフラ:

「アレス王国の東の辺境にある小さな領地です。ちょうど、我が国との西の国境付近に位置しますね。」

セシル:

「……何を仰ってるんです? うーん、ちょっとよくわかりませんね~。」

レイラ:

「やべえ。あたしも場所わかんねえぞ。」

ゼフラ:

「かわいそうなお人……。」

レイラ:

「んだと?!」

カラム:

「十年前。アレス王国が占領したアル・シャンマールの土地。そこへ送られた辺境の領民。覚えてないっすか? 俺です。あんたのこと、ずっと探してたんすよ。」

 

セシル:

「……何の話かわかりかねますね~。そんなことでわざわざ僕を呼び出したんですか? もしかして、ただの勘違いでは?」

 

カラム:

「そんなはずはないっす。あんたは覚えてるはずっすよ。だって俺はあんたの乳兄弟(ちきょうだい)で、子供の頃はよく―」

 

セシル:

「寝言は寝て言ってくださいよ。あなたとはいい取引……いえ、いい駒になってもらいましたけど。これ以上踏み込んでくるようなら、これっきりにしていただきますよ。もとより、お互い敵じゃないですか。第十三王女殿下の情報と引き換えに、そちらの情報を戴く。そういう契約でしたよね。」

 

カラム:

「……それはそう、っすけど。わかりました。言いたくないなら、もういいっす。」

 

レイラ:

「は? つまり、あいつがカラムの取引相手……ってことは。やっぱりスパイだった、ってことか?」

 

ゼフラ:

「カラムが言っていた『偽の情報』とやらを渡す代わりに、おひいさまの情報を貰う、と……そういうことだったんでしょうね。」

 

レイラ:

「ちくしょう、許せねえ。アイツらまとめて今すぐぶっ殺す!」

 

ゼフラ:

「レイラ、落ち着いてください。もう少し、様子を見てからでも遅くはないはずです。」

 

レイラ:

「でもよお―」

 

セシル:

「……なぜ、あちら側に付いたんですか?」

 

カラム:

「さっきまでは否定してたのに。今は、認めるんすね。」

 

セシル:

「僕が家族を亡くし、頼る者もおらずさまよっていた時に……同じ領民だったはずのあなたは、敵国に拾われてのうのうと暮らしていたんですよね。」

 

カラム:

「……そうかもしれないっすけど。どっち道、俺たちは敵国で野垂れ死ぬしかなかったんすよ。助けて貰った方に付くのは、合理的じゃないっすか?」

 

セシル:

「アレス王国は勝ち取ったシャンマールの土地へ、領民たちを強制移住させた。だが敵に奪還され、戦況が悪くなった途端、領民を見捨てた。そればかりか、全ては領主による独断だとして、責任をなすり付けた。結果、領主は自殺し、一家離散。」

カラム:

「死んだ……? あれからどうなったんすか? 旦那様は……奥様は? だって、俺はあんたが無事にあっちへ戻ったとばかり―」

 

セシル:

「ええ、みんな死にましたよ。それに比べてシャンマールは生ぬるいですね。敵であったアレスの子供を迎え入れて、骨抜きにした。……でもね。元々こんな国に飛ばされなかったら、今頃僕の家族は生きているはずでした。あなたにはわからないでしょうね。家族の死体を見た時の絶望も、誰にも手を差し伸べられない苦しみも!」

カラム:

「……じゃあ、俺はどうすればよかったんすか。これでも、死に物狂いであんたのこと、探してたんすよ。」

セシル:

「別に頼んでませんよ。仮に見つかったところで、『あなたの無事が知れて良かった』なんて、のんきなことを言うとでも思いました? ……僕はね、昔から今までずっとずっと、この時を待っていたんですよ。僕らをシャンマールにけしかけて見捨てた陛下も。偽善ぶったシャンマールも、一網打尽にできる時をね。」

レイラ:

「じゃあやっぱり、カラムはアレス人だったのかよ。ちっ、あたしらを騙しやがって!」

 

ゼフラ:

「では、あの当時戦場にいたザイド様やラジャブ様は、このことを―」

 

レイラ:

「当然知ってるだろうな。けっ、よりによってアレス人なんかを引き込むなんて、どうかしてるぜ。」

 

ゼフラ

「いえ、レイラ。カラムはどちらかと言えばあのアレス人を止めようとしているように見えます。先ほど言っていたように近しい関係だったのでしょうか。一方、あの男は……どことなく不気味で……明確な殺意を感じます。」

 

―カラム、煙幕を投げる。

カラム:

「……あんたは、変わったんすね。周りがそうさせてしまったんすね。今ならまだ間に合うっす。あんたが何を企んでいるのかは知らないっすけど。……うちの国を傷つけるつもりなら、全力で阻止させてもらうっすよ!」

―カラム、ナイフで切りかかろうとするが、セシルのステッキにはじかれる。

セシル:

「うちの、国? 僕たちの国は、アレス王国ですよ。昔も今も、ね。あの腐った国を終わらせるには、こうするしかないんです!」

 

カラム:

「……っ。俺の国は、アル・シャンマールっす。これでも誇りはあるんすよ……! あんたのことは傷つけたくなかったすけど……仕方ないっすね。」

 

セシル:

「鼻と口を覆うとは……さては毒を使いますか。僕も戦いは得意じゃないので。これで手を打ちましょう。」

 

レイラ:

「なんだよ、どうなってんだよ。くそっ、煙で前が見えねえ!」

―連続した爆発音が響く

ゼフラ:

「爆薬の音……? いえ、それにしては変です。爆薬なら着火まで時間がかかるのに、なぜ何発も連続して……?! レイラ、気を付けてください!」

 

レイラ:

「ちくしょう、何なんだよあのアレス野郎! こんな兵器がアレスにあるとか、聞いてねえぞ! 弓矢を使おうにも、煙幕のせいでよく見えねえし!」

―カラム、砲撃を避けながら

 

カラム:

「くっ。そんなもんをあっちに持ち込まれたら……かなりめんどくさいっすね。」

 

セシル:

「もう手遅れですよ。彼も同じものを持っていますから。」

 

カラム:

「あの騎士さんが、そんならしくないのを……? 頭でも打ったんすか。ああ、あんたがけしかけたんすね。……趣味悪いっすよ。」

 

セシル:

「もう昔の彼とは違いますよ。それに、お言葉ですがシャンマールだって卑怯な戦法じゃないですか。煙に毒に炎に、なんでもあり。それなら、僕たちだって蛮族にならなきゃ不公平というものでしょう?」

 

レイラ:

「おい、まずいぞ。ゼフラ、これ借りるな。って、服に入ってるから別にいいのか。」

 

ゼフラ:

「ちょっとレイラ、今出ていくのは危険すぎます! それに、毒の種類はわかっているのですか? 一番手前は眠り毒で、その右が混乱毒で、その隣が―って、聞いてください!」

 

―物陰からゼフラの格好をしたレイラが飛び出してくる

レイラ:

「おい―じゃなかった。こほん、そこまでにしてください。」

 

カラム:

「ゼフラ?! 何でここにいるんすか!」

 

セシル:

「女……? 丸腰だとしても、二対一はさすがに聞いてないですね。」

 

カラム:

「俺だって聞いてないっすよ。どういうつもりか知らないすけど、今取り込み中なんで。早く外して貰えないっすか?」

 

レイラ:

「知っての通り、あた……私は毒を持っております。混乱毒、眠り毒……。今ここで、このアレスやろ……じんに打ってもいいのですよ?」

 

セシル:

「それで牽制のつもりですか。いいですよ。ただしあなたが毒を取り出している間に、その男の頭が爆発しますけどね。」

 

レイラ:

「……どういうことだ、……ですよ。」

 

カラム:

「あんたは引っ込んでてください。これは俺の問題なんすから。」

 

レイラ:

「水臭いことをいうんじゃね……えよ。」

 

カラム:

「はあ? その喋り方……もしかして、あんた……レイラっすか?!」

 

レイラ:

「てめえのザイド様への忠誠はその程度かよ。仲間のあたしたちが信じられねえって言うのかよ!」

―ゼフラも釣られて飛び出す。

ゼフラ:

「レイラ! 何をしてるんです。作戦はどうなったのですか?!」

 

セシル:

「もう一人……今度は弓持ち、か。女とはいえ二人も連れてくるなんて、さすが蛮族ですね。取引も話もあったもんじゃない。やはり、罠だったわけですか。」

 

カラム:

「あんたらは……あーくそっ。なんでこんな時に……。(小声で)しかもよりによってどうして入れ替わってるんすか……!」

 

ゼフラ:

「アレスのお方。動かないでください。そこから一歩でも動けば、火矢を放ちます。……お覚悟を。」

 

レイラ:

「おいおい、あたしの弓に触ったこともねえのにどうやって―」

 

カラム:

「はったりかませときゃいいのに、なんで自らばらしていくんすか! ほんと救いようのないバカっすね!」

 

レイラ:

「んだと! てめえにだけは言われたくねえよ!」

 

カラム:

「ああもう……めんどくさいっすね。主にあんたのせいで!」

 

レイラ:

「大体てめえはなんも言わなさすぎるんだよ。なんだよ、このアレス人とどういう関係なんだよ。やっぱりスパイだったのかよ。なんで仲違いしてんだよ!」

 

カラム:

「だから見てわからないすか! 今は説明してる時間とかないんすよ!」

 

セシル:

「ああ、うるさいなあ~。不毛なやり取りに虫唾が走るんですけど。そろそろ終わらせてもいいですか?」

―カラムの方へ向けられたステッキの先が破裂する。カラムの肩に着弾し、血が噴き出す。

カラム:

「(攻撃を受け、吹き飛ぶ)がはっ……ぐっ……。」

 

レイラ:

「おい、カラム? おい、嘘だろ! なんでアイツ一歩も動いてねえのにカラムを……おい、どうなってんだよ!」

セシル:

「あ~……外しちゃいましたか。この距離でも狙ったところには当たらないんですね。となると、まだまだ改良の余地はありそうですかね。」

―ゼフラ、レイラの矢筒と弓を投げる。

ゼフラ:

「レイラ! そいつから距離を取ってください。カラムは―」

―カラム、よろよろと神殿を出ていく。

カラム:

「俺は……ザイド様に伝えに行ってきます。」

 

ゼフラ:

「出血がひどいです。そのままでは中央神殿まで行けません! せめて応急処置を―」

 

カラム:

「大丈夫、まだ動けるっす。動けるうちに……あの騎士に気を付けろって。そんで……。ああ、レイラ。申し訳ないっす……俺の、せいで。そいつ、足止め……お願い、できないっすか? あっちへ近づけないように……」

 

ゼフラ:

「カラム、待ってください!」

 

セシル:

「この煙……思っていた以上に厄介ですね。さて、次の邪魔者はあなたですか。まだ残りはありますからね。蛮族なら女でも殺して問題ないでしょう。」

 

レイラ:

「てんめえ……カラムに何しやがった! おい、ゼフラ。この毒全部借りるぞ。こいつには苦しんで死んでもらわねえとなあ!」

 

ゼフラ:

「レイラ、私はカラムを追いかけます。あなたは一人で……大丈夫ですか?」

 

レイラ:

「誰のことを心配してんだ。こんな卑怯野郎、アル・シャンマールの弓部隊・隊長様が直々にぶっ殺してやるよ! おい、次の一本でてめえは終わりだ。派手に燃やしてやるよ!」

 

セシル:

「さきほどの威力を目の当たりにしてもこの威勢とは……蛮族の女は頭も悪いようですね。仕方ない、早急に片付けましょうか。」

 

ゼフラ:

「カラム、待ってください! ……あのアレス人、おひいさまの騎士もいるとほのめかしておりましたが……。何やら嫌な予感がします。早く、急がなければ。」

​ーよろめきながら、もがくように砂漠を歩き続けるカラム。

 

カラム:

「ザイド様……待っていてください。俺は……必ず、あなたに、伝えます、から……」

​ーFin

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