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剣術大会の追憶詩(ディクラー)

【あらすじ】


アレス王国では、毎年秋に剣術大会が開かれる。若き騎士リュシアンは、尊敬する兄のように立派な騎士になるべく励んでいたが、対戦相手のユーグは、卑劣な手段で試合に勝とうと画策していた。激闘の末、リュシアンはあるじとなる王女と出会うことになる。

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15~20分程度。
・性転換→×
※但し、演者の性別は問いません。
・一人称、口調、語尾等変更→×
・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇

​・シリーズものではありますが、単体でもわかる内容となっております(「誓いの叙景詩(ワスフ)」を一読しているとよりわかりやすいです。時系列としてはこちらが前)。

 

⚔登場人物⚔

リュシアン:
(リュシアン・ブラッドリー)(男性)
騎士団に入団したての若い騎士。代々騎士を輩出する名門ブラッドリー家の次男で、性格は実直。真面目で曲がったことを嫌う。年の離れた兄アルヴィンは、寡黙で厳格な次期団長候補。

 

ユーグ:

(ユーグ・バルテ)(男性)

リュシアンの先輩騎士。騎士団の上層部にゴマをすって取り入り、邪魔する者を目の敵にしている。家は成金で、貴族へのコンプレックスがある。勝つために不正を働き、卑怯なやり方も厭わない外道。

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背景:AIPICT(https://aipict.com/)様​​

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リュシアン:

毎年秋には、王国騎士団の剣術大会が開かれる。騎士たちは各々(おのおの)騎士道精神に則(のっと)って正々堂々と戦い、その年の勝者を決めるのだ。上位三名は表彰され、騎士団での出世が期待できるほか、未婚の王女たちから勲章を贈られる。騎士たちは、我こそが頭角を現そうと闘志を燃やしていた。


ユーグ:

「次の対戦相手は……『リュシアン・ブラッドリー』ねえ。名家の次男坊、次期団長候補の弟くん、か。……気に入らねえ。前にボクを馬鹿にしたこと、忘れたとは言わせねえぞ。クソ真面目な甘ちゃんが! ふん、社会の厳しさってやつを教えてやろうじゃあねえか。」


ー試合を終えた兄に、リュシアンが声をかける。

リュシアン:

「兄上。先程の戦い、お見事でした。剣さばきもさることながら、堂々としたたたずまいと身のこなし……勉強になります。俺も先程の相手に勝ちました。この試合、そして次の試合で勝てたら、遂に兄上と―」


ユーグ:

「アルヴィン様! へへっ、流石は次期団長と目されるだけありますねェ! 何をどうしたらあなたのような渋みと凄味を出せるのか、知りたいものですぅ。あなたが団長になった暁には、ぜひこのボクを使ってやってくださいねえ。何でもしますから。あ、これ冷たい水です。ささ、汗を拭かれて。あちらの特等席でごゆっくりと休んでくださいね。」


リュシアン:

「……おい、ユーグ・バルテ。兄上は俺と話をしていたはずだが。」


ユーグ:

「ああ、悪い悪い。まるで相手にされていなかったもんで、もう終わったと思ってよ。」
 

リュシアン:

「いや、そんなことは―あ、兄上! ……行ってしまわれたか。」


ユーグ:

「よしよし、ボクが渡したタオルを使ってるぞ! これで次期副団長の座は安泰だな。」


リュシアン:

「……ずっと思っていたのだが、お前は兄上に媚びて何がしたいのだ?」


ユーグ:

「はあ? ボクが何しようと勝手だろ。てめえには関係ねえよ。」


リュシアン:

「騎士団の風紀に関わる。目障りだ。」


ユーグ:

「ああん? このボクに偉そうに指図するとは、何様のつもりだァ? アルヴィン様の弟だからって調子に乗んなよ、クソガキ。」


リュシアン:

「お前が興味あるのは兄上の立場だけだ。強い兄上に取り入って、自分も強くなった気になりたいだけだろう。」


ユーグ:

「はっ。てめえも似たようなもんじゃねえか。」


リュシアン:

「俺はお前とは違う。俺は兄上のように正々堂々とした立派な騎士になりたいだけだ。」


ユーグ:

「はーん。ま、ボクと違ってアルヴィン様には相手にされてねえけどな。弟なのに。」


リュシアン:

「そんなことは―」
 

ユーグ:

「っと。そろそろ次の試合だ。さあて、準備してくっかァ。」


リュシアン:

「……次の相手はお前か。」
 

ユーグ:

「ああ。てめえの大好きな『正々堂々と』『騎士らしく』楽しもうぜ。」
 

リュシアン:

「楽しむつもりはない。本気でやるだけだ。」


ユーグ:

「へっ、熱い熱い。暑苦しすぎて笑っちゃいそうだぜ。ま、よろしくなァ。」
 

リュシアン:

「……。」


ー試合直前。リュシアンは審判から穴だらけの手袋を渡される。


リュシアン:

「何だ、これは。これが、試合に使う手袋……。」


ユーグ:

「おっと、投げ捨てんなよ。そしたら決闘―ただの殺し合いになっちまうからなァ?」


リュシアン:

「あの、審判。本当にこれしかないのですか? 穴だらけなのですが―」


ユーグ:

「おいおい。騎士なら、不平不満を言うなよな?」


リュシアン:

「……お前のは随分と綺麗なものだな。」


ユーグ:

「何だよ、このボクがわざわざそんな手の込んだ嫌がらせをすると思うかァ? 審判が渡したんなら、きっとこれしか無かったんだろ。」


リュシアン:

「……。」


ユーグ:

「ま、そんなの大したことねえだろ。剣の腕が確かなら、な。」


リュシアン:

「……そうだな。望むところだ。試合を始めよう。」


ユーグ:

「行くぜ。」


ー両者位置につく。合図と同時に、ユーグが動く。


ユーグ:

「―うおおおおお!(勢いよく振りかぶる)」


リュシアン:

「くっ! ……はあっ!(受け止め、押し返す。以後、斬り合いながら)」


ユーグ:

「ふんっ!」


リュシアン:

「はあああ!」


ユーグ:

「へっ!」


リュシアン:

「……ぐっ! (持ち手が滑る)しまった―」


ユーグ:

「どうしたァ? ふん! おらあ!(力任せに何度も振り下ろす)」


リュシアン:

「っ! ぐっ―」


ユーグ:

「早くかかって来いよ! ……っらあ!!」


リュシアン:

「……っ。はああああ! ……くそっ、指が滑る!(間合いを取る)」


ユーグ:

「っと。おいおい、逃げる気かァ?」


リュシアン:

「……まさか。」


ユーグ:

「腰が引けてんなァ。ボクはこっちだぜ?」


リュシアン:

「ほざけ! ……はあああああっ!(勢いをつけて向かう)」


ユーグ:

「かかったな! へへっ……よっと!(足を引っかけて転ばせようとする)」


リュシアン:

「―っ! おい、何を―(避ける)」


ユーグ:

「おっと、隙あり! おらっ、おらっ!(執拗に足蹴を繰り返す)」


リュシアン:

「おい! どういうつもりだ!」


ユーグ:

「ああん? 何が、だよ!」


リュシアン:

「その足、邪魔だ。やめろ!」


ユーグ:

「へへっ。悔しかったらてめえもやってみろよ! おらよっと!」


リュシアン:

「(避けながら)俺は! 卑劣なお前とは……違う。一緒にするな!」
 

ユーグ:

「はははは! 兄貴に泣きつくかァ? ……ま、言ったところでてめえに構うわけねえけど、な!」


リュシアン:

「どこまで愚弄すれば気が済む、この外道っ! くそっ、邪魔だ! ……なぜ審判は止めない?」


ユーグ:

「さあて、なんでだろう、なァ! うおおおおおお!(力強い斬撃)」


リュシアン:

「(受け止める)はあっ! ……(荒い息)。ふざけるな。」


ユーグ:

「……(荒い息)。あははははは!」

リュシアン:

「何が、おかしい。」


ユーグ:

「……てめえのそのクソ真面目なところ、大嫌いだぜ。」


リュシアン:

「何が言いたい?」


ユーグ:

「そのまんまだよ。……へっ! 家は名門。兄貴はずばぬけて優秀。それでも腐らず真面目に頑張る。」


リュシアン:

「それのどこがいけない? 相応しいもののために努力するのは当然のことだ。」
 

ユーグ:

「甘い。……甘いんだよ! てめえを見てるとイライラするぜ。賢く立ち回った方が楽にのし上がれるってこと、思い知らせてやりたくなるんだよ。」


リュシアン:

「余計なお世話だ。」


ユーグ:

「はん。目の上のたんこぶっつーの? てめえ、目障りなんだよ。」


リュシアン:

「黙れ! さっきから聞いていれば勝手なことを。お前には……お前にだけは、負けるものか。覚悟しろ! はあああああ!(勢いよく振りかぶる)」


ユーグ:

「無駄……無駄なんだよ! うおおおお!(受け止め、はじき返す)」


リュシアン:

「少しは……やる気になったようだな。」


ユーグ:

「へっ、それはどうだろう、なァ?!」


リュシアン:

「なんだと?」


ユーグ:

「おっと、下ががら空きだぜ? ―どりゃああああっ!(足元に滑り込む)」
 

リュシアン:

「……なっ!(つまずき、倒れ込む)」


ユーグ:

「へへっ、終わりだな。(首筋に剣を突きつける)」


リュシアン:

「っ! 馬鹿な!」


ユーグ:

「勝者、ユーグ・バルテ、ってなあ! ……へっ、悪いなァ。ま、ここは実力主義ってことで……な?」


リュシアン:

「何が実力だ! 審判、見ておられなかったのですか?! こいつは俺を転ばせて―」


ユーグ:

「その審判は、ボクが勝ちって言ってるんだ。公正なる判断に文句をつける気かァ?」


リュシアン:

「どう考えても騎士の戦い方ではない。不正だ!」


ユーグ:

「ああん? 言い訳は見苦しいぜ。騎士たるもの、素直に負けを認めて勝者を祝福したらどうだァ?」


リュシアン:

「お待ちください、審判!(審判が金を懐に入れているのに気づく)……っ! なんだ、あれは。」


ユーグ:

「はあー、駄々っ子かよ。まあ、お子ちゃまなら諦めが悪いのも、仕方ねえか。」


リュシアン:

「……金を握らせたのか。」
 

ユーグ:

「ああ?」


リュシアン:

「先程の審判……金を手にしていたのが見えた。成程、買収していたのだな。」


ユーグ:

「おいおいおいおい、言いがかりはよせよ。大体、証拠はあんのかァ?」


リュシアン:

「剣の柄(つか)が滑ったが……油でも塗ったのか。そしてあの手袋。相手を蹴ろうと見過ごし、賄賂になびく審判……」


ユーグ:

「だから何だよ。団長にでも言いつけるか? でも残念だったなァ! 団長はボクを大層気に入ってるからなァ。そしてアルヴィン様も上下関係には厳格な人だ。団長に逆らうはずがねえ。」


リュシアン:

「こんな不正がまかり通るとは、王国騎士団も地に落ちたものだな。お前に騎士としての誇りはないのか?」


ユーグ:

「さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ。戦場でもそんな寝言を言うのかァ? 騎士道なんてもんはな、しょせん綺麗事なんだよ。」


リュシアン:

「……確かに戦場なら、負けた者は死んで終わりだ。だがこれは剣術大会だ。騎士は、民に胸を張れる存在でなくてはならない。」


ユーグ:

「何だよ、結局負け惜しみかァ?」


リュシアン:

「話を逸らすな。」


ユーグ:

「さあて、次の試合があるからボクはこれで。」


リュシアン:

「待て。……次も同じ手を使うつもりか。」


ユーグ:

「へっ、まさか。潔く負けてくるさ。団長相手にボクが勝てるわけないしなァ。」


リュシアン:

「俺が相手なら、勝てると。だからこんな舐めた真似を?」


ユーグ:

「へへっ。現にこうして勝ったじゃねえか。」


リュシアン:

「お前……恥を知れ!」(掴みかかろうとする)


ユーグ:

「おっと。試合外の乱闘は、追放処分だ。憧れの騎士をやめてもいいのかァ?」


リュシアン:

「……っ。」


ユーグ:

「これでボクは栄えある三位だ。王女からの勲章は確実だなァ!」


ーユーグが立ち去る。


リュシアン:

「……屈辱だ。いや、仕方ない。俺の力不足だ。それよりも、王国騎士団が、名ばかりの腐った組織だったとは、な。俺の目指していたものは何だったのか。……虚しいものだ。」


ー全ての試合が終わり、表彰式となる。


ユーグ:

「ふー、終わった終わったァ。さーて、表彰式だ。勲章を下さるのはどの王女だろうなァ。ローズ様、ソフィア様、シャルロット様、へへっ、みんな可愛いなァ。」


リュシアン:

「今年も兄上が優勝されたのか。流石、お強い。俺の試合のことは……誰も気に留めていないようだな。」


ユーグ:

「おお。アルヴィン様の前にいるのはローズ様じゃねえか! 妖精のように可憐だ……ったく、羨ましいぜ。さあて、俺の前にはどっちの王女が来るんだ? ……おおっ、美人と評判のシャルロット様だァ! へへっ、どうもありがとうございます。」


リュシアン:

「勲章が何だ。騎士団に正義など存在しない。兄上がお強いのは確かだが、それ以外は茶番だ。早く終われば良いものを。」


ーリュシアンの前に一人の少女が立つ。


ユーグ:

「ん? なんで、こいつの前にも王女が。いや、王女にしては飾り気が無えな。それに、見たこともねぇ。」


リュシアン:

「(勲章を差し出される)……え? これを俺に、ですか?」


ユーグ:

「いやいや、待てよ! 勲章は上位三名だけだろ?」


リュシアン:

「あの……あなた様は? 俺は、リュシアン・ブラッドリーと申しますが……なぜ、俺に勲章を?」


ユーグ:

「はあ? 試合を見てなかったのか! 勝ったのはボクだぞ!」


リュシアン:

「いや、逆か。」


ユーグ:

「あ?」


リュシアン:

「あの試合を、最初から最後までご覧になっていたのか。」


ユーグ:

「大体、そいつは誰なんだよ。……へっ? 病気で普段は出てこない第十三王女? いや、そんなのいるとか聞いてねえし! これじゃ上位四名じゃねえか。ちきしょうっ!」


リュシアン:

「これは俺が手にするべきだと? ……身に余る光栄を。ありがとう、ございます。」


ー少女が立ち去る。


リュシアン:

「……ユーグ・バルテ。」


ユーグ:

「ああん?」


リュシアン:

「……感謝する。」


ユーグ:

「何だよ、急に。気持ちわりいなァ!」


リュシアン:

「俺の仕えるお方が決まった。お前が出会わせてくれたようなものだ。」


ユーグ:

「はあ? てめえ、何言ってんだ? ……遂にいかれちまったのか?」


リュシアン:

「俺はあの方の護衛騎士になる。絶対に、な。」


ユーグ:

「ふん、知らねえよ。勝手に抜かしてろ。」

ー(間)

リュシアン:

あの日からも、騎士団で理不尽なことは多々あった。だが、俺の心はくじけなかった。あの時、正しくあろうとしても認められない悔しさを、彼女が見過ごさないでいてくれた。それだけで、救われたような気がした。

その後、俺は日陰者であるという第十三王女の素性を内密に調べ上げた。そして、たとえ目指す道が左遷も同然であろうと、ただひたむきに彼女の護衛騎士を志したのである。


ー(Fin)

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