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人魚を求める海賊は

🏴‍☠️あらすじ🏴‍☠️

 

粗暴な海賊のギオルグは、ある晩​に飲んだくれて港の裏路地を歩いていると、怪しい露店を見かける。売っていたのは怪しげな薬ばかりだったが、店主の魔女によれば、人魚の涙でできている薬もあると言う。かねてより珍しい宝を渇望していたギオルグは、人魚に興味を持ち薬を奪おうとするが、あっさりと魔女に倒されてしまう。そして翌日、ギオルグは気まぐれに現れた魔女と取引し、人魚がいるという海へ船を進めることになる。

世界に二つと無い宝を求める海賊と、魔法と引き換えに代償を求める魔女。二人の船旅に待ち受けるものとは―。

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30~35分程度。
・性転換→〇 
※海賊を女性がやる場合は名前を「ギーダ」に変更してください。

※台詞中の互いの呼びかけ等は適宜変更してください。「魔女→魔法使い」、「ババア、アマ→ジジイ、野郎」等

(船上で再会する場面は、性別変更の場合でも特に台詞を変更する必要はありません。魔女が男性の場合でも、美女に化けたというていでやってください)

・一人称、口調、語尾等変更→○

・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇

🏴☠️登場人物🏴☠️

海賊:
(男性)
名前はギオルグ。粗暴で口が悪いが、仲間思い。大海賊に憧れを持っているが、うわさに聞く宝があった試しはなく、落胆して自棄になっている。また本人が自意識過剰なだけで、別に有名でもない。
実は、ひょんなことから国の有力貴族の私掠船(しりゃくせん)を受け継ぎ、海賊となった。国内では捕縛の対象ではなく、周辺他国への船の略奪のみを認められている。


魔女:
(女性)
名前はインゲ。海に住むと言われている魔女。うん百歳らしいが年齢不詳。魔法で、外見の年齢はおろか性別まで好き勝手に変えることが出来る。
秘薬を煎じて売っているがその効能は不明。金にうるさくがめつい。他人に魔法を使う際はしつこく代償を求める。その内容は財宝だけに留まらないらしい。飄々と、人を小馬鹿にしたような物言いをする。

◇台詞に出てくる単語について◇

・クリスティーナ号……ギオルグが持つ中型の帆船。今の船員は三十人くらい。以前の船長が、敵国の商船を奪って改造したらしい。


・ヘンリック……船員の下っ端。ギオルグの甥。ひ弱でおっちょこちょい。
・カール……元船大工の下っ端。寡黙。雑用を進んでこなす。
・ニコラス……航海士。元海軍で聡明。腕がいい。
・トーマス……料理番。大酒飲みでよくサボっている。


・ルレオ……北方の国名。
 


背景:freepik様

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​2023.11

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​―場末の港町の酒場で、海賊が酒を浴びるように飲んでいる。海賊、傍らの客に絡み始める。
 
海賊:
あ? 確かにこの俺が、大海賊のキャプテン・ギオルグ様だが……。へえ、俺様に気付くとは、おめえ、なかなか見どころあるじゃねえか。あ~、世間は俺様をどう称えてるのか知らねえけどな。古代のいわく付きの王冠、呪いの真珠。あらなあ、ぜーんぶデマだったよ。そんなもんに踊らされちまったとはなあ……くっ。ははっ、あはははははは。
……おい。何笑ってんだ? この俺様を笑うとは、いい度胸してんじゃねえか。表出ろや!
 
―客をボコボコにした後。
 
海賊:
ちっ。どいつもこいつも俺様をバカにしやがって。心躍る冒険? 世界に二つとないお宝? んなもん……ねえんだよ。どこにも、ねえんだよ。畜生!

 

 
―千鳥足で、裏路地を歩く海賊。
 
海賊:
あー、飲みすぎて頭いってえ。……あ? こんなとこに露店……? 何売ってんだ。

魔女
いらっしゃい、いらっしゃい。おや、そこのいかしたお兄さん。世にも珍しい薬に興味はあるかい? 惚れ薬、若返り薬、不老不死の薬、なんでもあるよ。

海賊:
へっ。どうせ偽モンだろ。値段は……ひいふうみい、はあ? 桁が三つは多いだろうが。イカれてんのか?

魔女
でもお客さんなら払えないこともないだろ? なんてったって男前なんだからさ。ひひっ、イカしたヘーゼルの瞳だねえ。

海賊:
ああ? 誰に口聞いてんだ! この俺様が、そんなゴミクズなんざ買うわけねえだろ。酔っ払いだと思って甘く見てると、痛い目見るぞクソババア。

魔女
失礼だね。わたしが作る薬は全部本物だよ。一番値が張るこの薬だって、人魚の涙から出来てるんだ。言いがかりはよして欲しいね。

海賊:
人魚……だと?

魔女
ああ。あんたも知らないわけじゃないだろう? 話には聞いたことがあるはずさ。世にも美しい人魚だよ。

海賊:
本当に、いるのか? もしいるなら、どこにいるんだ?

魔女
さあ、どうだろうねえ。金も払わねえ客にほいほい教えるほど、わたしゃお人好しじゃあないんでね。これでも入手には苦労したんだよ。あんたはいかしてるからまけといたげる。今ならたったの十万クローネだ、さあ買った買った!

海賊:
どうすれば、会える? 絵で見る姿のままなのか? その薬は本当に不老不死になれるのか?

魔女
そりゃあ、企業秘密だよ。わたしゃ、慈善事業でやってるんじゃあない。どんな魔法も、情報だって、「代償」がいるんだからねえ。

海賊:
ふん。あいにくそんなものは払ったことはねえよ。欲しいと思ったなら、力ずくで奪うまでだ。

魔女
ふうん。さてはあんた、海賊かい。けど、無駄だよ。わたしからは何も奪えない。諦めるこったね。

海賊:
やってみなきゃわかんねえだろ。死にたくなきゃ、そいつを寄越せよ、クソババア!
 
魔女

「レナークナ、エミーケ、フヨゼーカ。」(魔女を残して、露店が消える)
 
海賊:
はっ?! 店が消えた、だと? おい、さっきの薬はどこへやった。大人しく出せよ! うらあああ!(魔女に殴りかかる)

魔女
(避ける)あんたにつける薬はないよ。とっととおうちへ帰るんだね。

海賊:
ふざけやがって……このアマ、死ね!(短剣を抜いて切りかかる)うおおおおお!

魔女
「セバートキフ、シガナイラー、テーベソズミー!」

海賊:
(魔法攻撃に吹き飛ばされる)ぐあっ! おい、何しやがったクソッタレ! ちっ……ぶっ殺してやる!

魔女
「オリーム、ネニジンナ、イナダーグ!」

海賊:
ぐっ……急に身体がおも……うごか、ねえ! お……い。何、しやがっ、た……。(倒れて気を失う)

魔女
さてと、こいつをどうするか。放り出してやったところで、わたしの知ったことじゃないけどねえ。……そうだ。

―翌朝。甲板の上に寝転がっている海賊が目を覚ます。
 
海賊:
あー、まぶし……あっちい。―はっ?! 船の上、だと?! ……あー、確か、昨日は飲みすぎて、酒場でムカつくやつぶん殴って……。はー、下らねえ。ちっ、頭がズキズキするぜ。
 
―傍らには美女が座り込んで海賊を見つめている。
 
魔女

ようやくお目覚めかい。ねぼすけだねえ。

海賊:
―っ? 誰だおめえ!

魔女
つれないねえ。昨日はあんなに忘れられない夜を過ごしたってのに。

海賊:
(ざわつく手下たちに)おめえら、違うからな。こいつは俺の女でも何でもねえ。っ、娼婦でもねえよ。アホか!

魔女
ひっひっひっ。あまりに美しすぎて覚えてないのかい。そうだねえ、そうだろうねえ。(手鏡を身ながら)この自慢のブロンドに白い肌、赤い唇に細い鼻。う~ん、いつ見てもうっとりするねえ。あとはこの見えにくい目だけどうにかしないとねえ。
 
海賊:
気色わりいな。誰なんだよおめえは! 答えねえとどうなるかわかってんだろうなあ? このクリスティーナ号に忍び込んだネズミは、女でも容赦しねえ。生きて帰れると思うなよ!

魔女
おや、わたしがわからないのかい。なら……この姿ならどうだい?(ローブを纏った怪しげな姿に変わる)

海賊:
おめえは、昨日の!

魔女
美女はお嫌い? 船の名前は女なのにねえ。なら、(ころころと姿を変えながら)こーんなこどもか……ひひっ、物好きだねえ。あとは……こーんなイケメンでも、良かったんだけどねえ。

海賊:
おい、ヘンリック。このふざけたアマを海へ放り出せ。……何ビビってんだ、さっさとやれ! キャプテンの命令が聞けねえってのか?

魔女
無駄だよ。この子達はわたしにゃあ逆らえない。ひひっ、誰が強いかわかってるみたいじゃあないか。あんたと違ってお利口さんだねえ。

海賊:
なんだと?!

魔女
おや、やるのかい? やったところで昨日の二の舞だけどねえ。その頭のたんこぶに、心当たりが無いわけじゃあないだろう?

海賊:
……ちっ。ムカつくアマだ。で? あやしい露店の薬売りが、俺様に何の用だ。

魔女
ちっちっちっ。わたしゃ、ただの薬売りじゃあない。魔女さ。

海賊:
魔女、だと? 魔法が使える、ってのか。なら、昨日見たアレは酔ってたからじゃなくて、本当の魔法だっただと? ……ふん、おもしれえ。魔女か。噂には聞いたことがあったが、本当にいたとはな。

魔女
そうさ。そんでもって、あんた。人魚に大層興味があるみたいだねえ?

海賊:
はあ?

魔女
なあに、理由まで聞こうとは思ってないよ。ただ、あんたにとっても悪い話じゃあないはずさ。

海賊:
ふん、随分と気前が良くなったみてえだなあ。さては、昨日の詫びのつもりか?

魔女
ひっひっひ、甘いねえ。わたしゃ慈善事業するつもりはないと言ったろ。きっちり、代償は取るよ。

海賊:
へっ、がめついババアだな。

魔女
おや、いいのかい? なら、この話は初めから無かったことにしてもいいんだよ?

海賊:
おめえが勿体ぶるせいで、何の話かもわかんねえんだよ。どうせろくでもねえ話だろ?

魔女
そんなわけないさ。実はわたしゃ、とある人魚と知り合いなんだ。そいつに取りっぱぐれがあるのをちょいと思い出したもんでね。特別に、あんたをその人魚のところまで案内してやってもいい。どうだい?

海賊:
ふん、人魚ねえ。本当にいるってんなら、胡散くせえ話に乗っかってみるのも悪くねえかもな。……あ~、そんで、タダじゃねえんだったか。なら―(宝箱を持ってくると、中身を甲板にぶちまける)……っと、ほらよ。好きなだけ持ってけ。

魔女
へえ。真珠の首飾り、金の延べ棒、粒の大きな宝石……。どれも凄いお宝じゃないか。本当に、いいのかい?

海賊:
ふん、どれも俺様にとっちゃあガラクタみてえなもんだよ。何も心躍らねえ。世界を探せば百個はありそうな代物ばっかだ。好きなだけ持ってけよ。

魔女
(宝石の一つをつまみ上げて)これなんか、一級品のめのうじゃないか。それなら、お言葉に甘えて全部貰っちまおうかねえ。ひひっ、何とも太っ腹なこった。あんた、いいねえ。気に入ったよ!

海賊:
そりゃどうも。で、どこにいるんだよ、その人魚は。おい、ニコラス。海図を持ってこい。

魔女
いんや、これまた海図には載ってないところでねえ。とりあえず、北を目指してくれるかい?

海賊:
ふーん、ならいいけどよ。後でやっぱりやめ~た、ってのはナシだぜ? 払うもんはちゃんと払ったからな。

魔女
ああ、勿論だよ。わたしゃこれでも商売人なんだ。もらった分はきっちり返すさ。商売の基本中の基本だからねえ。

海賊:
そうと決まれば取引成立だな。おい野郎ども、帆を上げろ。船を出せ!  

魔女
ひっひっひっ。こりゃ、楽しくなってきたねえ。
 


ー数日後、船を走らせる一行。
 
海賊:
で、いつになったら場所を教えてくれるんだ?

魔女
まだまだ、当分先だよ。あと数週間はかかる距離だ。

海賊:
は~ん、そうかよ。(小声で)……さては、騙されたか?

魔女
聞こえてるよ。ほら、精の付くスープをサービスだ。ありがたく飲むことだね。

海賊:
いつからおめえは料理番になったんだ。今日はトーマスのはずだろ。奴はどこだ?

魔女
あの坊やなら寝てるよ。昨日ラム酒を引っ掛けすぎたんじゃないのかい。ひっひっひ。

海賊:
あんの野郎……起きたらただじゃおかねえ。(受け取ったスープを見る)……なんだあ? 色が紫だぞ。本当に大丈夫か、これ?

魔女
紫芋と紫キャベツのせいかねえ。さ、熱いうちにお食べ。

海賊:
変なもん入ってたらただじゃおかねえからな。(一口すする)……っ! げほげほっ。なんだこれ。苦えぞ!

魔女
おやまあ、おかしいねえ。確かにレシピ通りに作ったんだけど……歳のせいか、細かい字が見えづらくてね。ついつい張り切りすぎて、蜘蛛の巣でも入っちまったかもねえ。

海賊:
はあ?! 誰が好き好んでこんなゲテモノ食うか! あ~、やってらんねえ。おい、カール。貯蔵室からパンとチーズ持ってこい。

魔女
つれないねえ。これを飲めば三日は食わなくても生きてけるのに。

海賊:
いらねえよ。余計な事すんな、クソババア!
……あ? 霧が急に濃くなってきたな。ステディーだ! おいヘンリック。何が見える?

魔女
こっからはわたしの出番だね。お~い、おもかじいっぱいだよ!

海賊:
なっ、勝手に指示を出すな!

魔女
ここからの航路を知ってるのはわたしだけさ。いいかい? この霧を東に抜けると、七つの小島が見えてくる。その間を、わたしが言う順番に通り抜けるんだ。

海賊:
ちっ。……わあったよ。

魔女
航海士は誰だい?

海賊:
そっちのニコラスって奴だ。……おい。悪いが、こいつの言う通りに船を進めてくれ。癪だが仕方ねえ。今回はデカい獲物が待ってるんだ、頼んだぜ。

魔女
さあて、久しぶりの航海だ。腕が鳴るねえ!

海賊:
本当に大丈夫なんだろうなあ。
(けたたましい話声が聞こえてくる)……あ? なんだ、急に騒がしいな。は? おめえらじゃねえのか。いや、鳥の群れか。上空に何匹かいるが……デカイな。……いや、顔は人間だぞ。見間違いか? どうなってやがる!

魔女
あれは、ハーピーだね。ここらは奴らの縄張りなんだよ。

海賊:
ハーピー? なんだ、そりゃ。

魔女
上が人間、下が鳥。けたたましい声で鳴く怪物だよ。

海賊:
はあ? 怪物う?!

魔女
話しかけられても答えちゃダメだ。船員に伝達しな!

海賊:
ああ、もうわけわかんねえ! いや、人魚がいるなら怪物がいてもおかしくねえのか? (手下たちに)おい、聞け。あの鳥は無視しろ!

魔女
船のマストに止まったかい。こりゃ厄介だね。自分の身は自分で守るんだよ。

海賊:
言われなくてもそのつもりだ! 野郎ども、剣を抜け。大砲、用意! 惑わされるな。ちっ、あっちへ行け。俺様のクリスティーナ号を、我が物顔で荒らし回るとは……どうやら早死にしてえみたいだなあ?! (襲撃されている手下を助ける)……おいヘンリック、無事か?! こんのクソ鳥め。そいつに近づくんじゃねえよ! (剣を振り回す)すばしっこい奴だな。おら! 
(飛び回るハーピーに掴まれ、上空へ連れ去られる)うおっ……なんだあ?! どうなってやがる! おい、下ろせ……いや、やっぱり下ろすな! 畜生、離せよ!
(あちこち飛び回るハーピーに翻弄され)馬鹿野郎、急に旋回すんな。おえっ、気持ちわりい。はあ、はあ……。やべえな、この高さは落ちたら死ぬじゃねえか……。おい、ババア!

魔女
次は四十五度。振り切れ、振り切れ!……なんだい。わたしゃ忙しいんだよ。

海賊:
おい、俺様が見えるか! ハーピーに掴まれてんだよ! このままじゃあの世行きだ! 

魔女
それで?

海賊:
それで? じゃねえだろ。早く助けろ! おめえなら出来るだろ、その魔法で!

魔女
ただで、魔法を使ってやれるとでも思ってるのかい?

海賊:
代償か……。金目のもんならまだある。いいから早く助けろ!

魔女
はあ。仕方ないねえ。……ああ、あんなところにいるのかい。こりゃ相当怒らせちまったようだねえ。いつ海に落とされてもおかしくないよ。

海賊:
いいから早くやれっつってんだろ!

魔女
それが人に物を頼む態度なのかい? それに、代償をまだ貰ってないよ。

海賊:
こんな時までがめついババアだな。
(首に掛かった懐中時計を取り、魔女へ投げつける)……おらよ!

魔女
ふん。さっきのには劣るがまあまあだね。
「ロローイマクルカ、ニウヨノネーハ、レオコニワート!」(ハーピーが凍り、ギオルグも空中で止まる)

海賊:
わぷっ! おい何すんだよ、冷てえ! ……ハーピーが、凍った? おい、このままじゃあ俺様まで―

魔女
大丈夫だよ。そのままゆっくり甲板に落ちてくるはずさ。

海賊:
(凍り付いたハーピーから逃れ、甲板に転げ落ちる)はあ、はあ……助かった。どうなるかと思ったぜ……。

魔女
あんた、随分と肝が据わってるんだねえ。あの場で気絶しなかっただけで偉いもんだよ。

海賊:
馬鹿にすんじゃねえ!

魔女
あの坊やをかばったのかい? 見返りも無しに。

海賊:
俺はおめえとは違えんだ。……ヘンリックは高いところが苦手なんだよ。

魔女
随分と仲間思いなんだねえ。

海賊:
そんなんじゃねえ。あいつは身内だから特別だ。

魔女
ふーん。ま、いいさ。さあてこのまま、ハーピー共を振り切るよ。もうしばらくすれば霧を抜けられるはずだ。

海賊:
そういやおめえ、名はなんていうんだ。

魔女
なんだい、藪から棒に。

海賊:
船員の名前がわからねえと不便だろ。

魔女
ひっひっひっ。ようやく自分の立場がわかったようだねえ。

海賊:
うっせえ! 調子乗んなよ。

魔女
わたしゃ、インゲだ。よろしくねえ、海賊さん。

海賊:
へっ。ギオルグ様だ。

魔女
ハイハイ、キャプテン・ギオルグ。

海賊:
それでいい。まあ、せいぜい上手くやってくれよな、インゲ。


 
ー数週間後
 
海賊:
あれから怪物の類は見かけないが……クソっ、あんなのがごろごろいるとは、たまったもんじゃねえな。あー、この辺はルレオの海域だったか。となりゃあ、あっちの商船も通るな。ここらできっちり仕事もしとかねえと。おいおめえら、怪しい船があればすぐに教えろ!

魔女
へえ。あんた、ただの海賊じゃなかったのかい。金に無頓着だから、てっきり根無し草かと思ってたよ。

海賊:
これが許可状だ。れっきとした王国お貴族様の私掠船(しりゃくせん)だよ。

魔女
それはそれは。よそ者から見れば海賊、国から見れば英雄ってわけかい。意外だねえ。とてもそうは見えないけど。

海賊:
宝を探して海を飛び回りがてら、敵国の船を襲う。国からはありがたがられ、堂々と海賊も名乗れるってわけだ。

魔女
ふうん。きっかけは……あれかい。あの青髭(あおひげ)にでも憧れてるのかい。

海賊:
まあ、そんなところだ。

魔女:
奴は誰にも縛られない。世界を股に掛ける孤高の大海賊。ただ気の赴くまま、ロマンと冒険に生きるのみ。

海賊:
ああ。手にした伝説の秘宝は数知れず。世界を敵に回しても我関せず、宝だけを追い求める賞金首。……たまんねえよな。

魔女
ひっひっひ。大層あこがれてるみたいだねえ。

海賊:
いや、俺様は今のやり方で満足してる。

魔女:
そんなあんたが人魚を求めるのはなぜだい? さては、永遠の命でも欲しいのかい?
 
海賊:
……俺様のことはどうでもいいだろ。詮索好きなババアめ。

魔女
まあ、わたしゃ金さえ貰えれば別になんでもいいけどね。

海賊:
だったらなんで聞いた!
 


―しばらく船を走らせた後。
 
魔女

さあて、着いたよ。ここらが人魚の縄張りだ。

海賊:
ここが……? 見たところ何もねえじゃねえか。おい、適当言ってるんじゃねえよな?

魔女
奴らは海の中で暮らしてる。水面に上がる時は……歌う時くらいさ。

海賊:
人魚の、歌……? って、まさか聞いたらまずいやつじゃねえよな?

魔女
ひひっ、察しがいいねえ。奴らに歌わせたら身投げしたくなるよ。船ごと沈められるかもねえ。耳栓でもしとくことだね。

海賊:
ろくなもんじゃねえな。

魔女
さあて、人魚。借りはきっちり返してもらうよ。返せないならこの海賊に売っぱらう。わかってるんだろうねえ? こんなところまで逃げても無駄だよ、出てきな!

海賊:
海の中にいて、こっちの声が聞こえるもんなのか?

魔女
あいつにはわたしの魔法がかかってるんだ。丸聞こえさ。おい、聞こえてるんだろ? 死にたくなけりゃ早く出てきな。

海賊:
水面に影……こんなところに、人が?

魔女
出てきたね。さあ、説明してもらおうか。なんであんたはここにいるんだ? 泡になるはずの人魚さんや。

海賊:
人、だと?!  こんな海の中に? ってことは、本物の人魚なのか。やっぱ本当にいたんだな! 不老不死になるんだったか。いや、見世物にもなるな。早く手にしてえ。おい、どうやったら捕まえられるんだ?

魔女
焦るんじゃないよ。いいかい、ギオルグ。わたしゃ、あんたにその人魚をタダでくれてやる。こんな幸運、二度とないよ。さあ、早く大きい樽を用意しな。その中に海水を入れるんだ。

海賊:
代償を求めるおめえが、タダでくれてやるだと? 何考えてやがる。おめえ……ひょっとして、俺様を騙そうとしてるんじゃねえか?

魔女
冗談はおよし。わたしゃあんたの船の船員だよ。仲間のよしみだ。ハーピーから助けてやった恩を忘れたのかい?

海賊:
おめえはいつでも代償を求めるがめついババアだろ。この好機をタダでくれてやるほどお人好しじゃねえことくらいわかってんだよ。……何考えてやがる。

魔女
ふん、察しがいいね。確かにわたしゃ人魚のところまで案内するとは言ったが、くれてやるとまでは言ってないからね。

海賊:
ほらな!

魔女
おや、人魚。逃げるつもりかい? 無駄だよ。
「ロメコジート、ヨエラート、ヨズミノムー!」(人魚?をすくい上げ、甲板に転がす)

海賊:
人魚が、浮いた?!

魔女
ふん、そんな身体なのに無理して海に隠れるからだよ。さあて、もう逃げられないねえ。

海賊:
は? ……人の足、だな。おい、これのどこが人魚なんだよ。こいつ、人間じゃねえか! どうなってやがる。おいおめえ、まさか俺様を騙したのか?

魔女
まあ、待ちな。少々説明が必要みたいだね。何しろこの人魚は……喋れないから。

海賊:
あ? いや、人魚が喋るのかどうかも知らねえけどよ。

魔女
こいつは確かに人魚だよ。いや、正確には「人魚だった」か。ついひと月ほど前まではね。ところが、こいつは人間の男に恋したばっかりに、人間になりたがった。あんた、魔法に代償が必要なのは知っているね?

海賊:
そりゃあ、おめえにすっからかんにされたんでね。

魔女
文無しのこいつはね、魔法の代償に自分の声を差し出したのさ。もうすっかり馴染んじまったが、このわたしの美しい声が、そうだよ。

海賊:
なっ! そうだったのか!

魔女
この声で歌い放題かと思ったんだが、わたしが歌っても船乗りを狂わせることはできなくてね。癪だったから、もう一つ後払いで代償を頼んだのさ。

海賊:
本当にがめついババアだな。

魔女
もう一つは、人間の心だよ。心を奪えば、こいつの鱗は人間の足のまま。でも奪えなければ、存在自体が泡となって消えちまう、ってね。

海賊:
……つまり、この女はおめえの魔法で人間になってる元人魚ってことか。いや、信じられねえよ。おめえ、でたらめ言ってんじゃねえだろうな?

魔女
わたしの魔法は完璧だよ。人間の心を奪えないままなら、 あの月が傾くまでに、泡になるのが決まっちまってるのさ。でも、思い直したんだよ。こいつは薬の材料になるのに、みすみす泡にしたんじゃあ、勿体ないんじゃないかってね。

海賊:
……俺にどうしろって言うんだよ。

魔女
一つ。こいつに心を奪わせれば、一応こいつの命は助かるよ。ただし、この通り人間のままだけどねえ。

海賊:
今会ったばかりの女を好きになれ、なんて無理だろ。第一、人魚じゃねえなら興味もねえよ。

魔女
だろうねえ。だからもう一つ。「こいつの代わりにあんたが泡になる」。

海賊:
は?

魔女
その代わり、こいつは元通り人魚の姿に戻れる。あんたは泡になって消える瞬間に、人魚の姿を目にすることができるってわけさ。

海賊:
……ふざけんな。

魔女
おや、見たくないのかい? その目に、この世で最も素晴らしく、珍しいものを。

海賊:
俺様が消えたらその人魚はどうなる。おめえが刻んで薬の材料にでもする気だろ。この俺様を代償に使おうとは、いい度胸じゃねえか。

魔女
でもあんたは、心から求めて血眼になって探してたものをようやく目にすることができるんだ。

海賊:
その後に消えちまったら元も子もねえだろうが。

魔女
じゃあ、この話は無しだね。こいつは他の海賊に譲るとするよ。ふん、青髭なら迷わず決めただろうにねえ。

―魔女、船内へ入っていく。
 
海賊:
ちっ。あっ、おい……インゲ! ったく、どうしろって言うんだよ。
(人魚?に)なあ、よくもその姿で海に隠れてたな。真っ青で震えてんじゃねえか。……あ~、おめえは喋れねえのになんで人間になりてえと思ったんだ? 好きな男、だったか。そいつは今どこにいるんだ? ……なんて、聞いても答えられねえのにな。おめえも馬鹿だよ。悪い魔女に騙されて、おまけに悪い海賊に捕らわれちまうなんて。あの月が落ちたら泡になるんだったか。へっ、俺様には知ったこっちゃねえよ。こっち見んな。ま、せいぜい来世ではうまくやってくれよな。
(しばらく悩んだあと)……っ。は~、だめだ。らしくねえ。らしくねえけど、よ。こいつを逃したら、俺様は一生後悔するんだろうな。……おい、元人魚。ひと芝居打ってあいつを騙すぞ。どうせ乗り掛かった舟だろ。まだ生きていたいんなら、俺様の言う通りにするんだ。いいな?
 


―船室にいる魔女の元へ海賊がやって来る。
 
魔女

おや、あの人魚はどうすんだい。もう他の海賊に売り渡してもいいってことかね。

海賊:
なあ、インゲ。おめえが魔法の代償に使ったものは、二度と元には戻らないのか?

魔女
魔法の基本は等価交換さ。わたしが等しいと認めたものにのみ、価値が成立する。そして、一度使った代償はわたしのものになり、もう使えなくなるのさ。……いったい何を企んでるんだい?

海賊:
知っての通り、俺様にはもう代償になる金目のもんはねえ。それでも頼みたい場合……代償には、何が使える?

魔女
そうだねえ。それなら……あんたの目はどうかねえ。

海賊:
目、だと?

魔女
ああ。そのヘーゼルの綺麗な瞳は、わたしによく似合いそうだ。

海賊:
本当に自分のもんにしてんのか。……うえっ、冗談きついぜ。

魔女
あんたが泡にならないってなら、他に叶えたい願いでもできたのかい?

海賊:
ああ。どうせなら、あの元人魚じゃなくて、その仲間の人魚を見られねえかと思ってな。岩場におびき寄せることはできるか?

魔女
ひっひっひ。(小声で)目がなくなれば見えなくなるのに、馬鹿な海賊だねえ。
(海賊に)ああ、いいさ。やってやろうじゃないか。
「イクシーノ、メニレーワ……」

海賊:
そういえば、魔法使いが死んだら、これまでかけてきた魔法はどうなるんだ?

魔女
え? そりゃ、使い手が生きてなけりゃ、その魔法は不完全になるから帳消しに……っ! あんた、もしかして―

海賊:
(海へ向かって)今だ。人魚ども、歌え!

魔女
っ、なんだい、この頭の割れるような音は……海の中から聞こえてくる。だめだ、そっちへ行くつもりはないのに……足が勝手に動いちまう!

海賊:
(人魚?に)よくやった。声が出なくても、他の人魚と通じ合えるのか。おめえ、やるじゃねえか!

魔女
頭が、痛い。だめだ。飛び降りたらだめだ。飛び降りたら……。ギオルグ、よくも! このわたしへの恩を忘れたのかい? あんたを何度も助けてやったのは誰だい!

海賊:
あ? 耳栓のおかげでよく聞こえねえよ。なんて言ってるんだあ?

魔女
おのれ! わたしを騙した罪は重いよ。未来永劫、末代まであんたを呪って、や、る……!(船から海へと落ちていく)

海賊:
ふう……落ちてったか。
(歌う人魚達を見る)ああ……これが人魚か。綺麗だな。って、おわ! 
(人魚に戻った女が海へ飛び込む)おめえ、どこにそんな力残ってたんだよ! ……ま、そりゃあ海に帰るよな。はあ。人魚も宝も逃しちまったが……なんだかすがすがしい気分だぜ。
 
 
ー間。どこかの港の酒場で。
 
海賊:
人魚を見た、っつう大海賊の話を知ってるか? ああ、魔女に騙されてひどい目に遭わされた男の冒険譚だ。聞くってんなら、まずは百クローネ先払いだ。……毎度。あ~、ヘンリック。これちゃんと本物だよな? よし、オーケーだ。おめえ、人魚は本当にいるって知ってたか? こいつも見たことがあるんだぜ。ただし並みの人間には行けねえ。そこへ行くには七つの小島を通って、ルレオの海域に入って……。
 
 
ー間。どこかの街で、謎の女。
 
魔女

はいよ、人魚の涙の薬だ。もちろん、本物だよ。ひひっ、これで十万クローネ取り戻せたねえ、まいど。……ふう。すべて失った時はどうなるかと思ったよ。おかげで随分と長い間足踏みしちまった。それでも、この金だけは……わたしを裏切らない。ふん、可哀そうだと笑いたいなら笑えばいいさ。わたしゃ血も涙もない、悪い魔女だからねえ。ひっひっひ。

ーFin.
 

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