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蛮族たちの風刺詩(ヒジャー)

【あらすじ】


西の大国・アレス王国と長年敵対してきた東の蛮国、アル・シャンマール。彼らは、若き王・ザイドの主導により、アレス王国の捨て駒同然である第十三王女・シエナを捕らえる。蛮国の幹部たちは、ザイドへの忠誠とアレス王国への敵意を前に、人質であるシエナを巡って議論を交わすが……。
 
 
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15~20分程度。
・性転換→×
※但し、演者の性別は問いません。
・一人称、口調、語尾等変更→×
・人数変更→〇
※レイラとゼフラの双子は、セリフ量の関係で兼役ですが、分けても〇。
・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇

 

⚔登場人物⚔

アイシャ:
(アイシャ・ヴァルキーズ)(女性)
アル・シャンマールの女戦士で、若き王ザイドの右腕でもある。十年前の戦争で妹をアレス兵に殺されて以来、絶対的な復讐を誓った。人情味に溢れた姉御肌のしっかり者で、皆のまとめ役でもある。仲間からの信頼も厚く、人望があるため慕う者も多い。
 
カラム:
(カラム・ダーヤ)(男性)
アル・シャンマールの若き参謀。神出鬼没で密偵をこなす傍ら、煙幕などの開発をしている。一見気だるげでやる気がなさそうだが、何事もそつ無くこなし抜け目がない。効率重視で正面突破や面倒事は嫌う。彼なりにアル・シャンマールを誇りに思っているが、古いやり方や面子を保つことには興味が無い。
 
ラジャブ:
(ラジャブ・バスリー)(男性)
アル・シャンマールの先代王に仕えていたため、若き王ザイドを幼少の頃から親同然に見守ってきた最年長者。豪快であっけらかんとしており、面倒見がいい。炎の大剣を扱っているが、最近衰えを感じ始めた。酒好きですぐにカラムへ呑ませようとする。そろそろ一線を引こうと考え、若人に好きにさせようと頭では分かっているが、老婆心から色々と口出しする時も多い。
 
ゼフラ:
(ゼフラ・クラシー)(女性)
アル・シャンマールの医術と毒を担う。賢く冷静沈着で、どこかミステリアス。毒をこよなく愛し、研究には情熱を見せるので、暇さえあれば新種の毒を開発し、砂鼠(すなねずみ)に実験している。研究の環境を与えてくれたザイドには恩を感じており、忠実。双子の姉レイラはひそかに小馬鹿にしており、容赦ない毒舌を披露する。
 
レイラ(※ゼフラと兼役):
(レイラ・クラシー)(女性)
アル・シャンマールの弓使い。ゼフラの双子の姉。火矢を操り、気に入らないとすぐに燃やそうとする。考えるより先に身体が動き、男勝りで好戦的。短絡的であまり頭が良くない。一度敵と認識すると、テコでも動かない頑固なところがあり、感情に任せて先走ることが多い。

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R (4).jpg

ー夜。作戦を終えた一行を、ゼフラがアジトに迎え入れる。

ゼフラ:
「お帰りなさい。作戦はうまくいったのですね。」

アイシャ:
「ああ。あんたとカラムのお陰で上々さ。」

ゼフラ:
「煙幕に混ざった眠り毒……カラムに無理を言って入れて貰った甲斐がありました。いかがでしたか?」

カラム:
「成分少し強かったっすよ。俺達も覆いがなきゃどうなってたか……。」

ゼフラ:
「毒は慣れです。毎日少しずつ摂取すれば耐性もつきますから、そのうち覆いも不要になりますよ。」

カラム:
「真顔で言われると笑えないんすけど。あんた、ほんとにやりかねないんでシャレにならないっすよ……。」

ゼフラ:
「それで、敵さんは死んでしまいましたか?」

アイシャ:
「いや、あたしが見た時はまだピンピンしてたさ。あの後追ってこなかったから、その後に倒れたんだろうね。」

カラム:
「あれは気力だけで持ってたようなもんすよ。普通ならもっと早くにくたばってるっす。」

 

ゼフラ:
「さようでしたか。「くれぐれも殺さぬように」とザイド様から指示を頂きまして。殺さぬ毒を作るのは、意外と大変なのですよ?」

アイシャ:
「そうかい。そいつはご苦労だったね。ゼフラ。悪いけど、おひいさんの様子を見てやってくれないかい。ここに来るまで何も口にしようとしなかったんだ。このままじゃ弱っちまうよ。」

カラム:
「あー……念の為言っときますけど、殺しちゃだめっすからね?」

ゼフラ:
「わかっております。私は腐っても医者ですから。では、行ってまいりますね。」

カラム:
「本当に大丈夫っすかねえ。」

アイシャ:
「あの子は毒のこととなると盲目だけど、職務には忠実だよ。片割れの無鉄砲とは違ってね。」

カラム:
「大事な人質なんすから、そうじゃなきゃ困るっすよ。」

アイシャ:
「あたしらは先に合流しようか。」

カラム:
「そうっすね。……あー、なんか、騒がしいっすね。まあ大体予想はつきますけど。」

 

―アイシャ、カラム、立ち止まる。
―扉の向こうの部屋では、ラジャブが杯を片手に、レイラへ武勇伝を熱弁している。

 

ラジャブ:
「そんで、そんとき俺は言ってやったわけだ。『おめえの目は節穴か?』ってな。そしたらやっこさん、めんたまひん剥いて泡吹いて倒れてなあ……ガッハッハ! お前さんにも、あの間抜け面を拝ませてやりたかったぜ!」

レイラ:
「あっはっは! そりゃあ、ざまあみやがれってんだ。オッサン、さすがだな!」

アイシャ:
「やってるねえ。しっかし、早くも宴とは……一体どうなってるんだい?」

 

―アイシャ、カラム、部屋に入る。

 

ラジャブ:
「おう、お疲れ! お前さんたちも、もう任務終わったろ? こっちで一緒にどうだ。」

カラム:
「あー……俺、疲れてるんで寝ていいすか?」

ラジャブ:
「んなつれねえこと言いなさんな。ささ、景気づけにまずは一杯、グイっと。」

アイシャ:
「……誰だい、ラジャブに飲ませたのは。」

レイラ:
「あっ、アイシャ様! いやあ……あたしは止めたんだけどよお。違えよ、これはおっさんが勝手にやり始めたことで……。」

アイシャ:
「……ったく、あんた達ときたら。」

ラジャブ:
「いいだろいいだろ、今日くらい。何せ、作戦成功だったんだろ?」

カラム:
「なんであんたがはしゃいでるんすか?」

ラジャブ:
「そりゃあ、お前さんの手柄は皆の手柄ってな。さっ、早くここ座れや。」

カラム:
「俺をダシに飲みたいだけじゃないっすか。……手、回さないでくれます? ちょい鬱陶しいんすけど。」

ラジャブ:
「何水くせえこと言ってんだ。今日の功労者はお前さんなんだからよぉ、もっと喜べや!」

 

カラム:
「はあ……なんなんすかもう。めんどくさいっすね。」

レイラ:
「許してやってくれよ。ラジャブのオッサン、今回の作戦でザイド様に連れて行って貰えなかったのがよっぽど堪(こた)えたみたいでさあ。さっきから、ずっとこの調子なんだよ。」

ラジャブ:
「へっ。老いぼれは大人しく留守番してろってこったろ?」

カラム:
「ラジャブさんはコソコソ出来ないから、隠密行動には向かないんすよ。隙さえあれば、すぐに大剣振り回して突っ込んでいこうとするんすから……」

ラジャブ:
「あ? んじゃあ、お前さんの差し金ってわけか。んま、俺も若い頃のようにはいかねえからなぁ。それくらいは、わかってるんだけどよぉ。んでもよお、親父さんが現役だった頃は、俺だって―」

アイシャ:
「ったく、いい加減にしな。ただでさえ、アレスのおひいさんをさらってきたんだ。あんたたちにはピリピリしてもらわないと困るんだよ。」

レイラ:
「ふん、アレスなんてあたしはいつでもおととい来やがれだぜ。あつーい歓迎がてら、燃やしてやるよ。」

カラム:
「『おととい来やがれ』って、捨て台詞なんすけどねえ。」

レイラ:
「あ?  なんだよ、文句あんのか?」

カラム:
「いえ、別に。」

アイシャ:
「はいはい。そうだ、ラジャブ、レイラ、カラムも。幹部連中が揃ったことだし、少し話をしようじゃないか。」

ラジャブ:
「ははーん? 作戦成功の宴……と洒落こめねえのは、おひいさんの件かい。」

レイラ:
「例の女か。ちっ、ぬくぬくと王室育ちの王女様なんだっけかぁ?」

カラム:
「……『温室育ち』って言いたいんすか?」

レイラ:
「るせえな! 細かいことはいいだろ。」

アイシャ:
「あんたたち、静かに。ったく、なんでこんなんが幹部なんだか。確かに優秀なんだけどねえ。」

ラジャブ:
「ガッハッハッ! うちはどこぞの王国とは違って実力主義だからなあ。」

カラム:
「あっちは血統重視っすからねえ。」

アイシャ:
「なら、そこの王女様が邪険にされてる理由って何なんだろうねえ。」

カラム:
「おんぼろ馬車に護衛も一人じゃ、なんか変すよね。」

レイラ:
「十三番目なんだっけかぁ? へっ、王様も頑張るねえ。」

カラム:
「王子も合わせたら三十人近くいるっすよ。」

レイラ:
「うえっ、ハーレム作ってんのか。ったく、いつの時代だよ。アレス王って確か、もういい歳こいた爺さんなんだろ?」

ラジャブ:
「まあ、そんだけたくさん子供が居たら、好き嫌いやえこひいきなんてのも出てくるだろうなあ。親と言えども、人間だ。ま、俺には理解出来ねえ話だぜ。」

アイシャ:
「そうだねえ。でも、あの子は目つきは悪いけど、綺麗で利口そうな子だったよ。ちっとばかし気は強いけどねえ。」

カラム:
「気が強いなんてもんじゃないっす。あれはとんだじゃじゃ馬っすよ。……ザイド様があそこまで興味を持つのは、正直意外でしたけどね。」

レイラ:
「ふーん。アレスの女が珍しいだけじゃねえか? ザイド様は女の趣味があんまし良くねえんだな。」

アイシャ:
「こら、レイラ。それにしても……はったりかもしれないが、自分をさらっても何の役にも立たないなんて……話が違うんじゃないかい?」

ラジャブ:
「なんだなんだ、まさか偽物をつかまされたってかあ? おいおいカラム、どうなってんだよ。」

カラム:
「いや、そんなことは無いはずなんすけど……なんかめんどくさいっすね。交渉の道具にするんじゃなかったんすか?」

レイラ:
「交渉……『人質』ってやつか。」

カラム:
「今度は正解っすね。」

レイラ:
「てめ、バカにしてんのか!」

ラジャブ:
「未婚のおひいさんはあの子だけなんだろ? アレスだってこれから政略に使おうって時なのに、そう簡単に手放すもんかねえ。」

アイシャ:
「あたしもそこが引っかかってるんだよ。おひいさんには謎が多すぎる。……カラム。あんた、あの情報をどこの誰から買ったんだい。あんなに正確に、馬車の通る場所と時間がわかるなんて、一体どんなツテを使ったんだか。」

カラム:
「アレスの辺境にある、場末の酒場っすよ。そこのアレス人から。筋は確かっす。」

レイラ:
「はっ、アレス人か。よくあんな奴らと話そうなんて気になるよな。あいつらがあたしらをなんて呼んでるか知ってるか? 『蛮族』だってよ。十年前自分らが何したのかきれいさっぱり忘れちまってんだ。ったく、反吐が出るぜ。」

ラジャブ:
「そりゃあ、俺たちの時代からそうだぜ。自分とこの歴史はきれいさっぱり正論かざして、俺たちはてんで悪者扱い。ま、アレス王国の教育成果ってやつだな。」

カラム:
「まあその辺、俺は任務のためなら割り切れるっすよ。」

レイラ:
「はっ、あたしは無理だな。あいつらを見たら、すぐに燃やしちまいそうだぜ。」

カラム:
「んなことしたら情報も貰えないし面倒じゃないすか。俺はそんな馬鹿じゃないっすよ。」

レイラ:
「んだと。てめえ、あたしがバカだって言いてえのか。」

カラム:
「……はあ、めんどくさ。自分で考えてみたらどうっすか?」

レイラ:
「てめえ……いい度胸してんじゃねえか。」

ラジャブ:
「おいおいお前さんたち、いい加減にしとけ。今は争ってる場合じゃねえだろ。」

アイシャ:
「そうだよ、カラム。あんたにはまだ聞きたいことがある。……情報の対価には、何を払ったんだい?」

カラム:
「……。」

レイラ:
「だんまりかよ。なんか後ろめたいことがあるんだろ。」

アイシャ:
「レイラ、話を遮るんじゃないよ。」

レイラ:
「……ちっ。申し訳ありません。」

ラジャブ:
「アレス人ならシャンマールの金を渡しても無用だろ。お前さん、何をやったんだ?」

アイシャ:
「その見返りは……あたしたちシャンマール側の、情報だね?」

カラム:
「……っ。」

レイラ:
「はあ?! てめえ、仲間売ったってことか?」

アイシャ:
「レイラ、落ち着きな。まだそうと決まったわけじゃない。」

レイラ:
「けど! いくら優秀っつっても、やっていい事とわりい事があるだろ。こいつはタブーを破った。その落とし前はきっちり付けなきゃなんねえよな?」

ラジャブ:
「それを決めるのは、悪いけど嬢ちゃんじゃねえな。カラム、正直に話してみな。俺はお前さんが考え無しじゃないってことはよ~く分かってる。お前さんにも、何か考えがあってのことなんだろ?」

カラム:
「……確かにアイシャさまの仰る通りっすよ。俺は情報を交換しました。」

レイラ:
「んだと?! てめえ、燃やしてやる!」

アイシャ:
「レイラ、いい加減にしな。騒ぐならつまみ出すよ。」

レイラ:
「……けっ!」

ラジャブ:
「お前さん、なんの情報を渡した? 正直に言ってくれれば善処するぜ。」

カラム:
「……はあ。ガセの情報っすよ。その辺はちゃんと心得てますから、ご心配なく。」

アイシャ:
「カラム。あたしが聞いてるのはなんの情報か、だ。その真偽を問うてるんじゃないよ。」

カラム:
「……偽の地図を渡したんすよ。なんか騎士が血眼になって探すだろうから、って。」

アイシャ:
「ああ……おひいさんにご執心の犬っころか。」

ラジャブ:
「なんだ? そいつは。」

カラム:
「護衛騎士っすよ。」

ラジャブ:
「へえ。そりゃ仕事熱心でご苦労なこった。」

アイシャ:
「なるほどね。馬車の通る場所と時間を教える見返りとしてかい。あんなにも正確な割に、他の情報は少ない。するとその情報源は……おひいさんにかなり近い人物なんだね?」

カラム:
「それは、口止めされてるんで言えないっす。」

レイラ:
「そーいやてめえ、アレスの出身だってのは本当か?」

カラム:
「今は関係ないっすよ。」

レイラ:
「あーっ! そっか。だからアレスに肩入れしてんだな?」

カラム:
「……さっきから何すか?」

レイラ:
「てめえ、あたしらを裏切ってんだろ。」

カラム:
「仮にそうだとしても、認めるわけないじゃないっすか。」

レイラ:
「んだと!」

カラム:
「めんどくさいっすね。使えるものはなんでも使えばいいじゃないっすか。効率悪いっすよ。」

―レイラ、番えた矢の先をカラムに突きつける。

 

レイラ:
「見損なったぜ、このクソ野郎!」

ラジャブ:
「……やめろ。酒が不味くなるだろうが。」

アイシャ:
「レイラ、弓を置きな。仲間内でやり合ったって不毛だよ。」

レイラ:
「……ちっ。気分悪ぃ。あたしはちょっと見張りがてら出かけてくるよ。」

ラジャブ:
「そうしな。嬢ちゃんはべっぴんさんだってのに、激しやすいのが玉に瑕だ。少し頭を冷やしてこい。」

レイラ:
「わかったよオッサン。……アイシャ様。こいつ、気をつけた方がいいぜ。こんな奴、裏切り者に決まってる。」

 

―レイラ、退室する。
―間

 

カラム:
「あー、参ったっすね。そんなつもりは無かったんすけど……なんかギスギスしちまったすっね。」

アイシャ:
「結局、情報源は明かせないのかい。」

カラム:
「今はちょっと……すみません。」

ゼフラ:
「あら。でしたら、こちらを試してみますか?」

―入れ替わりにゼフラが入ってくる。

アイシャ:
「ああ、ゼフラ。おひいさんはもういいのかい?」

ゼフラ:
「ええ、今はお休みになってます。」

カラム:
「永遠に、じゃないといいっすけどね。」

アイシャ:
「シャレにならないことを言うんじゃないよ。ザイドもそこにいるんだね?」

ゼフラ:
「ええ。ご心配されているようです。」

ラジャブ:
「なんだよ、あいつが他人に興味を持つなんて珍しいな。しっかしよお。人質に使えないとなると、どうするつもりなんだか。」

カラム:
「ザイド様なら一か八かやってみるんじゃないんすかね。で、俺の疑いは晴れたんすか?」

 

アイシャ:
「とりあえず今は保留だ。ザイドにはあたしから報告しておくよ。あとはレイラの気が済むといいけどねえ。」

ゼフラ:
「またあの子が引っ掻き回したようで……不出来な姉に代わり謝罪にまいりました。この『あけすけの毒』を持って。」

ラジャブ:
「おいおい、嬢ちゃん。また新種を開発したのか。」

ゼフラ:
「これは必ずや皆様のお役に立てるかと。飲めばなんでも自白したくなる不思議な薬です。」

カラム:
「あんた、さっき『毒』って言ってなかったっすか?」

ゼフラ:
「『薬』です。」

アイシャ:
「薬に頼るのもいいけど、優秀な密偵を亡くすのは惜しいからね。」

ラジャブ:
「失敗作っていう前提か。手厳しいなあ。確かに嬢ちゃんのそれは博打みたいなもんだけどな。」

ゼフラ:
「あら、ダメですか。砂鼠 (すなねずみ)への実験は、大成功だったのですが。」

カラム:
「あんた、砂鼠から何を聞いたんすか……。」

アイシャ:
「あいにく今は必要ないよ。カラムはあたしたちの仲間だ。そうだろ?」

カラム:
「そうっすよ。俺はアル・シャンマールに誇りを持ってるんすから、こんな茶番やめてくださいよ。」

ラジャブ:
「うおおおお! やっぱそうこなくっちゃな。偉いぞ、坊主!」

 

―ラジャブ、カラムの背中を叩く。

 

カラム:
「……痛いっす。」

ゼフラ:
「あら、そうでしたか。せっかくの毒を試せなくて残念です。」

アイシャ:
「ふふ、杞憂だったようだねえ。けど、カラム。万が一の時は……わかってるだろうね?」

 

カラム:
「もちろんっすよ。ま、そんな万が一はないんで安心してください。ってなわけで、俺は寝てきます。」

ラジャブ:
「おいおい、俺の酒が飲めねえってか? 冗談だろ。」

カラム:
「勘弁して欲しいっすよ。」

アイシャ:
「カラムは疲れてんだ。寝かせてやりな。」

ゼフラ:
「レイラには私の方からもお灸を据えておきます。それでは、ごゆっくり。」

 

―カラムとゼフラ、退出。

 

ラジャブ:
「どうした、浮かない顔して。カラムは大丈夫だろ。信じてやってくれよ。」

アイシャ:
「ま、何かあったらその時はその時さ。にしても、大丈夫かねえ、ザイドの方は。」

ラジャブ:
「そうだなあ。あいつは王のくせに情け深い。血を流すことをためらってるんだろうなあ。仲間も、敵すらも。ガキの頃から変わってねえんだ。そこがあいつの良いとこでもあるけど……まさか、王の器じゃねえってか?」

アイシャ:
「そういう訳じゃないけどさ……ザイドは情けをかけすぎるんだよ。アレスが相手だってのに。」

ラジャブ:
「ザイドだって親父さんが身体を悪くしたのは、あの戦争のせいだからなあ。あいつも、それを忘れたわけじゃねえだろうよ。」

アイシャ:
「わかってるさ。……十年前の戦争で、あたしたちは家族を殺された。あの日から今まで、一秒たりとも生きた心地はしなかったよ。少なくともあたしは、妹を殺したアレスを許す訳にはいかないね。」

ラジャブ:
「あいつは優しすぎるからなあ。表には出さないように頑張ってるんだろうが……。だからこそ、あんな悲劇はもう二度と起こさないように必死なんだよ。ただ、おひいさんがその役に立つかってとこだな。」

アイシャ:
「そうだね。まあ、あの子が貴重な情報源であるには変わりないさ。あたしもおひいさんと話をつけてくるよ。彼女が何を考えてるのか。そして、自分の国を……あたしたちの国をどう思っているのか。」

ラジャブ:
「お前さんには苦労かけるねえ。……よし。老いぼれも老いぼれなりに、ない知恵を絞ってみるさ。」

アイシャ:
「ああ。頼んだよ。」

ラジャブ:
「全てはアル・シャンマールのために……だな。」

アイシャ:
「あたしらは蛮族じゃない。れっきとした同じ人間だよ。……それをわからせてやらなきゃね。」

 

―Fin
 

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