男:
「それで、どうしたんだよ。いきなり電話なんか」
女:
「今から……家に来て欲しいの。」
男:
「は、はぁ?! なっ、なんでそんな、急に―」
女:
「それで、こう言って欲しいの。……『トリック・オア・トリート♡』って。」
男:
「期待して損したよ。んだよ、ガキじゃあるまいし。」
女:
「はぁ?! 今日は楽しい楽しいハロウィンなのよ。それなのに、この私が腕によりをかけて作ったグラブ・ジャムンをいらないって言うの?」
男:
「グラブ……? 何だ、それ。ハロウィン、てことはお菓子か? いやいや、勘弁してくれよ。俺が甘いもの苦手なのは知ってるだろ?」
女:
「知ってるわよ。」
男:
「なら、なんでよりによってこんなド平日に、片道一時間もかかるお前の家までわざわざ嫌いなものを取りに行かなきゃいけないんだよ!」
女:
「あら、いらないということは……悪戯をご所望、ということかしら?」
男:
「なんでそうなるだよ。誰が行くか、ボケ!」
女:
「え~、本当にいいのかしら? この日のために腕によりをかけたのは……何も、グラブ・ジャムンだけじゃないのよ?」
男:
「と、言いますと?」
女:
「とびっきりの仮装もしているの。」
男:
「いや、なんでお前がしてるんだよ。普通は訪問する側だろ。」
女:
「なら、あなたがしてくれるの?」
男:
「サラリーマンのコスプレなら、ワンチャン」
女:
「あなた、ハロウィン舐めてるわね?」
男:
「なんか、すみません。」
女:
「とりあえず私のすごい仮装、見たくない?」
男:
「すごい、仮装……?! み、見たいです!」
女:
「じゃあ、待ってるから来てね♡」
ー(少し間)
-インターホンが鳴り、ドアが開く。
女:
「ハッピーハロウィーン!」
男:
「いやいやいやいやいや、ちょっと待て。おかしいだろ。確かにすごい仮装とは言ってたけど……なんでカボチャの着ぐるみ? え、もしかしてハロウィン舐めてる?」
女:
「それをあなたが言う? 何よ、カボチャ可愛いのに。」
男:
「確かによく見たら、っていうかお前は元々可愛……じゃなくて! ほら、もっと魔女とかナースとか、なんか、こう……他にもいろいろあっただろ?!」
女:
「なんでよ、カボチャ可愛いじゃない! いい加減にしないと、お菓子あげるわよ!」
男:
「もはやトリック・オア・トリートの意味をなしていないんですが。……えっと、この丸いお菓子はお前が作ったのか。」
女:
「そうよ。文句ある? やっぱり悪戯の方が良かったかしら?」
男:
「いや、素直に嬉しいかも。ありが……(一口食べて)あっま!! 甘すぎる!」
女:
「そりゃ、グラブ・ジャムンだからね。」
男:
「ずっと思ってたけど、ナニコレ……?」
女:
「世界で一番甘いインドのお菓子よ。ドーナツのシロップ漬け。」
男:
「ただの嫌がらせじゃねえか!!」
ーFin