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ー(城の前)


リュシアン:

兄上。いえ、団長。これほど早いご出立になるとは、思ってもみませんでした。」
アルヴィン:

王令により、国境の演習に参っていたのだ。」
リュシアン:

この度のご加勢、大変心強く思います。」
アルヴィン:

お前のためではない。陛下のご意向だ。蛮族が狼藉を働いたのなら、粛清するのが筋というもの。」
リュシアン:

では、宣戦布告ということになるのでしょうか。」
アルヴィン:

いや、そのような儀礼など不要だ。」
リュシアン:

……どういう事ですか?」
アルヴィン:

「王女殿下をさらったという貴様の言い分に従えば、奴らが殿下を生かしている保証はない。」
リュシアン:

「しかし、まだそうと決まった訳では……!」
アルヴィン:

「戯言を。何を惚けている。奴らは蛮族。今頃殿下の命はないと思っておいた方が良い。」
リュシアン:

「それでは……宣戦布告もなしに、攻撃を始めるのですか?」
アルヴィン:

「非はあちらにあるのだからな。仇は必ず討とう。蛮族など、この手で葬り去ってくれようぞ。」
リュシアン:

「兄上……奴らは姫様を人質にすると。丁重に扱うと申しておりました。恐らくは……まだ生きておいでかと。」
アルヴィン:

「何を腑抜けたことを。蛮族の言葉を信じるつもりか。既に殿下はなぶりものにされたはずだ。」
リュシアン:

「なっ……!」
アルヴィン:

「確か、貴様は殿下の護衛騎士であったか。さぞ残念だったな。弔い合戦と言うなら、我が隊へ加わることを許そう。」
リュシアン:

「団長、早計すぎます!」
アルヴィン:

「皆の者、続け!皆殺しだ。女子供にも容赦はするな。」
リュシアン:

「……っ?!お待ちください。いくら何でも……。それでは、俺たちの方が、まるで―」
アルヴィン:

「なんだ。文句でもあるのか?」
リュシアン:

「……いえ。なんでも、ありません。」
アルヴィン:

「全く、甘いところは変わっていないようだな。シャンマールでは女子供でも武器を持ち、戦うのだぞ。情けをかけて生かしておけば、後々面倒な事になる。この蛮族の根城にいる者は、誰であろうと根絶やしにせよ、とのお達しだ。余計な口出しをするな。」
リュシアン:

「……出過ぎた真似を。申し訳ございませんでした。しかし―」
アルヴィン:

「文句を垂れる暇があるなら、戦え。邪魔だけはするな。」

 

ー(城内の一室)


ザイド:

「見えるか?あれが姫君を奪還に来たという援軍だろう。表向きは、な。」
シエナ:

「……あんな数をわざわざ私のために寄越すなんて。どういうことなの?」
ザイド:

「こちらの寄越した文(ふみ)を無視し、兵を向けるとは実にアレスらしいやり方だ。このまま布告もなしに、攻め込むつもりか。」
シエナ:

「……私を使えばいいじゃない。」
ザイド:

「なんだと?」
シエナ:

「彼らは私を取り戻しに来たんでしょう?なら、私を返す代わりに撤退してもらえばいいわ。交渉に私を使う。それが、あなたたちの目的なんでしょう?」
ザイド:

「それが出来る相手なら、な。だが、こちらの使者は殺され、文も破られた。どうやら、かえって奴らに攻め込む口実を与えてしまったようだな。」
アイシャ:

「奴ら、おひいさんがここにいる、って本当にわかってるのかねえ。」
ザイド:

「あちらが攻め込むなら、迎え撃つまでだ。」
アイシャ:

「殺してもいいんだろうね?」
ザイド:

「致し方ない。」
アイシャ:

「そうかい。さ、戦だ。おひいさんはゼフラの所にいるんだ。いいね?」
シエナ:

「……戦争?あなたたちはどうなるの?」
ザイド:

「運が良ければ、生きてまた会おう。行くぞ、アイシャ。」
アイシャ:

「おひいさんは何も心配することは無いよ。あたしたちは強いんだ。アレスには悪いけど、コテンパンにやっつけるからね。」
シエナ:

「……。」


ーザイドとアイシャ、出ていく。
ー(間)


シエナ:

あいつらは蛮族じゃない。何を心配するようなことがあるの?それに、もしリュシアンが援軍を呼んで助けに来てくれているなら。……でも、それなら、あの人たちは死んでしまうの?……いえ、私には関係ないわ。あの人たちがどうなったって。でも、わからない。私は、どうすれば……。

 

 

ー(間)
ー(城門)


アルヴィン:

「門を突破しろ。方々に火をつけろ。弓部隊をやれ!女であろうと構わん、殺せ!」
リュシアン:

「団長!」
アルヴィン:

「何をしている。戦わないなら失せろ。士気が下がる。目障りだ。」
リュシアン:

「……俺は姫様を探しに参ります。どうか、お許し下さい。」
アルヴィン:

「愚か者め。待て、リュシアン!」

 


ー(間)
ー(城内)


ザイド:

「カラム、戦況は?……弓部隊が苦戦しているか。なにぶん数が多い。煙幕で翻弄しろ。ラジャブ、奴らの武器は?鉄の塊……壁の一部が崩れたか。何としてでも防げ!」
アイシャ:

「(負傷した仲間に)あんた、ひどい傷だ。大丈夫かい?すぐにゼフラのところへ行くんだ。いいね?ああっ、畜生!どうやら、入り込んだネズミがやったようだね。」
ザイド:

「乱入してくる奴らを止めろ。混乱毒はどうなっている?」
アイシャ:

「外の奴らには、レイラたちが吹き矢を放っているよ。あとは中に入り込んだ奴らを始末しないと。」
ザイド:

「いくら叩いてもキリがないな……。」
アイシャ:

「容赦するんじゃないよ!」
ザイド:

「ああ、わかっている!ここの指揮は任せろ。お前たちは、中へ紛れ込んだ奴らを!」

 

 

ー(間)
ー(城内の一角)


アイシャ:

「こりゃまた随分と派手にやってくれてるじゃないか。さて、どこへ行ったんだか。」
リュシアン:

「……お前は。」
アイシャ:

「おや。誰かと思ったら、あんた、おひいさんの犬っころかい。」
リュシアン:

「姫様はどこだ!」


ーリュシアン、アイシャに切りかかる。以降、剣を交えながら。


アイシャ:

「っ!あんた、久々の挨拶がそれかい?随分と礼儀がなってないんだねえ。」
リュシアン:

「黙れ!……早く姫様の居場所を教えろ。さもなければ、命はないと思え。」
アイシャ:

「だあっ!ったく、いい加減にしな。」
リュシアン:

「姫様は……生きていらっしゃるのか。」
アイシャ:

「何を当たり前のことを言ってるんだい。生きてるに決まってるよ!」
リュシアン:

「(独り言のように)……蛮族の言うことだ。姫様が生きていて欲しいから信じるというのか?しかし―」
アイシャ:

「何をよそ見してるんだい。あたしはこっちだよ。―はあっ!」
リュシアン:

「ぐっ!……それでも。俺は、姫様を守ると……!」
アイシャ:

「わけのわからないことを、ごちゃごちゃと言ってるんじゃないよ。こっちは忙しいんだ。とっととお仲間を連れて失せな。」
リュシアン:

「それは……できない。」
アイシャ:

「はあ?あんたの仲間じゃないのかい?」
リュシアン:

「俺にそんな権限はない。」
アイシャ:

「騎士さまも下っ端ってことかい。ったく、使えないねえ。」
 

ーアイシャ、遠くにシエナを見つける。


アイシャ:

「……っ!なんであんなところにおひいさんが。まずい!」
リュシアン:

「……姫様?」

 

ー(間)
ーシエナ、何者かに導かれて外に出ている。


シエナ:

「オルコット卿?どこに行ったの?ここに来ればリュシアンに会えるって……本当なのかしら?……あちこちで轟音がする。これが……戦争なのね。アレスに戻ったら、私はお父様に良いように使われるだけ。ここの方が……。いえ、そんなことはないわ。早く助けてもらわないと。」


ーリュシアンを探しに来たアルヴィンがやって来る。


アルヴィン:

「どいつもこいつも、ウジ虫のように沸いてくる……鬱陶しいこと極まりないな。」
シエナ:

「……っ!あなたは―」
アルヴィン:

「シャンマールの女か。見たところ戦士ではないようだが……。」
シエナ:

「私はシエナ。シエナ・ヴェルレーヌ。アレス王国第十三王女よ。もしかして私を助けに―」
アルヴィン:

「蛮族も知恵をつけたな。殿下の名を騙る不届き者め。」
シエナ:「……え?」
アルヴィン:

「生かしておいて、後々復讐を企てられたら面倒だ。今ここで始末しておこう。」


ーアルヴィン、シエナに剣を向ける。


シエナ:

「―ひっ!違う、私は本当にアレス人なの。ここに捕らわれてて、それで―」
アルヴィン:

「貴様が誰かなど、どうでもいい。」
シエナ:

「……なん、ですって?」
アルヴィン:

「ここに居るものは誰であろうと構わん。すべて皆殺しにせよ、というのが陛下のご命令だ。」
シエナ:

「そんな!違う、やめて。私はシエナ!陛下の娘なの。信じて!殺さないで!」


ーアルヴィン、シエナに剣を振り下ろそうとする。


アルヴィン:

「はっ!」
シエナ:

「いやーー!!」


ーすんでのところでリュシアンが剣で受け止める。


リュシアン:

「―やめろっ!」
シエナ:

「……リュシアン?」
アルヴィン:

「どういうつもりだ。」
リュシアン:

「それはこちらの台詞です。姫様、今のうちに―」
アルヴィン:

「そこをどけ。どうした。目を覚ませ、リュシアン!」
リュシアン:

「兄上。その方は確かにシエナ殿下です。剣を向けるなどとは……にわかには信じ難い。何か勘違いされているようですが、今すぐおやめ下さい。」
アルヴィン:

「これは陛下のご意向だ。」
リュシアン:

「姫様を殺すことが、ですか?」
アルヴィン:

「ここにいる者は王女を語るものであろうと構わん。殺せ、とな。」
リュシアン:

「なぜ?この方は本当に―」
アルヴィン:

「『王女殿下は奪われ、殺された。我らは復讐のため、蛮族に立ち向かう。』」
リュシアン:

「それが……陛下の描いたシナリオか。」
アルヴィン:

「貴様には関係のない話だ。」
リュシアン:

「……いくら命令と言えど、俺は従えません。」
アルヴィン:

「なに?」
リュシアン:

「俺は姫様の護衛騎士です。」
アルヴィン:

「……貴様!王女殿下の護衛騎士なんぞに選ばれて、自惚れよったか。我々が仕えるお方は誰だ?陛下だろう。それを勘違いしてどうする。」
リュシアン:

「……っ。」
アルヴィン:

「これが最後の警告だ。そこをどけ。どかぬなら……わかっているだろうな?」
リュシアン:

「……どきません。」
アルヴィン:

「なるほど。それが貴様なりの正義というやつか。」
リュシアン:

「はい。俺の正義は、姫様を命に代えてもお守りすることです。」
アルヴィン:

「そうか。お前とは戦いたくなかったが、致し方ない。……弟が間違えたなら、正すのは兄の役目だ。」
リュシアン:

「俺は間違いなどとは思っておりません。」
アルヴィン:

「それ以上戯言を申すな。……次は本気で討つ。あとは……お前の剣に聞いてやる!」


ーアルヴィン、リュシアンに切りかかる。以降、剣を交えながら。


アルヴィン:

「うおおおおお!」
リュシアン:

「ぐっ!なぜ兄上は……このようなことを。本当に、陛下の望みなのですか?」
アルヴィン:

「私が陛下の命令に背くはずがなかろう!」
リュシアン:

「なっ……!いくら陛下でも、こんな横暴を許されていいはずがない!」
アルヴィン:

「黙れ。歯向かうなら切り捨てるぞ!」


ーアイシャ、シエナに駆け寄る。


アイシャ:

「おひいさん!大丈夫かい?」
シエナ:

「(動揺して)……あっ!あっ……なんでリュシアンと騎士団長が?ど、どうして私を?」
アイシャ:

「おひいさん、落ち着きな。あの男に切り掛かられていたけど……まさかあいつ、おひいさんのことを知らないのかい?」
シエナ:

「わからないわ。でも、これは陛下の―お父様の意向だって。……なんで?私は……娘なのに。」


ー騒ぎを聞きつけたザイドもやってくる。


ザイド:

「なんだ、これは。……仲間割れか?」
アイシャ:

「ザイド!あの男が、おひいさんを殺そうとしたんだよ。」
ザイド:

「話は後だ。アイシャ、姫君を頼む。」
アイシャ:

「わかった。任せな。おひいさん、こっちだ!」
シエナ:

「で、でも……!」

 

ーリュシアンとアルヴィンは、斬り合いを続けている。


アルヴィン:

「うおおおおおお!」
リュシアン:

「はあっ!……さすがにお強い。」
アルヴィン:

「ふん。貴様は護衛騎士なんぞに現(うつつ)を抜かす間に……腕がなまったようだな。」
リュシアン:

「くっ……。まだまだ!うおおおおお!」
アルヴィン:

「ふん、甘い!はあああああ!」


ーザイドが二人の間に割って入る。


ザイド:

「―おい。仲間割れならよそでやってくれるか。迷惑だ。」


ーリュシアンとアルヴィン、動きを止める。


アルヴィン:

「貴様は……?」
リュシアン:

「お前は、確か……ザイド、だったか。」
ザイド:

「案ずるな、騎士。いや、リュシアンと言ったか。姫君の身はこちらで預かろう。」
リュシアン:

「なっ……!何を勝手なことを―」
アルヴィン:

「リュシアン。蛮族の言うことを信じるのか?」
ザイド:

「その男は姫君を殺そうとした。お前が今ここで彼女を引き受けたところで、そいつから守れるのか?」
リュシアン:

「それは……。」


ーアルヴィン、ザイドに向き直る。


アルヴィン:

「貴様が蛮族の首領か。」
ザイド:

「なるほど、お前があの者たちの頭(かしら)か。自国の兵すら制御出来ないとは、哀れなものだな。して、こんなところで呑気に争っていていいのか?あちらを見てみろ。皆、戦どころではないようだが?」
アルヴィン:

「……っ!」
リュシアン:

「……っ!」


ーリュシアンとアルヴィン、アレスの騎士たちの様子がおかしいことに気づく。


リュシアン:

「隊が乱れている。それどころかふらふらと……敵味方の区別もついていないのか?」
ザイド:

「ようやく効いてきたか。混乱毒は体内を回るまで時間がかかる。あいつら、仲間内で殺し合いを始めたぞ。よもやお前たちも、毒に侵されているのではあるまいな?」
リュシアン:

「なんだと。小癪な真似を!」
アルヴィン:

「ふん、そういうことか。一度撤退するぞ。来い、リュシアン!」
リュシアン:

「お待ちください。俺は姫様をっ!」
アルヴィン:

「無駄な討ち死にを増やす気か。早く引き上げるぞ。」
リュシアン:

「そんな!それでは……姫様が。」
アイシャ:

「この子を殺そうとした奴らに引き渡すわけないだろう。行くよ、おひいさん。」
シエナ:

「……リュシアン。ごめんなさい。私のことは、いいから。」
リュシアン:

「―姫様!」
アルヴィン:

「まあ、よい。これは挨拶がわりだからな。次までには……首を洗って待っていろ、蛮族ども!」


ーリュシアンとアルヴィン、退却する。

 

ー(間)
ー彼らが引き上げてから。


ザイド:

「姫君、もう安心しろ。奴らは撤退を始めたようだ。」
シエナ:

「……そう。」
アイシャ:

「あの男……おひいさんに剣を向けてたけど、何か心当たりはあるのかい?」
シエナ:

「そんなの、あるわけないじゃない。まさか……私を殺した方が、アレス王国にとっては都合が良いということなの?」
ザイド:

「人質が殺された。それも一国の王女だ。あちらにしてみれば、周辺国からの非難を浴びずに、攻め込む大義名分が出来る。たとえそれがでっち上げであっても、な。」
シエナ:

「……そんな。」
ザイド:

「気落ちするな、と言うのも無理な話だ。泣きたいなら泣くといい。」
シエナ:

「泣いても何も変わらないわよ。子供じゃないんだから、そんなことするわけないでしょ。同情は……結構よ。」
アイシャ:

「またそれかい。本当に強情だね。……ぷっ。あっははははは!」
シエナ:

「なっ、何がおかしいのよ。」
アイシャ:

「いや、さ。あんた……誰に似てるかと思ったら、死んだ妹に似てるんだね。その負けん気の強いところも、妙に冷めたところも。なんか、急に思い出しちまったよ。」
シエナ:

「……亡くなった、と言っていたわね。」
アイシャ:

「ああ。十年前に、アレス兵に殺されたんだ。まだ十歳だったのにさ。そういえば、生きてればちょうどあんたくらいだったかね。」
ザイド:

「十年前、ここカティーフに突然攻め入ったのがアレス王国だった。女子供も構わず虐殺し、町中に火をつけ、ここは廃墟になった。」
シエナ:

「……そんな酷いことを。本当に、アレスがやったの?」
アイシャ:

「ああ、間違いないさ。アレスの国旗と、あの甲冑、それにマントの紋様。この目にしかと焼き付いているよ。……思い出したくもない記憶なのにね。あたしは隠れてガタガタ震えて……妹を見殺しにしたんだ。ただ見ていることしかできなかった。笑っちゃうね。自分の命の方が惜しかったんだよ。」
ザイド:

「あれは戦ではない。布告もなしの一方的な略奪と蹂躙に、俺たちは苦しめられた。それだけだ。」
シエナ:

「……それは、その。……お気の毒、だったわね。」
ザイド:

「なんだ。同情してくれるのか?」
シエナ:

「別に。余計なお世話だったかしら。でも……今日わかったわ。お父様なら確かにやりかねない。あの団長の言葉が本当なら、実の娘を戦争の口実に殺そうとするくらいだもの。アレス王国は、私が思っていたよりも、よっぽど酷いことをしていたのね。」
アイシャ:

「あーあ。なんでこんなことを話しちまったんだろうね。あんたはアレスの王女様。にっくき敵だってのに……皮肉なもんだねえ。でも、わかってるんだ。殺したのはアレス兵であって、あんたじゃない。あんたは本当になんにも知らなかっただけなんだね。そう思ったらかわいそうになっちまってさ。」
ザイド:

「俺たちはお前に、十年前の戦争の真実を知ってもらいたかった。捻じ曲げられたアレス側の歴史ではなく、な。」
アイシャ:

「そうだよ。憎むべきなのは、あたしらを侵略しようとするアレス王だ。……あんたのことは決して悪いようにはしないさ。約束するよ。」
シエナ:

「……でも、私には何の力もないって、わかったでしょう?騎士団長が殺そうとするくらいだもの。ここにいても交渉の道具にもならないどころか、あなたたちの足を引っ張りかねないわ。」
ザイド:

「少なくともここなら、命の保証はある。無理やり嫁がせるようなこともない。それでも出ていくと言うなら、止めないがな。」
アイシャ:

「ま、あんたがザイドと一緒になりたい、っていうなら大歓迎だけどね。」
ザイド:

「……はっ?おい、何をバカげたことを―」
シエナ:

「そうよ、誰がこんな奴と。こっちから願い下げだわ!」
アイシャ:

「ぷっ……あはははっ!あんたたち、案外気が合うじゃないか。なあに、ほんの冗談だよ。」
ザイド:

「全く……。まあ、これからどうするかは、姫君がじっくり考えるといい。ただ、ここはしばらくの間、戦場になるだろう。そこも含めて、よく考えることだな。」
シエナ:

「……わかったわ。


ー(間)


シエナ:

リュシアンは私と一緒に来ることを望んでいたけど……今はあっちに戻ることが怖い。お父様に何をされるかわからないなんて。悲しいを通り越して、わけがわからないわ。私は本当に、ただの捨て駒だったのね。それでも、悲しんでばかりはいられない。私は……これから、どうすればいいのかしら。

 

ーFin​
 

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