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サクサクとしたパイ生地の中身はスカスカで何も無い。そこに甘いだけの生クリームとイチゴを重ねる。中身のないパイ、甘ったるいクリーム、水っぽいイチゴ。
そうやっていくつにも積み重なったミルフィーユは、一気に頬張ることは叶わず、少しフォークを入れただけでボロボロと崩れてしまう。
まるで、私たちみたいだ。
ずっと言いたかったのに言えずにため込んできた言葉。それがひとつ、ふたつと重なっていくうちに、重さに耐えきれずに崩れるのが先か、自らのフォークで突き崩すのが先か。
あるいは、空虚な言葉も甘い約束も、自分の涙すらも全て咀嚼(そしゃく)して飲み込んでいたら、何か違っていたのだろうか。
いや、きっと……何も変わらないだろう。
「もう終わりにしましょう」
銃口を向け引き金を引くように。あるいは心臓にナイフを突き立てるように、フォークを振り下ろす。
ざくり。鈍い音と共に、血のように染み出すイチゴ。流れ出すクリームはさながら泡を吹いているかのようだ。パイ生地はボロボロと無惨に散らばり、皿を汚す。
これで良かったんだ。
たとえフォークを入れなくても、遅かれ早かれ、きっといつかは崩れていた。
ずっと言えなかった一言を彩るのは、美しさの欠けらも無い残骸。
これで、終わりだ。
さよなら、ミルフィーユ。
ーFin
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