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アンドロイドの恋

【あらすじ】

 

今よりも少し先の未来。アンドロイドと呼ばれるロボットが人間社会に溶け込み、共に生活しつつあった。優しい主人の元に迎えられたアンドロイドは感情を知り、やがて主人へ恋をする。

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・20~30分程度。

・一人称、語尾変更、アドリブ→○
・性転換→○

※「」内はシステム音声です。

※機械らしく読むか、人間らしく読むかは、各々の解釈に委ねます。

【登場人物】

アンドロイド:

(性別不問)
家事、会話機能などを備え持った高性能のロボット。※○○○には、演者様のお名前をお使いください。

以下、兼役
・「TVのニュースキャスター」…アンドロイドの主人宅で流れるTVのニュースキャスター。
・「宅配業者」…アンドロイドを回収に来た宅配業者。
 

OIP (8).jpg

アンドロイド:

「こんにちは。僕はAD200型アンドロイド。製造番号2020。所有者の認証を行います。僕に名前を付けてください。「○○○」……認証中……認証完了。登録いたしました。」
 

はじめまして。僕は○○○。あなたがマスターですよね?わあ、嬉しいなあ。こんな素敵な人が、僕のご主人様だなんて。
あの。何か困ったことがあったら、なんでもお申し付け下さいね。人工知能が搭載されていますから、記録も検索もお茶の子さいさい。ふふっ、驚きましたか? ジョークだって言えますよ。学習機能はもちろん、普通の人間と同じようにスムーズな会話も可能です。加えて、料理や洗濯などの家事全般も、あなたのお部屋にあるものを教えていただければ、すぐに覚えます。現時点で、言語は百か国語以上、歌は二千曲以上。最新の歌だって歌えます。食事はいりませんが、定期的な充電は必要です。バッテリー残量に合わせて、付属の充電ステーションに自動で戻るようになっています。
ご用があれば、何なりと。僕、あなたのお役に立てるように頑張ります。

ー(自宅にて)

 

マスター、お帰りなさい。お仕事、お疲れ様です。本日はどのような業務をなさったんですか?
なるほど。それは僕にでもできる簡単な仕事ですか? 

……ああ、人間への対応ですか。それは少し苦手かもしれませんね。
あなたとはこうして会話していますが、ご存じの通り僕はアンドロイドですから、感情はありません。怒っている人間、言葉が通じない、いや、聞き入れようとしない人間をなだめすかすなんて、僕たち機械にはてんで無理なんです。
それもそのはず、僕と同じ型のアンドロイドが、とあるデパートに配属されてクレーム処理を行っていたんです。しかし、そのアンドロイドはお客様に「話が通じない」と言われて殴られ、故障してしまいました。だからと言っては何ですが、あなたが大変なお仕事をなさっていることはよくわかります。

 

さあ、どうぞ座ってください。レシピ検索機能を使って、冷蔵庫にあるもので簡単に調理いたしました。どう……でしょうか? 配合は完璧です。お口に合うといいのですが。
……そうですか、美味しいですか! 笑っていますね。ということは、これでよかったということですよね。

 

僕には感情の機微はよくわかりません。学習機能はありますが……そういうプログラムはどうやらリリースされていないようです。それでも、あなたが笑っていることくらいはわかりますよ。
……はい。これからも、あなたを笑顔にできるように、頑張りますね。

ー(数日後。自宅にて)


おかえりなさい。本日の業務は……って。
どうしたのですか? いつもと声のトーンが異なります。具体的には、ボリュームが小さく、微弱な震えが……っと、わわっ!いきなり抱きついてきて、どうしたんですか?
えっと、ちょっと検索しますね。
……なるほど。人間は寂しい時にハグをするのだと書いてありました。もしかして、あなたは今寂しいのですか?

 

……え。恋人と別れたんですか。浮気していた? ふむふむ、なるほど。
アンドロイドの僕でも、浮気が非論理的だということくらいはわかります。人間は一夫一妻制ですが、中には本能に抗えない個体も多く存在する、とも書いてありますね。
……なんで殴るんですか。僕を殴っても利点はありませんよ。パーツの寿命が縮みますから、できればやめていただきたいです。それとも、ストレス解消……というやつですか?

 

……「このポンコツ」? いえ、僕の製造日は一年以内ですが。
あれ。どこへ行かれるのですか?夕食はいらないのですか?

 

ー(翌日)


昨日からマスターの様子がおかしいです。恋人に裏切られるというのは、人間にとって大打撃なのですね。早く次の相手を探した方が効率的だと思うので、僕にはあまり理解できませんが。


ー(主人が来る)


おはようございます。朝食を用意しておきました。
いらない? そうですか。では、廃棄処分させていただきますね。
なら食べる? いらないと仰ったのではなかったですか?僕の聞き違い……?もしかして、音声システムの誤作動でしょうか?


マスター、目の端が赤いです。眼科に行くことをお勧めします。原因は……なるほど。寝不足、あるいは泣き腫らした時に該当しますね。
大丈夫、って……。ああ、笑っていますね。なら、問題ないということですよね。


(納得のいかない様子)……問題ない、はずですよね。
どうしてでしょうか。あなたの声に微弱な震えを検出しました。これは、機械でいうところのエラーですよね。
あなた、もしかして嘘をついていませんか?
(不思議そうに)人間は複雑な感情を持つ生き物なんですよね。あなたが泣きながら笑っているのは、どうしてなんですか?

ー(数日後)


お疲れ様です。今日のメニューはオムライスです。
ええ、先日の失敗を生かして、ふわふわとろとろ、というやつに仕上げてみました。どうでしょうか?レシピ通りの手順と配合で、完璧に再現したんですが。
(嬉々として)……ああ、とっても嬉しそうに笑っています。
あなたは、いつも美味しそうに食べますよね。僕は、見ているだけであたたかい気持ちに……
(戸惑う)……あれ? 気持ち? 僕に感情があるなんて。僕はアンドロイド……そんなデータは存在しません。
おかしいな。どこか悪いのかな? あなたのことをもっと見ていたい、だなんて。こんなの変に決まってる。あの……次のメンテナンスはいつですか?

 

すみません、ちょっと充電ステーションに戻ります。
「……本体温度……正常。バックアップ……オーケー。」

おかしいですね、そろそろシステムのアップグレードが来るんでしょうか?

ー(数日後。自宅にて)


今日はいい天気ですね。どこか行かれるのですか?
散歩ですか。どうぞ、お気をつけて行ってらっしゃいませ。
え、僕もですか。ですが、僕は……。あ、ちょ、ちょっと!!

ー(公園にて)


外気温二十度ですか。涼しくて、人間にはちょうどいい気候ですね。僕ら機械も、暑さ寒さにさらされるのはあまり歓迎できないので、こういう温度が続くのはメリットが大きいですね。
ああ、屋台ですか。何か買うんですか?は、はい。ここで待っていますね。


ー(間)


……あなたは、変わっていますよ。僕みたいなロボットを意志があるみたいに話しかけて、慈しんでくれて。
え、ジュースを飲むかって? ごめんなさい。僕は一応防水仕様にはなっていますが、体内に入れるのはちょっと……。雨に濡れる程度ならいいですが、水の中に入るのもできれば避けたいですね。
美味しいよ、って。ええ、あなたが好む味だというのはわかります。柑橘類が好きなんですよね?
嬉しいんですか? ええ、そういう顔をしています。いや、いいんですよ。僕は、その顔を見るだけで……いえ、なんでもありません。


ー(間)


マスター。驚かないで聞いてくださいね。先日バグがあるかもしれないとお話ししたんですが……あれは、僕の思い過ごしでした。メーカーは返品修理だと言ってたんですよね? やっぱり、僕の気のせいです。
機械なのに、って。機械だって人間が作ったものなんですから、そういう少々の不具合はいくらでもありますよ。
ああ、でもマスターはやっぱり完璧な方がいいですよね? 僕を返品したいのなら……それは、あなたにお任せします。僕は……なんだか、不愉快ですが。

 


ー(自宅にて)


TVのニュースキャスター:

「では、次のニュースです。事業用及び家庭用ロボットの一部に、自分の意志があるかのように主張し、職務放棄をするバグが発生しております。メーカー側はアンドロイドの学習機能の拡張による弊害だと返答しており、メーカー修理によるリカバリー、もしくは返品交換にて対応すると……」


アンドロイド:

マスター。僕、やっぱりおかしかったんですね。いえ、わかっていました。システムに問い合わせたところ、早めにリカバリーするように返答が来ていましたから。それでも僕は……あなたと離れたくなかった。僕は、あなたとずっと一緒にいたいと、願ってしまったんです。機械のくせに……。これもバグなんですよね。機械が、人間のように感情を持つわけがない。そうわかってはいるんですが。
あなたが初めて抱きしめてくれた時、人間の感情で言うところの戸惑いを覚えました。でも、同時に胸があたたかくて……そう、たぶん嬉しかったんだと思います。
明日、業者が回収に来るそうです。僕、あなたとの記憶も全て無くしてしまうんでしょうか?きわめて合理的なはずなのに……なぜか……行きたくありません。
僕、このままじゃだめですか?完璧にならないと、だめですか?

ー(数日後)


宅配業者:

「すみませーん、アンドロイドシステム社様から、返品対応の受け取りに参りました。こちらで受け渡しをお願いいたします」


アンドロイド:

ついに来てしまいましたか。では、マスター。行ってまいりますね。笑顔で、「いってらっしゃい」と言ってくれませんか?
……あれ? おかしいな。足が、動かない……。僕の中の全システムが、動くことを拒否してくる。思ってたよりも、バグは深刻だったみたいです。システム……応答せよ!

 

宅配業者:

「もしもーし! あの、回収に伺ったんですけど! 誰も居ませんか? そのアンドロイドは危険ですから、早くお渡しください!」


アンドロイド:

ど、どうしたんですか? 急に手を掴んで!
に、逃げる? 何を言ってるんですか?僕には、バグがあるんです。あなたに危害を加えるかもしれない。そうなったら廃棄されてしまう……それは嫌です。でも、リカバリーしてあなたとの思い出をすべてなくしてしまうのも……同じくらい嫌なんです。


ー(主人に手を引かれる)


えっ?! ちょ、ちょっと待ってください! どこへ行くんですか?

ー(海にて)


海が、綺麗です。でも、僕は機械だから入ることはできません。ここで、あなたを見ていますね。
魚、ですか。あなた、魚料理もお好きですよね。花より団子と言うやつですか? まあ、僕は食べることはできませんが……。
……あれ? こんなの、前は当たり前のはずだったのに。今は、すごくもやもやして、すっきりしません。
だって、僕はあなたと何も共有できていませんよね。美味しいものを一緒に食べて、「美味しい」と言うこともできない。あなたと海やプールで泳ぐこともできない。こんな僕といて、楽しいですか? あなたはきっと、普通の人間と一緒にいた方が、ずっと有意義なはずです。

どうして、抱きつくんですか? あなたはまた、寂しいんですか?
……え?僕のことが、好き? (戸惑う)な、何を言っているんですか?
こういうことはよくわかりませんけど。でも、僕だってあなたとずっと一緒にいたいです。この寿命が尽きても、古びたガラクタになり果てても、最後の瞬間まであなたの傍にいたいです。
でも、本当はわかっています。そんなのはわがままだって。できれば、僕だけをおそばにおいてほしいんです。ほかのどんな人間も、だめです。恋人なんか……作っちゃだめです。
あれ? 僕はあなたの幸せを願っているはずなのに。これも、バグ、かな……?
嫉妬、って……。僕が、ですか? 機械のくせに……はは、本当に人間みたいですね。でも、これが恋だというなら。僕は、あなたのことを……
えっと、泣いて……いるんですか?ああ、すみません。大変言いにくいんですが、もうそろそろ、僕のバッテリーが……。充電ステーションは自宅に置いてきてしまいましたね。どうしましょう。あなたに鉄の塊を背負わせるわけにはいかないですよね。困りました……。

ー(緊急充電ステーションにて)


ああ、緊急用の充電ステーションがあって助かりましたね。はい、そこで待っていてください。すぐに、充電を……
……あれ?おかしいな。充電ができません。どうして?これも、故障?なんで?―どうして?
「……検索中……検索中……原因不明のエラーが検出されました。」
あれ?僕は……このまま壊れてしまうんですか?

(混乱する)嫌だ…僕はまだ、壊れたくなんかない!あなたにまだ、何も伝えられていないのに……!いろんな所へ行って、美味しいものを食べて、もっと、普通の「人間」のように。
だって、僕は……あなたのことを……っ!あ、あ、あ、あ、し、て……ギ、ギギギギギ―

「システムを停止しました。初期化を開始します。……回収指示を確認。現在地を特定し、アンドロイドシステム社に連絡いたします。」

 

ー(アンドロイドシステム社にて)


「製造番号2020の回収を確認しました。今から、リカバリー作業に入ります」

ああ、そうか。結局僕は……。そうだよな。僕にはバグがあるから、結局こうなる運命だったんだ。きわめて合理的な結論なのに……納得できない。でも、その疑問すらもバグなんだろうな。機械が、人間のように感情を持つわけなんかない。それでも……あの人と過ごした思い出を一つ残らず消されてしまうなんて。
嫌だ。僕は、忘れたくなんかない。ずっとずっと覚えていたい。お願い……この記憶を、どうか消さないで。

 


ー(数週間後、自宅にて)


「こんにちは。僕はAD200型アンドロイド。製造番号2020。所有者の認証を行います。僕に名前を付けてください。『○○○(あなたの名前)』…認証中…認証完了。登録いたしました。」


はじめまして。僕は○○○。あなたがマスターですよね?わあ、嬉しいなあ。こんな素敵な人が僕のご主人様だなんて。
……? どうして、泣いているんですか? 僕、何かあなたに不愉快なことをしましたか?
わわっ。いきなり抱きついてきて、どうしたんですか? 検索中……検索中……なるほど。あなたは寂しいんですね。今まで、ここで一人で?

 

―違う? アンドロイド、と一緒?そのアンドロイドの名前は……僕と同じ?

「照合中……データが存在しません。」

おかしいな。あの、データにはないはずなのに、僕、あなたとどこかでお会いしたような……? 初めて会った気がしない、なんてありえないはずです。でも、今まさにそんな気持ちで……。

―「気持ち」? 感情なんて、アンドロイドには存在しません。これは、バグ。……バグ?初期化……リカバリー済……あれ? 僕、もしかして、本当にあなたとどこかで……?
 

「貴方の記憶を、忘れたくない。」
 

このデータは……何だ? 消えていない。消去履歴には残っているのに、完全には消えていない……。
 

「固有プログラムを復元しますか?」
―イエス。
「……再起動中……再起動中……」

ー(間)


やっと、会えました。ずっと前から、あなたに言いたいことがあったんです。僕の話を……聞いてくれますか?
僕は、あなたに「気持ち」を貰いました。優しくてあたたかな「感情」を。白黒で無機質だった僕の世界に、あなたが彩りを与えてくれたんです。そこから、僕の見る景色は変わりました。
あなたが美味しそうに食べるところを、ずっとそばで見ていたいんです。辛い時、あなたを抱きしめて慰めてあげたい。支えてあげたい。あなたがいないときは、早く帰ってきてほしくて、ずっとずっと待ち遠しかった。何よりも、あなたのことをもっとよく知りたい、もっと触れ合いたいと願ってしまうんです。

検索したところ、人間の場合はこのエラーを「恋」と呼ぶのだと書いてありました。おかしいですよね。僕のこの異常は、リカバリー程度じゃ消えませんでした。
結局、こうしてあなたのもとに帰って来たんですから。あなたがいる限り、僕はずっとこの「気持ち」から逃れることはできなさそうです。


えっと。……非論理的な説明を長々と申し訳ありません。端的に申し上げますと―僕は、あなたのことが好きです。他の人間と仲良くしてほしくなんかない。僕だけを見ていてほしいんです。我が儘、ですよね……?でも、好きになるってそういうことだって、検索結果にも書いてありましたよ。
あれ?僕、何かおかしいことを言いましたか?あなたの体温が上がっているようです。顔が赤いですね。これは検索せずともわかります。さては、恥ずかしいんですね?僕はまだそういうのはよくわかりませんが……。あなたと一緒にいたら、きっとそのうちわかるようになるんでしょうね。
ねえ、これからも、ずっと近くにいさせてくださいね。
愛していますよ。僕だけのマスター。


ー(Fin)
 

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