ハンプティ・ダンプティの世迷い事
―ハンプティ・ダンプティの自慢話は尽きることがない。
だが、なぜ塀の上に座っているのか、本人も知らないという。
己が見世物となっていることにも気付かない、
哀れなハンプティ・ダンプティが迎える最期とは。
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・一人称、語尾変更、アドリブ→○
◇登場人物◇
ハンプティ・ダンプティ:
(性別不問)
かなり癖が強い。見ての通り丸い卵のような風貌に手足が生えた奇妙な生き物。塀の上に座っているようだが、その理由を知らない。自分が大好きで、この国では有名人である(と思っている)。
語り手:(※兼役)
最後だけ出てくる。ただの傍観者。
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ー(塀の上でハンプティ・ダンプティが倒れている)
ハンプティ・ダンプティ:
ちょいとそこのお嬢さん。そう、チミだよチミ! ちょいとこのあっしを起こしとくれ。ノンノン! そんな乱暴にしたら取り返しのつかないことになっちまう。そっと、やさしく、だ。そうそう、そんな感じ。よっこいしょー! ハイハイありがとさん。
いやあ、助かったよ。起き上がり小法師(こぼし)だったら問題ナッシングだったんだけど、あいにくこんな狭いところじゃ命に関わるからねん。ふー、危なかった。ところでお嬢さん、名前はなんて?
え、なんだって? もう一回。……へ? あ、あり? あり、なんだってえ?! え、りす! ……っぷ! あっひゃひゃひゃひゃひゃ!! あり、あり、くっ……あっはっはっはっはっは! おっかしいねえ、なんだいそのヘンテコな名前は! アリかリスかどっちかにしてくれってんだ。あー、おかしい。
(ひとしきり爆笑したあと)……おっほん。これは失敬。
おっと、あっしの名前かい。こほん。あっしはハンプティ・ダンプティだ。噂には聞いたことくらいあるだろ?
……誰が空っぽだって? ハンプティ・ダンプティ、だ! 家来たちが何人取り掛かっても、あっしを元には戻せなかった。その伝説のスーパー有名人があっし。
見ればわかる? そうかいそうかい。いやチミ、全く分かってなさそうだね。
いいかい? 覆水盆に返らずとはね、何もあっしに限ったことじゃあない。人間だって高いところから落ちれば木っ端微塵。ガラスだってケーキだって重力には勝てない。仮にあっしが万が一にもチミの言う卵だとしても! ゆで卵なら一皮剥けて万々歳ってやつだよ、違うかい? 違わないねえ、ええ。
そもそもなんであっしが塀の上にいるのか誰も知らないのよ。あっしも知らない。だから チミが考えてくれない? あっ、あっしの考えはねえ、この見目麗しいボデーを見せびらかすためさ。ここらの家来たちもきっとそう思ってる。そうだねえ、19人中18.5人てところかねえ。はっはっは。なんだい、点5人て。
……見張り? ああ、それもあるかもしれないね。悪い子はいないか、このつぶらなおめめでじっと見張るんだ。こんなにチャーミングなあっしだから、誰も見張られてるなんて気づけやしない。いや? 逆に目立っちゃったりして。あっしったら、眉目秀麗あーんど、容姿端麗すぎて困っちゃう。この麗しいボデーは国中であっしだけなんだから。
……見世物? あっしが?! はっはっは! 笑えないジョークはよしとくれ。なんでこのあっしが見世物になんかなるんだい、ええ? この! スラリと長い手足のあっしが、ちんちくりん? ……なんておかしな子なんだ。しっし! 助けてくれたのには礼を言うが、なんて失礼極まりないんだろうね。あっしは気分を害したよ。とっととあっちへ行っとくれ。
おや? スポットライトだ。こりゃ噂のショータイムの時間かな? 世界があっしを待っている。待っとくれ待っとくれ! ふふん、なんちゃって。よっこいしょ。
ー(塀に座りかけたところで、バランスを崩す)
っと! ととととと! おい、誰かあっしを助けとくれ。これじゃ落っこちまう。おい、あり! いや、りす! 腐れ卵なんて言ったことは綺麗さっぱり水に流してやるから、早くあっしを……
(王がやって来る)陛下?! これはこれはご機嫌麗しゅう。ところでご覧の通りあっしは今絶体絶命なんです。どうか早く家来たちを。……ええ? 何がショータイムの時間なんです? どうして誰も来ないんです?
あっ、危ない、落ちる。っとっと。ちょ、誰か助けて! あ! ……ああああああ!
ー(塀から落ちる)
ー(間)
語り手:
塀の上のハンプティ・ダンプティが落ちたらもう取り返しはつかない。でもみんなは見守るだけ。珍妙で奇妙な生き物が醜い姿に成り果てるのを密かに望んでる。国民の皆様、今日の催しはこちらです。題して、塀から落ちておぞましい姿になったハンプティ・ダンプティ。いやあ、お楽しみ頂けましたね。さあて、次の卵はどこかしら。
ーFin