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裏切りのロメオ

【あらすじ】

 

西洋のとある一国の裏では、北を牛耳るモンターニ・ファミリーと、南を支配するカペレッティ・ファミリーをはじめとしたマフィア同士の抗争が繰り広げられていた。
モンターニ・ファミリーのルカは、ボスの命令でカペレッティの娘であるジュリアに近づき、仮面舞踏会で逢瀬を重ねるうちに彼女を愛するようになる。しかし、彼は自分が敵ファミリーの一員であることをなかなか言い出せずにいた。そんな折、モンターニ・ファミリーのボスはジュリアを人質にすべく動き出し、ルカも最後に真実を打ち明けようとするが……。

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・性転換→×
※但し、演者の性別は問いません。
・一人称、口調、語尾等変更→×
・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇

 

⚔登場人物⚔

ルカ:
(ルカ・ロマーノ)(男性)
幼いころにモンターニ・ファミリーのボスに拾われ、以降ファミリーの一員として育てられた。ボスの前では剽軽に振舞うが、根は正直で不器用。少々ロマンチストな面があり、ジュリアに合わせて「ロメオ」と名乗ってしまう。ジュリアに惹かれている。

ジュリア:
(ジュリエッタ・カペレッティ)(女性)
カペレッティ・ファミリーのボスの事実上の一人娘だが、冷淡な父や普通とは違う家業に嫌気が差し、仮面舞踏会へ足を踏み入れる。夢見がちで世間知らずなところがある。ルカに惹かれている。

ボス:
(エドガルド・モンターニ)(男性)
モンターニ・ファミリーのボス。気まぐれでルカを拾い、ファミリーに入れる。常に冷静沈着で他人の裏をかくのが得意。部下を駒としか思っていない。カペレッティ・ファミリーの持つとある土地を巡り、取引のためにジュリアを人質にとる。

※案内人:(最初のみ。ボスと兼役)
夜な夜な催される人々の娯楽である、仮面舞踏会の案内人。ここでは誰もが仮面をつけ、素性を隠して交流を楽しむ。

 

 

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案内人:

ようこそいらっしゃいました。マフィアの方……? それは失礼いたしました。ですが、ここは仮面舞踏会。互いの顔も素性も知らず、いくらでも自分を偽れる場所。だから、良いんです。ここに居る間だけは、煩わしい現実をすべて忘れられますから。だって、自分のしがらみもなければ、素性を知られて距離を置かれることもないんですよ。
ですが、覚えていてください。嘘に嘘を重ねても、苦しくなるのはあなただけ。仮面の下の素顔を、あなたは誰になら見せますか?

ー(間)

案内人:

こんばんは、旦那さま。あの方はいつもの場所にいらっしゃいますよ。

ルカ:

ありがとう。すぐに向かおう。
はあ……もう、ボスに隠し通すのも限界だろうな。早く、言わなくちゃ。手遅れになる前に。最後に伝えて、そして逃げるように言わなきゃ。

ジュリア:

あら、こんばんは。今夜は遅かったじゃない。それに、なんだか他人行儀なのね。

ルカ:

そうかな?

ジュリア:

そうよ。何度あなたと言葉を交わしたと思ってるの? なんだか、初めて会った時みたいにぎこちないのね。ここでは何回も会って、何時間も話し込んだっていうのに。……ちょっと寂しいわ。

ルカ:

ごめん。俺、今日はどっかおかしいのかな。ははっ。

ジュリア:

ねえ。そろそろあなたの本当の名前を教えて。

ルカ:

それは……。君だって同じだろう。人の名を聞くには、まず自分から名乗れと言うし。

 

ジュリア:

まあ、それもそうね。わかったわ。でも、他の人には教えたことなんてないの。あなただけよ? 私は……ジュリエッタ。ジュリア、とでも呼んで。

ルカ:

そうか、ジュリアか。うん、良い名前だ。

ジュリア:

改めて名前を呼ばれると恥ずかしいわね。ねえ、私は教えたんだから、あなたの名前も教えて?

ルカ:

え? 俺の名前? えっと……ろ、ロメオ! そう、ロメオだ。

ジュリア:

ロメオ……って、あの? 『ロミオとジュリエット』にでもなぞらえたつもり? もう、冗談はやめて。どうせ思い付きなんでしょ?

ルカ:

『ああ、ジュリエッタ! 君はどうしてジュリエッタなんだ?』な~んてね。ふふっ、どうだろうね。でもさ、ジュリア。あの悲劇の中で二人は結ばれなかったけど、俺は君と結ばれたいと思っているよ。

ジュリア:

ふふっ。なんだかごまかされたような気もするけど……まあ、いいわ。ここではあなたを信じて、そう呼んであげる。

ルカ:

はは、良かった。……なあ、ジュリア。二人で少し抜け出さないか? 今夜くらいは……ずっと一緒にいたいんだ。

ジュリア:

えっ?! で、でも……

ルカ:

いいから。少し話したいことがあるんだ。

ジュリア:

え、ええ。わかったわ。

ー(二人、テラスに出る)

ジュリア:

外は空気が澄んでいるわね。

ルカ:

そうだな。……ね、ジュリア。もう俺たちはお互い好き同士なんだ。そろそろ、仮面を外した本当の顔を見たいんだけど。

ジュリア:

え、いきなりどうしたのよ。い、いやよ。だって、私はあなたが期待しているような美人じゃないもの。

ルカ:

そんなことくらいで、俺が君にがっかりするとでも?

ジュリア:

するわよ! だって、ものすごい美人を想像しているところ悪いけど、私はいたって普通なの。今だって、他を着飾ってそれっぽく見せているだけだし。素顔なんて……見せられるわけないでしょ?

ルカ:

あのさ、ジュリア。俺が君に惹かれたのはね、何も君の顔にじゃないよ。君の優しさ、明るい笑い声、一緒にいると落ち着くところ、気の合うところ。全部だ。たとえ君の顔に火傷やあばたがあったとしても、俺は全部愛せる自信がある。だから……ほら、俺だけに見せて?

ジュリア:

でも……

 

ルカ:

ああ。じゃあ俺の方から先に見せようか。(仮面を外す)うん、俺はこんな顔だ。

 

ジュリア:

ああ……やっぱり。素顔も素敵なのね。もう、余計に外すのが恥ずかしくなってくるじゃない。

 

ルカ:

そうかな? 褒めてくれるのは嬉しいけど、君の素顔が見られないのは嫌だな。

 

ジュリア:

わかった。でも、あまりじろじろ見ないでね。恥ずかしいから。(仮面を外す)

 

ルカ:

ああ……すごくきれいだよ、ジュリア。想像以上だ。

 

ジュリア:

お世辞は良いわよ。もう、まともに目が合わせられないわ。

 

ルカ:

いいや、本心だ。ますます好きになった。

 

ジュリア:

ちょっともう、やめてよ。恥ずかしいから。

 

ルカ:

ねえ、ジュリア。君は……俺をどう思う?

 

ジュリア:

どうしたのよ、今日はなんだかおかしいわよ。そうね、その……前から言ってるじゃない。好きよ。

 

ルカ:

そうだったね。意地悪してごめん。それで……さ。君はもし俺が大事なことを隠していた、と言ったらどうする?

 

ジュリア:

何をいきなり。

 

ルカ:

はは……君はきっと俺を軽蔑して嫌いになるだろうな。それでも俺は……君を傷つけることになったとしても、言わなくちゃいけない。いずれこうなるとはわかっていたけれど……

 

ジュリア:

ねえ、さっきから様子が変よ。どうしたの? まさか、何か隠しごとでもあるの?

 

ルカ:

そのまさかだ。ねえ、ジュリア。本当は俺はね。君に愛してもらえるような資格なんてないんだ。俺は君をはなからだましていた、最低な男なんだ。君の気持ちを利用した。初めから、君に近づいていい男なんかじゃなかったんだ。

 

ジュリア:

ロメオ……?

 

ルカ:

俺は君に嘘をついていたんだ。それも、一生かかっても許してもらえないような、ひどい嘘だ。それでも俺は言わなくちゃいけない。そして、もう会うのもこれで終わりにしなくちゃいけないんだ。だって―

 

ジュリア:

なんで? じゃあ、好きだっていうのも嘘だったの?

 

ルカ:

それは本当だ。ずっと……初めて会った時から俺は君を―

 

ジュリア:

なら、どうしてそんなことを言うの? なんで? ずっと一緒にいようっていうのも嘘だったのね。内心では舞い上がってた私をあざ笑っていたのね?!

ルカ:

それは……違う。

ジュリア:

わけを話して。こんなの納得できるわけがない。どうしてお互いに好きなのに、もう会えないなんてひどいことを言うの?

ルカ:

ごめん、ジュリア……本当に、ごめん……。俺はね、ジュリア。俺は君のことを知っているんだ。

ジュリア:

……え?

ルカ:

君がマフィアの娘だって。カペレッティ・ファミリーの娘だって、知っているんだ。

 

ジュリア:

どうしてそれを! っていうことは、あなた―

ルカ:

そうだよ。俺はモンターニの人間だ。君に近づいたのは、ボスに命令されたからだ。

ジュリア:

そんな、ひどい! 騙していたのね。

ルカ:

そうなるんだろうね。でも、君を好きなのは本当だ。君と会って言葉を交わすうちに、カペレッティの娘としてではなく、一人の女性として好きになっていたんだ。

ジュリア:

今更何を言われても、もう信じられないわよ。

ルカ:

違う。ジュリア、俺は―

ボス:

―そのお嬢さんか。

ルカ:

あ……ぼ、ボス!

ボス:

ご苦労だったな、ルカ。

ジュリア:

ルカ……? え? だって、ロメオって―

ボス:

ああ、手荒な真似はしたくないんだよ、お嬢さん。いや、ジュリエッタ・カペレッティ。おとなしくこちらまで来てくれるかな? 

ジュリア:

そう。じゃあ、本当に……。あなたが、モンターニのボスなのね。

ボス:

ああ、これは失礼したね。私はエドガルド・モンターニだ。君をほんの二、三日間だけ、我が家にご招待させてもらおう。君の親御さんには、後で連絡を入れておくから、安心したまえ。なあに、向こうさんが手土産を持ってきたら返してあげるつもりだから、大丈夫だよ。

ジュリア:

つまり、平たく言えば人質ということね。

ボス:

ふっ……どうだろうねえ。しかし驚いたよ、ルカ。

ルカ:

え?

ボス:

まさかお前がこれほどうまくやってくれるとは思ってもみなかった。正直あまり期待していなかったんだがな。十分すぎるほどの、上出来だ。お嬢さんの警戒心を解いてくれたお前には、たいそう感謝しているよ。

ジュリア:

ああ、そう……。やっぱりロメオじゃなかったのね。もしかして、そうやって全部知ったうえで……

ルカ:

ごめん。ごめんね、ジュリア。でも、俺は本当に君のことを―

ジュリア:

いいわよ。もう何も聞きたくない。

ルカ:

ジュリア! 

ボス:

で、お嬢さん。私たちの元には来てくれるんだろうね?

ジュリア:

行きたくない、と言ってもどうせ無理やり連れて行くんでしょ?

ボス:

そうかもな。だが、私は君を傷つけるつもりはないよ。そう、君がおとなしくしてくれている限りは……ね。(ルカに)おい、何をぼーっとしているんだ、ルカ。早くこのお嬢さんを連れて行きなさい。

ルカ:

……はい、ボス。

ジュリア:

触らないで! うっ……ううっ。(泣く)

ルカ:

ジュリア―

ジュリア:

話しかけないで。私の名前を呼ばないで。もう……放っておいて。何かの間違いだったらよかったのに。どうして……こんなことに。

ルカ:

……。

 

ー(モンターニのアジトにて)

 


ルカ:

食事を持ってきたぞ。食えよ。

ジュリア:

いらないわ。

ルカ:

んなこと言われたって、困るんだよ。腹が減ったら気分も落ち込むだろ。いいから、黙って食え。

ジュリア:

誰のせいでこんなことになったと思ってるの?

ルカ:

それは、まあ……俺のせいだな。騙したことはその、悪かったと思ってるよ。ものすごく。

 

ジュリア:

名前も違うし。

ルカ:

ルカ・ロマーノだ。ロメオと呼ばれることもあるから、嘘はついていない。

ジュリア:

そういう問題じゃなくて! はあ……調子が狂うわ。あなたが敵ファミリーの組員だと知ってたら、迂闊に近づいたりしなかったわ。あの舞踏会で話しかけられた時だって、無視したのに。

ルカ:

それは……本当に、すまなかった。

ジュリア:

もう、いいのよ。本当はわかってた。自分の生まれが特殊なことくらいね。それでも、いつかは私自身を見てくれる人が現れるんじゃないか、ってひそかに期待してたの。カペレッティの娘じゃない、ただのジュリアとして見てくれる人が、ね。馬鹿よね。どうあがいても、生まれは変えられないのに。

ルカ:

それは……

ジュリア:

わかってる。そう、ボスの言うことは絶対だものね。この世界じゃそれくらい常識よ。それでも、あなたが優しくしてくれて……素直に勘違いしてしまった私が悪いの。

ルカ:

話を聞いてくれ、ジュリア。確かに最初は命令されたから君に近づいた。でも、君の優しいところとか、笑い声とか、気付けばどんどん好きになっていた。俺だって、できればずっと君と一緒に―

ジュリア:

もう、遅いのよ。言い訳なんて聞きたくないわ。

ルカ:

そう……だよな。ごめん。騙すようなことをして。

ジュリア:

騙し合いが当たり前の世界なのよ。何を言ってるの? 私も家業だからわかるわ。それなのに、他人を迂闊に信じた私がバカだったのよ。

ルカ:

どう考えたって悪いのは俺だよ。君は何も悪くない―

ボス:

おい……おい! 遅いぞ。あまり時間を取らせるな。

ルカ:

うわ、やっべ! (ボスに向って)はい、今行きます。(ジュリアに)悪いな。また来るから。でも、絶対に君を危険な目に遭わせたりなんかしない。

ジュリア:

あなたの言うことなんて……もう何も信じられないわよ。

ルカ:

それは……そうだけど! でも、ちゃんと俺が―

ボス:

早く来いと言っているだろう。聞こえんのか?

ルカ:

悪い。またな!

ジュリア:

……行っちゃった。はあ、もう何なのよ。どうして私がこんな目に……。なんでこんな家に生まれちゃったのかしらね。そしたらこんなことにはならなかったはずなのに。なんで私は、あんな人のことを……(ため息)


ー(ボスの部屋)


ボス:

何をぐずぐずしていたんだ。人質は最低限生かしておくだけでいいと言ったはずだろう。情けなど不要だ。

ルカ:

何をおっしゃるんですか、ボス。だって、年頃の可愛い女の子なんですよ? 口説くな、って言う方が無理な話ですよ。それに大体、ボスだって『惚れさせておけば制御しやすくなる』っておっしゃってたじゃないですか。

ボス:

確かに制御はしやすくなるが、同時に面倒ごとも引き起こす。それくらい想像に難くないだろう? まったく……対象を増やせば増やすほど、こじれるリスクを負うからな。遊びならいいが、あのお嬢さんはお前の手に余る。ま、女っ気のないお前には心配いらないだろうがな。

ルカ:

なっ……何をおっしゃるんですか! 俺だって、女の一人や二人くらい―

ボス:

本気になるなよ。どう逆立ちしたって、お前はあのお嬢さんとは結ばれないんだ。なにせ敵ファミリーのボスの大事な大事な一人娘だからなあ。傷物にしたらどうなることやら……。ま、こちらとしては宣戦布告の手間が省けて大歓迎とも言えるが、今はそんなことよりもあの土地だ。下手をうつわけにはいかないんだから、その辺はわかってるよな?

 

ルカ:

わかってますよ。手なんか出しませんって。そう、俺は……一方的に惚れさせてやってるだけです。

ボス:

ほほう。お前にそんな芸当ができたとは初耳だ。何はともあれ、お前に女と言う生き物をうまく操れるのか、お手並み拝見といったところだな。くれぐれも、ファミリーを裏切るなんて、バカな真似はよせよ。

ルカ:

はっ、女のために? やだなあ、ボス。何を言ってるんです? そんな安っぽい三流ドラマみたいな展開、あるわけないでしょ。

ボス:

ふん、ならいいが。お前は私の大事な、息子同然の忠実なる部下なんだ。期待しているぞ。では、気を取り直して明日の説明だ。あのお嬢さんを人質に、向こうさんに来てもらおうと思っている。例の土地に関してこちらの要求を呑んでもらえないようなら、お嬢さんの脳天がぶち抜かれるというわけだ。ま、あちらさんにも義理と人情があるなら、来てもらえると思うんだがなあ。

ルカ:

はあ、なるほど。

ボス:

それで、だ。お前にはお嬢さんのこめかみに銃口を突きつける役をしてもらおうと思っている。

ルカ:

はっ?!

ボス:

どうした、急に大声を出して。うるさいぞ。タバコがまずくなるじゃないか。

ルカ:

あ、すみません。えっと、俺が……ですか。

ボス:

そうだ。万が一あちらさんが応じなかったとしても、お嬢さんは好きな男に撃たれて死ねるんだ。本望だろう。

ルカ:

そりゃ、他の奴がやるよりは……。いや、でも!

ボス:

そうと決まれば、明日の準備だな。たんまりと金を貰って、土地を譲ってもらわなければな。ふふふ……。

ルカ:

あ、そ、そうっすね、ははは……。


ー(ジュリアが軟禁されている部屋)

 

ルカ:

ちっ……なんだよ。なんなんだよ。こんなの聞いてねえよ。ああ、もうどうすればいいんだよ!

ジュリア:

また来たの。

ルカ:

ご、ごめん。

ジュリア:

聞こえたわよ。全部、聞いてた。ねえ、正直言ってうまくいくとは思えないわ。パパがあの土地を手放すと思う? 何か勘違いしているようだけど、あの人は自分の娘になんて、これっぽちも興味なんかないの。子供なんて、男じゃなかったらどれも一緒。ママが生んだか、他の女が生んだか、なんて関係ないのよ。

ルカ:

そんな言い方、ないだろう。

ジュリア:

いいのよ、事実なんだから。

ルカ:

ジュリア……。

ジュリア:

すこし喋りすぎたわね。私を人質に取ったところで、どうせ誰も来ないのよ。だから……私、明日あなたに殺されるのね。

ルカ:

殺さない。殺すもんか。なあ、ひどい嘘をついた俺だけど、君を愛しているのは本当だ。それに、君を守るっていうのも。約束する。絶対に生きて、ここから一緒に出よう。

ジュリア:

一緒に? 何をバカなことを言っているの。そんな裏切り行為をしたら、地の果てまで追いかけられるわよ。

ルカ:

君と一緒ならそれも悪くないかもな。

ジュリア:

はあ……ほんと、救いようがないわね。でも、そうね。本当にずっとあなたと一緒にいられたら……。明日なんて来なければいいのに。

ルカ:

そうだな。そしたら、ずっと一緒にいられる。

ジュリア:

(少し涙ぐむ)こんな生まれじゃなくて、こんな出会いじゃなかったら良かったのにね。

 

ルカ:

本当にな。でも、過去は変えられない。その運命の悪戯で俺たちは出会えたんだから、感謝しなくちゃ。

ジュリア:

(涙ぐむ)うっ……ううっ。本当に、ね。

ルカ:

ジュリア……愛しているよ。    

ジュリア:

私もよ。……ルカ。


ー(翌日)

ボス:

さあ、カペレッティの野郎ども。大事なお嬢さんの命が惜しければ、例の権利書を早く持ってくるんだ。ん? どうした。このお嬢さんのこめかみがぶち抜かれてもいいのかな? ん?

ルカ:

(小声で)おい……聞こえるか?

ジュリア:

ん?

ルカ:

(小声のまま)このまま三、二、一でボスを撃つから、君はその間に逃げるんだ。……いいな?

 

ジュリア:

(小声で)ルカ……本気なの?

ルカ:

(小声のまま)ああ。俺は本気だ。

ボス:

ふん、腰抜けどもめ。まったく、笑わせてくれる。ルカ、安全装置を外しておけ。いつでも撃てるようにな。まさかとは思うが、お前……お嬢さんに本気だったりしないよな?

 

ルカ:

はっ。やだな~、ボス。俺は今までずっとあなたに仕えてきたんですよ? たかだかこんな女のために、裏切るわけなんかないじゃないですか。

 

ボス:

それもそうだな。お前はガキの頃に拾ってからというもの、大事に育ててやったんだ。お前の働き次第ではあるが、モンターニもゆくゆくはお前の手にと思っている。

 

ルカ:

は、はは……そいつは光栄ですね。

 

ボス:

お前は私の言うことを忠実に聞く、有能な駒だからな。そうだろう? さあ、カペレッティのグズどもはまだか?

 

ルカ:

(小声で)六、五、四……

 

ボス:

おっと、さっそく客が来たようだ。これは丁重にお出迎えしなければ―

 

ルカ:

(小声で)三、二、一。

 

ボス:

―と思ったが誰も来ないなあ。なあ、ルカ。なぜ銃口を私に向けているんだ? 私はその女に向けていろと言ったはずだが。

ルカ:

はっ! はは……まさか。カペレッティの一味を警戒してですよ。

ボス:

いいことを教えてやろうか。お前は嘘をつくときに、右の頬をかく癖があるんだ。今後のために覚えておくといい。まあ、今後なんてものはもう存在しないんだがな。(銃を構える)

ルカ:

ボス?! ち、違うんです! これは―

ボス:

お前も色恋に狂ったか。残念だったな。撃たれるのはお前の方だ。私も随分と舐められたものだな。お前の裏切り……私が気づいていないとでも思ったか?

 

ー(ボス、ルカを撃つ)

ルカ:

(撃たれる)ぐわああああ! がはっ……

ジュリア:

え? うそ……嘘でしょ? ルカ、ルカ! ああ、どうしてこんなことに。

ルカ:

(息も絶え絶えに)は、はは……さすが……ボス。全部……お見通し……ってか。

ジュリア:

喋ったらだめよ! 早く手当てを―

ルカ:

いいんだ、ジュリア……。ごめん……な。守って……やれなく……て。

ジュリア:

待って! 死なないで! ここから一緒に出ようって約束したじゃない。(涙交じりに)私を助けようとして……本当にバカな人。

ルカ:

(途切れ途切れに)なに……泣いてんだ。……最後くらい、笑って……く……れ……よ。

 

ジュリア:

(嗚咽)ううっ……あああっ。ねえ、目を覚ましてよ。置いていかないでよ!

 

ルカ:

あ……い…して……る……(息絶える)

 

ジュリア:

あああああああ! ルカ……ルカ! 一人に、しないで! 私も、あなたを――

 

ボス:

ふん、ご苦労だったな。お前はもう用済みだ。さて、これで茶番は終わりか? 

 

ジュリア:

人を殺しておいて茶番ですって? 人のことを物みたいに言うのね。

 

ボス:

お言葉だが、私とお嬢さんたちカペレッティと何が違うんだ、うん? あの土地を手に入れるまでに、おたくも随分と無茶をしたそうじゃないか。君のパパだって、組員のことを駒としか思ってないだろうよ。

 

ジュリア:

(怒りに震える)あなたに……あなたに、私の何がわかるの!

 

ボス:

わかるさ。人の血で汚れた金で飯を食っている者同士、お嬢さんだって同じ穴の狢だ。私とお前さんとで何が違う? ……ふむ、どうやらお迎えは来ないようだが、さてはパパに見捨てられたか? もう頼りになる男もいないなあ。どうだ? 絶望の底に叩き落された気分は。

ジュリア:

こんなの……とっくにわかりきっていたことよ。

ボス:

ほお、その目。面白い。いいだろう。お嬢さんには特別に選ばせてあげよう。私に従うか、それともこいつのように死ぬかだ。お嬢さんは利口だから、私の言いたいことはわかるだろう? ああ、それと。くれぐれも、私を出し抜こうだなんて愚かなことは考えるなよ。

ジュリア:

……とわる。

ボス:

ん? 

ジュリア:

断る。聞こえなかった? そんなものは願い下げだって言ったのよ! 私は、あんたになんか屈しない。この人はきっと怒るだろうけど。あんただけは……あんただけは絶対に許さない! あんたさえいなければ……

ボス:

お言葉だがお嬢さん。お前さんとルカを出会わせたキューピットはほかならぬ私だということをお忘れではないかな?

ジュリア:

うるさい……黙れ!(銃を構える)あんたはこれで終わりよ。うわああああああああああ!

 

ボス:

ふっ……持ち手が震えているなあ。そんなやり方で私を殺せるとでも?(ジュリアの腕を捻り上げる)

ジュリア:

ううっ!

ボス:

ほら、構え方はこうだ。さてはお前、人を撃ったことがないんだろう。良いか?引き金を引くときは……こう。(ジュリアを撃つ)って、もう聞いていないか。
ふう、とんだ茶番だったな、実に下らん。まあ、ヒマつぶしくらいにはなったか。
私だって本当はこんなことはしたくなかったんだ。でも息子同然に育てた男に裏切られて、お話をしようと連れてきたお嬢さんに銃を向けられたんじゃ致し方ない。ああ、誰にも理解されないとは悲しいものだな。

(部下に向って)おい、お前。何を震えているんだ。さっさとここの後片付けをしておけ。

さて、この方法がだめなら直々に向かうしかないということか。あの土地を手に入れるためには、血で血を洗う戦争もやむを得んな。しかし、ちょうどよく裏切り者も掃除できたし、向こうの跡継ぎもいなくなったしで、一石二鳥ではあったな。ふふっ……。

ああ、私は裏切り者には容赦しない。お前たちも、よく覚えておけ。私に銃を向けたら、ああなるからな。

ーFin

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