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邂逅の武勇詩(ハマーサ)

【あらすじ】

 

アレス王国第十三王女、シエナ。王室で忌み嫌われてきた彼女は、療養と称して辺境へ追いやられていたが、ある日急に王都へ呼び戻されることになった。しかし、シエナは護衛騎士リュシアンらと共に王都へ向かう道中で、宿敵の蛮国「アル・シャンマール」の者に捕まってしまう。シエナを守るため、リュシアンは敵国の首領・ザイドに戦いを挑むが……。
 

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15~20分程度。
・性転換→×
※但し、演者の性別は問いません。
・一人称、口調、語尾等変更→×
・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇

 

⚔登場人物⚔

シエナ:
(シエナ・ヴェルレーヌ)(女性)
アレス王国第十三王女。不吉な数字と亡き母の身分が低いせいで、王宮の片隅でひっそりと生きてきた。負けん気が強くどこか冷めたところがある。他人には決して心を開かないが、リュシアンのことだけは信頼している。※オルコット卿…シエナの教育係。馬車に同乗していた。

リュシアン:
(リュシアン・ブラッドリー)(男性)
シエナの護衛騎士。騎士としての誇りを持ち、シエナを命にかけて守ることを信条とする。シエナに忠実かつ実直で、融通が効かない堅物。正々堂々としていない戦いや、曲がったことを嫌う。

 

ザイド:
(ザイド・アル=サレハ)(男性)
アレス王国が長らく敵対してきた蛮国、アル・シャンマールの若き王。思慮深く冷静。民を守るためにあえて冷酷に振る舞い、辛辣な物言いをする。目的の為に手段は選ばないものの、たとえ敵であろうと血を流すのは嫌うため、どこか甘さを捨てきれていない。
※カラム…ザイドの部下の密偵。

 

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ーザイド、仲間への指示。

ザイド:
「行け。敵は殺すな。歯向かうなら生け捕りにしろ。手段は問わない。目的は……ただ一人だ。」

ー間。
ー突然止まった馬車の中で、戸惑うシエナとリュシアン。

シエナ:
「いきなり止まったわね。」

リュシアン:
「馬車の故障、でしょうか。」

シエナ:
「おかしいわね。オルコット卿が降りてから随分経つけど、話し声も聞こえない……。無事かしら。」

リュシアン:
「俺が様子を見てきましょうか?」

シエナ:
「そうね。……いえ、待って。何か変だわ。」

リュシアン:
「静かですが、足音が……。」

シエナ:
「そのようね。賊か、あるいは―」

リュシアン:
「東の蛮族『アル・シャンマール』ですか。」

シエナ:
「可能性はあるわ。」

リュシアン:
「まだ確証はありませんが……。」

 

ーザイドと仲間が馬車に近付いてくる。

 

ザイド:
「これは驚いた。誰もいないのか。護衛はどこに行った? ふっ、逃げ出したか?」

シエナ:
「……ねえ、あれ。なんでよりによって、こんな時に。」

リュシアン:
「姫様はここでお待ちください。俺は奴らを片付けてきます。」

シエナ:
「そんな……いくらなんでも、無茶よ。何人いるかもわからないのに。 」

リュシアン:
「落ち着いてください。必ず、お守り致しますから。」

 

ザイド:
「なるほど。これはガセだったかもな。カラムのやつ、どこで情報を仕入れてきたんだか―」

 

ーリュシアン、馬車から出ようとする。

 

シエナ:
「だめよ。殺されるわ!」

リュシアン:
「しっ。お静かに。俺がいなければ、誰があなたを守るんですか?」

シエナ:
「……無事で。必ず、生きて。」

リュシアン:
「御意。」

 

ーリュシアン、馬車から飛び降りる。

 

ザイド:
「なんだ、いたのか。」

リュシアン:
「名を名乗れ。お前たちの目的はなんだ。」

ザイド:
「見たところ、騎士か。たった一人とは、恐れ入ったな。」

リュシアン:
「質問に答えろ。」

ザイド:
「何か勘違いしているようだが、優勢なのはこちらだぞ、騎士。いや、『アレス王女の護衛』だったか。」

リュシアン:
「……どこでそれを?」

ザイド:
「なるほど、訂正しよう。どうやらカラムの情報は本物だったようだな。」

リュシアン:
「……っ。」

ザイド:
「アレスの騎士。今引くなら、俺達も命までは取らない。どうだ?」

リュシアン:
「それで取引のつもりか?」

ザイド:
「取引ではない。提案だ。お前は圧倒的に不利な状況。大人しく逃げるのが賢明だと思うが。」

リュシアン:
「……逃げることなど、許されない。俺はここで、お前たちを討つ。」

ザイド:
「ふっ、舐めた真似を。そちらは多勢に無勢だ。たった一人でどうやって勝つつもりだ?」

リュシアン:
「黙れ。」

ザイド:
「馬車を気にしているようだが……中にまだ誰かいるのか。」

リュシアン:
「……。」

ザイド:
「まあ、いい。確認すれば済む話だ。」

リュシアン:
「動くな。そこから動けば、斬る。」

ザイド:
「是(ぜ)、ということか。」

リュシアン:
「答える義理など、ない。」

ザイド:
「大人しく引き下がっていれば、痛い思いをせずに済んだものを。哀れな奴だ。」

リュシアン:
「黙れ!」

 

ーリュシアン、ザイドに切りかかる。

 

ザイド:
「っと、アレスの騎士は血気盛んだな。こちらの話に、少しも耳を傾けやしない。」

 

ーザイド、リュシアンの剣を受け流す。

 

リュシアン:
「っ。その剣……やはり、アル・シャンマールか。」

ザイド:
「そうだが。」

リュシアン:
「この狼藉……ますます許すわけには行かない! ―はああああ!」

 

ーリュシアン、ザイドへ連撃。ザイド、すべて防ぎながら。

 

ザイド:
「―っ、俺はお前と剣を交えたいわけでは無い。話を聞け。」

リュシアン:
「蛮族の話など、耳を貸すものか。先に無礼を働いたのは、そちらのはずだが?」

ザイド:
「非礼があったのは詫びよう。しかし、時間がないのだ。」

リュシアン:
「なんだと?」

ザイド:
「俺が用があるのは……お前のあるじだ。」

リュシアン:
「彼女は、お前のような蛮族に近づけていいお方ではない。恥を知れ!」

ザイド:
「取り付く島もない、か。さて、どうしたものか……。」

 

ーザイドとリュシアン、一歩も引かず斬り合う。

 

リュシアン:
「はっ!」

ザイド:
「ふんっ!」

リュシアン:
「はあっ!」

ザイド:
「……ふっ!」

リュシアン:
「(荒い息)……早く失せろ。」

ザイド:
「(荒い息)……なるほど。腕利きの騎士……か。確かに一人でも十分そうだ。」

リュシアン:
「黙れ、蛮族がっ!」

ザイド:
「ふん、『蛮族』か。大した呼び名だな。」

リュシアン:
「なんだと?」

ザイド:
「こちらの話だ。」

リュシアン:
「抜かせ!」 

 

ー二人は間合いを取り、睨み合う。

 

リュシアン:
「……っ。」

ザイド:
「……っ。」

 

ーリュシアン、一気に間合いを詰め、重い一撃を放つ。

 

リュシアン:
「はああああああああ!」

ザイド:
「ぐっ!」

リュシアン:
「……受け止めたか。だが、次で終わりだ。」

ザイド:
「もうよさないか。時間の無駄だ。」

 

ーザイド、剣を納める。

 

リュシアン:
「……戦いを放棄するとは、どういうことだ。俺を愚弄するつもりか?」

ザイド:
「生憎、こちらは俺だけではないんでな。勝負は分かりきっているだろう。」

リュシアン:
「早く武器を取れ。丸腰の相手は斬れない。」

ザイド:
「結構だ。どのみちお前は勝てない。どう足掻いても、な。」

リュシアン:
「戦わずにどうやって勝つつもりだ。」

ザイド:
「そもそもこれは戦いですらない。……お前は、あいつらが大人しく見守ってくれている、とでも思っているのか?」

リュシアン:
「……何だと?」

 

ー突然、辺りが煙に包まれる。

 

リュシアン:
「なんだ、これは。煙……? 目が開かない。げほげほっ。くそっ、小癪な真似を!」

シエナ:
「リュシアン、どうなっているの?! 無茶はよして。早く戻ってきて!」

リュシアン:
「俺のことよりも、姫様! ここは危険ですから、早くお逃げ下さい!」

シエナ:
「なんですって?」

 

ーザイド、シエナを見つける。

 

ザイド:
「こちらにいたのか。」

シエナ:
「―っ!(息を呑む)」

ザイド:
「白金の髪に碧眼……間違いない。お前がアレスの王女だな?」

シエナ:
「……無礼者。触らないで頂戴!」

リュシアン:
「そのお方に触れるな!」

ザイド:
「安心しろ、騎士。彼女を傷付けるようなことはしない。ただ、我が国へ来てもらうだけだ。」

シエナ:
「何を……言っているの?」

リュシアン:
「姫様! そいつの言うことに耳を貸してはなりません。今、そちらへ―(参ります、と言いかけて)」

ザイド:
「(被せるように)一歩でも動いてみろ。今度はお前の首が飛ぶぞ。」

シエナ:
「リュシアン! 」

 

ーリュシアン、いつのまにかザイドの仲間に囲まれている。

 

リュシアン:
「囲まれた、か。くっ、下劣な奴らめ!」

シエナ:
「そんな……。彼をどうするつもり?」

ザイド:
「逆らうなら殺すまでだ。」

リュシアン:
「……姫様。このくらいの数など、問題ありません。」

ザイド:
「それが、四方から刃を向けられて言うことか。お前、この状況をわかっているのか?」

シエナ:
「あなたの目的は私でしょう? 彼は関係ないはずよ。」

ザイド:
「こうでもしなければ、こちらがやられてしまうのでな。」

シエナ:
「さすが蛮族。手口が汚いわね。」

ザイド:
「お褒めに預かり光栄だな。」

シエナ:
「本当に、最悪だわ。」

ザイド:
「ご覧の通り、あの騎士はもう手が出せない。利口な姫君なら、もうおわかりだろう?」

シエナ:
「チェックメイト、とでも言いたいのかしら。」

リュシアン:
「……俺はまだ、やられてなどいない。」

ザイド:
「やめておけ。それ以上は見苦しいだけだ。」

 

ーリュシアン、剣を構え、周囲の敵に切りかかる。

 

リュシアン:
「うおおおおおおお!」

シエナ:
「リュシアン!」

ザイド:
「愚かな。傷を負わねば分からないのか?」

リュシアン:
「 っ、次から次へと……キリがなっ―ぐっ!」

 

ーリュシアン、四方から剣を向けられ、喉元に剣先が食い込む。

 

リュシアン:
「―ぐはっ!」

シエナ:
「……やめて。」

 

ーリュシアン、傷だらけになりながら、向けられた剣先を手で押し返そうともがく。

 

リュシアン:
「……くっ! ……まだだ。まだ―」

ザイド:
「そのくらいにしておけ。」

シエナ:
「……もうやめて、リュシアン! 」

リュシアン:
「(愕然とする)……何故、ですか。」

シエナ:
「これ以上、あなたが傷つくのは見たくないの。」

リュシアン:
「……シエナ、様。」

シエナ:
「(ザイドに向って)ねえ。私が行けば、彼のことは傷つけない?」

ザイド:
「ああ、約束しよう。」

リュシアン:
「なりません。そんなやつの言うことなどっ!」

シエナ:
「本当に?」

ザイド:
「もちろんだ。」

シエナ:
「(深呼吸の後)……命令よ、リュシアン。剣を捨てなさい。」

リュシアン:
「―っ、しかし!」

シエナ:
「あるじの命令に逆らうつもり?」

リュシアン:
「命令、とは。……あなたらしくもない。」

シエナ:
「逆らうなら、護衛騎士の任を解きます。」

リュシアン:
「……。」

シエナ:
「わかってくれるわね。あなたには生きていて欲しいと、そうお願いしたはずよ。」

リュシアン:
「姫様……。(悔しそうに)……っ。御意。」

 

ーリュシアン、剣を捨てる。

 

ザイド:
「姫君、感謝する。」

シエナ:
「約束通り彼を解放しなさい。」

ザイド:
「ああ。この場を離れたらな。」

シエナ:
「嘘じゃないでしょうね?」

ザイド:
「本当だ。約束したからな。」

シエナ:
「(独り言のように)今は……そうするしかないようね。」

 

ーザイド、シエナを連れて立ち去ろうとする。

 

リュシアン:
「そのお方を、どこに。」

ザイド:
「お前が知る必要は無い。」

リュシアン:
「いや、ある。」

ザイド:
「立場を弁えろ。」

リュシアン:
「俺は護衛騎士だ。彼女を守らなくてはいけない。」

ザイド:
「……ふん。勝手にしろ。」

リュシアン:
「お前は誰だ。」

ザイド:
「そういえば、名乗り忘れていたか。俺はザイド・アル=サレハと言う。案ずるな。姫君は、わが国の客人として丁重に扱うつもりだ。」

リュシアン:
「なんだと?」

ザイド:
「まあ、お前には来られまい。砂漠に沈んで埋まるのが関の山だ。」

リュシアン:
「……砂漠、か。」

ザイド:
「リュシアン、と言ったか。その名前、覚えておこう。」

 

ー間。
ーリュシアンだけが、その場に取り残される。 

 

リュシアン:
「なんという失態。よりによってあの蛮族に姫様を渡してしまうとは。お待ちください、姫様。必ず……必ず俺は、あなたをお救い致しますから。」

ー間。
ーザイド、シエナと共に移動している。

 

ザイド:
「先程の非礼を詫びよう。手荒な真似をして悪かったな。」

シエナ:
「一応自覚はあったのね。」

ザイド:
「名はなんという。」

シエナ:
「蛮族に名乗る名前なんてないわよ。」

ザイド:
「ふん、そうか。」

シエナ:
「リュシアンは無事なの?」

ザイド:
「途中で野犬に襲われていなければ、な。」

シエナ:
「何よ、それ。あなたと話しているとイライラするわ。話しかけないで頂戴。」

ザイド:
「奇遇だな、俺もだ。」

 

ー間

 

シエナ:
「なんで、私なの。」

ザイド:
「話しかけないんじゃなかったのか。」

シエナ:
「私からはいいのよ。」

ザイド:
「やれやれ。アレスの王女様は面倒だな。……お前を利用させてもらうためだ。だが、危険な目には遭わせない。丁重に扱うと約束しよう。」

シエナ:
「(呟くように)どこへ行っても駒扱いなのね。」

ザイド:
「それにしても、お忍びとはいえ護衛はたった一人か。馬車も粗末だったが、なぜだ?」

シエナ:
「そんなの、こっちが聞きたいくらいよ。」

ザイド:
「お前はアレスの王女だろう。」

シエナ:
「……ええ、そうよ。けど、残念だったわね。私はただの捨て駒なのよ。」

ザイド:
「捨て駒、だと? 」

シエナ:
「私を使ってアレス王国に交渉しようたって無駄。向こうにとって、私はなんの価値もないもの。」

ザイド:
「それは、何か特別な理由でもあるのか。 」

シエナ:
「十三はアレスでは不吉な数字なのよ。それに……。亡くなった母は側室の中で一番身分が低かった。そんな私に、王宮での居場所なんてなかったわ。」

ザイド:
「ふん、馬鹿らしいな。」

シエナ:
「……え?」

ザイド:
「アレス王国は随分と迷信深いのだな。数字だの血統だのに異様にこだわる。」

シエナ:
「……それは。そういう、ものでしょう?」

ザイド:
「殊勝なものだな。そうやって何もかも仕方ないと諦めて、従順に従っていれば、何か変わるとでも思っているのか?」

シエナ:
「―あなたに私の何がわかるって言うのよ!  ……(我に返る)なんでこんなことをあなたに。……忘れて頂戴。」

ザイド:
「いや……悪かったな。」

シエナ:
「同情は結構よ。」

ザイド:
「言われなくてもそのつもりだ。だが……姫君を丁重に扱うことに嘘はない。不便があればなんでも言ってくれ。手を尽くそう。」

シエナ:
「蛮族の言うことなんか信じられないわよ。」

ザイド:
「そうか。なら、好きにしろ。」

シエナ:
「……なんで、こんな奴に。もう、嫌。」

 

ー間。
ーそれぞれのモノローグ。

 

リュシアン:
「王都へ伝達を頼んだから、おそらく援軍が来るだろうが……そんな悠長に待っていられるものか。砂漠を超えるには、馬では無理か。ならどうすれば……。東の国アル・シャンマール。ここに姫様がいらっしゃるはずだ。一刻も早く急がなければ。」

 

シエナ:
「私がいなくなったところで、きっとアレス王国は動かない。ここにいても、王都にいても不自由なことには変わりないなんて……皮肉なものね。でもリュシアンは……彼だけは、違う。彼はきっと、助けに来る。どうか、無事でいて。……無茶をしないといいけれど。」

 

ザイド:
「作戦はまだ道半ば。気がかりなのは、あの騎士。奴は必ずここを見つけ出すだろう。説き伏せるか、力でねじ伏せるか……。全く、やっかいな奴を相手にしたものだ。だが、賽は投げられた。姫君には悪いが、もう後戻りは出来ない。俺は俺なりのやり方で、アレスを牽制する。」

リュシアン:
「俺は、」

シエナ:
「私は、」

ザイド:
「俺は、」

 

ー(―部分、一人ずつ)(※同時でもよい)

 

リュシアン:
「―姫様を守りたい。」

シエナ:
「―いつか自由になりたい。」

ザイド:
「―この国を守りたい。」

シエナ:
「そして、それぞれの思惑は動き出す。」

リュシアン:
「これは、その序章に過ぎない。」

ザイド:
「運命を変える者たちの、邂逅の武勇詩(ハマーサ)。」

​ーFin

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