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保健室にて、君を待つ。

一途に保健室の先生を想う男子生徒と、

自らの気持ちに気付きながらも巧みにかわす先生。

歳の差に悩む二人の恋は、ゆっくりと動き出す。

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・一人称、語尾変更、アドリブ→○​​

・性転換→×

※但し、役者の性別は問いません。

◇登場人物◇

・先生(女):

保健の先生。優しく聡明で、男女ともに人気がある。生徒が気になっているが、気持ちをひた隠しにしている。

・生徒(男):

不良な見た目で勘違いされやすく、よく他の生徒に絡まれている。先生のことが好きで、アプローチをしている。

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生徒:

せんせ。いる?

先生:

あら、またあなた? 前々から言っているけれど、ここは具合の悪い生徒が来るところなのよ。あなたみたいな健康体が、遊びで来るようなところじゃないの。

生徒:

えっと~……今日は、一応怪我してるんだけれど。

先生:

なっ?! どうしたの。頬が真っ赤で口が切れてるじゃない。いいから、早く来なさい。消毒するわよ。少し染みるけど、我慢しなさいね。

生徒:

ってて……。

先生:

こら、ちゃんとこっち向いて。触るけれど、いいかしら。……あら? さっきより頬が赤くなっているわね。もしかして、熱まである?

生徒:

うわっ?! ちょ、ちょっと、せんせ。ち、近いって!

先生:

そんなにのけぞらなくてもいいじゃない。今は他に寝てる生徒はいないからいいけど、保健室では静かにすること。いいわね? 先生との約束よ。わかった?

生徒:

お、おう……。そっか。じゃあ、俺とせんせは今、二人っきりってことか。(小声)へへっ。なんか、怪我してラッキーだったかも。

先生:

ん? 何か言ったかしら?

生徒:

い、いや。なんでもねえよ。


ー(少し間)


生徒:

せんせ。何があったか、聞かねえんだな。

先生:

あら。もしかして聞いてほしかった?

生徒:

べっ、別にそんなんじゃねえけど。

先生:

もうちょっとで終わるからね。はい、これ保冷材。しばらくこれで冷やしておくといいわ。

生徒:

ん。サンキュー。


ー(少し間)


生徒:

あの、さ。……今日、さ。絡まれたんだよ。またいつもみたいに。俺って、この見た目で勘違いされやすいからさ。

先生:

まあ、そうだったの。なんて言われたの?

生徒:

別に。いつもみたいにバカバカしい、下らねえことだよ。でも、弟のことを悪く言われて……不登校だとか引きこもりだとか、根暗だとか。俺、我慢できなくて。気が付いたら、殴ってた。

先生:

えっ?! な、殴ったって―

生徒:

壁を、な。そしたら向こうが調子に乗って、顔をぶん殴ってきてさ。ちょうどそこを担任が通りかかって、そいつは逃げてった。結局、俺は絡まれただけで、あっちが悪いことはわかってくれたから、早く保健室に行けって言われて来たんだけど。

先生:

殴り返さなかったのね。えらいじゃない。

生徒:

だって、せんせが前に言ってたじゃん。先に手を出したら負けだって。どんなに頭に来ても、殴り掛かったら相手と同レベルになっちまう、って。

先生:

あら、そうだったかしら。よく覚えているわね。あれはまだ、あなたが一年の頃だったかしらね。

生徒:

そうそう。三年の不良に絡まれて、俺がカッとなって殴っちまって……。せんせがあの時、間に入ってくれなかったら、俺はきっと退学になってたな。

先生:

そんなこともあったわね。あの頃は大変だったけれど……ふふっ。今となっては懐かしいわね。あれから、あなたが手を出すことはなくなったのよね。

生徒:

そうだな。それに、他の奴らがあんたに手当てされてるのを見るのは、なんつーか……癪だし。

先生:

ふふっ。それはどういう意味かしら?

生徒:

そ、そのまんまの意味だよ! だって、こうして怪我すれば、堂々と保健室へ行けて、あんたに近づけるじゃん?

先生:

まさかとは思うけれど……あなた、わざと殴られるように仕向けてるわけじゃないでしょうね?

生徒:

さすがに、そんなわけないって。でも、……はあ。来年はもうここに来られないのかと思うと、寂しくなるな。

先生:

そうね。あなたも、もう三年生だものね。

生徒:

せんせはどう? 寂しくならない?

先生:

毎年、誰かしらいなくなるんだもの。もう慣れっこよ。

生徒:

ふーん。そっか。俺は、寂しいんだけどな。……あ、そうだ。俺、地元の大学を受けることにしたから。そしたら、また来年からもここに来られるな。

先生:

何バカなことを言っているの? 一時の感情だけで、自分の進路を決めるなんてもったいないわ。あなたには無限の可能性があるんだから、ここに縛られてはだめ。それに、卒業したらどうせ私のことなんか忘れるわよ。

生徒:

忘れるわけねえって! だって、俺は―

先生:

今はそう言ったって、どうせ覚えていないわ。(独り言のように)……そう、それでいいの。必要以上に期待をして、寂しさを感じるなんて……バカみたい。

生徒:

せんせ?

先生:

はっ! な、なんでもないわ。ま、まあそれでも……少しは寂しくなるかもしれないわね。

生徒:

それってさ。俺だから寂しい、ってこと? 他の奴らには、そんなこと思わないよな?

 

先生:

えっ?! さ、さあ……どうかしら。

生徒:

せんせってさ。時々そうやって一線を引くよな。必要以上に保健室へ来るな、怪我してもすぐ帰れ、って最近はいつもそう。もしかして……俺のこと嫌いなの?

先生:

はあ?! 好きとか嫌いとか、そういう個人的な感情を抱くわけがないでしょ? だって……私は先生だもの。

生徒:

そっか。そうだよな。はは……寂しいな。俺はあんたのこと、「先生」だなんて思ったことは一度もねえけどな。

先生:

え? そんなにらしくなかったってこと?! ……そう、よね。まだまだ新米だし、そりゃあ威厳もへったくれもないわよねえ。

 

生徒:

あ、違う違う。そういう意味じゃねえよ。
だから。―俺はあんたを先生じゃなくて、一人の女として見てる、ってことだよ。

 

先生:

なっ……?! あ、あんまり大人をからかうもんじゃないわよ。ほら、もう授業に戻って。帰った帰った。

生徒:

やだね。ちゃんと聞くまで帰らない。だって、次は他の奴もいるかもしれねえじゃん。
だいたい、大人って言ったって、十も変わらねえだろ。ねえ、せんせ。俺のことどう思ってるの? 好き? 嫌い? 今、ここで聞かせてよ。

 

先生:

そんなの、言えるわけないじゃない! 私のこと、困らせたいの? そんなの……嫌いなわけないでしょ。嫌いになれたら、こんなに悩まないし、苦労しないわよ。

生徒:

苦労しない、か。ふーん。そっか。(悪戯っぽく)先生、俺のことで悩んでるんだ?

 

先生:

あっ……あなた、もしかしなくてもからかったわね!

生徒:

へへっ。ま、いいや。それだけ聞ければ十分だし。今日はこの辺で勘弁しといてやるよ。

 

先生:

もう! って言うか、あなた……余裕ぶってるけど、頬が赤いじゃない。ふふっ、可愛い。

 

生徒:

うるせー。せんせだって真っ赤じゃん。

先生:

えっ?!

生徒:

ほんと、可愛い。じゃ、またね。

先生:

はあっ?! (しどろもどろに)……え、ええ。気を付けて。お大事にね。

 

生徒:

あ、そうそう。それと。(真剣に)俺はせんせのこと、本気だから。(明るく)じゃあねっ!

先生:

―っ?! な、なによ……なんなのよ。もう、心臓止まるかと思った……。最近の子はみんなああなの? もう、心臓に悪すぎ。はあ……。

生徒:

(保健室を出た後、独り言)はあ~っ。何言ってんだ、俺。あ~でも、……せんせ、可愛すぎかよ。

-Fin.

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