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贋作ドールに魂を

【あらすじ】

知る人ぞ知る人形店「シャン・ドール店」。その先代の店主・シャン爺さんが作る人形には、魂が宿っていると評判だった。跡継ぎであるフェイロンは先代の贋作しか作れないことに苦悩するあまり、東洋の呪術に手を出す。そして、なぜか凶悪な喋るフランス人形が誕生してしまう。

一方、政府の裏組織「安全調査局」には、シャン・ドール店が反社会的であると告発する内容の手紙が届いていた。局員二人は実態を調査するため、店を訪れることになるが……。​


 
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・性転換→×
※但し、演者の性別は問いません。
・一人称、口調、語尾等変更→〇
・アドリブ→キャラクターのイメージを大きく損なわない程度であれば〇


 

◇登場人物◇

フェイロン:
(性別不問)
ドール職人の少年で、シャン・ドール店の店主。今は亡き先代の店主・シャン爺さんが作った人形に完全性を見出し、強い憧れを抱いている。彼自身はその贋作しか作れないことに苦悩し、人形に魂を宿そうと試行錯誤している。人嫌いで偏屈な一方、人形に関しては素直な感情を出す。

マリアンヌ:
(性別不問)
喋って動く小汚いフランス人形。フェイロンが施した東洋の呪術により、身も心も汚いオッサンの悪霊が宿っている。フェイロンを恨み、彼の身体を乗っ取るべく執拗に付け狙うものの、詰めが甘いため一歩及ばないことが多い。綺麗な女性に目が無く、生前はそれで身を滅ぼしたらしい。

※兼役

シャン爺さん(ラオシャン)
フェイロンの育ての親でもあり、人形作りの師でもある。フェイロンに「魂を宿すな、墓場に近づくな」と言い残した。途中、マリアンヌに憑依する場面がある。
※外面(人形の見た目)に合わせて女性でも、内面(オッサン)に合わせて男性でも。

 


ユーエン:
(男性)
政府の機関である安全調査局、通称安調局のインテリ局員。なかなかの演技派で、任務中は人当たりのいい人物を演じることが多いが、実際はニヒルで素っ気ない。冷静さを欠くと煙草が手放せなくなる。二枚目のため局内にファンは多いものの、近寄りがたさと実はマザコンとの噂から未だに独身である。

ヨウリン:
(女性)
ユーエンの部下の若手局員。この辺の人間には見られない、わざとらしい訛りがある。一見するとお淑やかで物腰が柔らかいものの、大抵の場合は遠回しな嫌味が含まれている。誰に対しても臆せず馴れ馴れしく、任務をどこか楽しんでいる。実は糸目で痩せぎすなのをひそかに気にしている。

◇用語解説◇

◆シャン・ドール店……フェイロンの育ての親であり人形の師でもある、シャン爺さんが営んでいた人形店。数十年前、彼が作った人形には魂が宿っていると巷では有名だった。シャン爺さん亡き後はフェイロンが店を引き継いだ。

◆安全調査局(通称安調局)……治安の維持を目的とする政府の裏組織。反政府組織や思想犯、犯罪者予備軍などの危険人物の捕縛、処罰を担う。表向きには局員は公務員ということになっているが、謎多い組織である。

フェイロン:

人の形をしたモノすなわち「人形」。それは、限りなく人に近いが、似て非なるもの。両者に違いがあるとすれば、そこに命、魂、霊が宿っているか否か。姿かたちを完璧に作りあげたなら、次なる課題は命を宿すこと。

 


―間。
―安全調査局内。ユーエンが汚い手紙を眺めている。


ヨウリン:

ニイニイ、お疲れ。あれ? またあのけったいな密告文、届いとったん?


ユーエン:

「死体を使って人形を作る異常者がいる」「子供の骨を見かけた」「怪しい爆発物の匂いがする」……いや、まさかな。はっ、どいつもこいつもふざけたもんばかりだ。


ヨウリン:

んー? (手紙を見て)ぷっ。あはははは! なんなん、これ。えらい独創的な字やなあ。何年習字をやったら、こんなおもろい字が書けるようになるんやろ。


ユーエン:

ちっ、どう見ても汚ねえだろうが。……ふん、どれもこの店についてか。


ヨウリン:

「シャン・ドール店」……。これ、ひと昔前に話題になった「魂が宿るドール」やん。
 

ユーエン:

「魂が宿るドール」? 何だ、それは。魂というと……動きでもするのか? ふん、どうせ機械仕掛けか何かだろう。
 

ヨウリン:

ちゃうちゃう。別に動かんけど、まるで生きてるように見えるんやって。有名女優でも死んだ人でも、そっくりに作ってくれはるとか。作家は、あー、なんて言うたか。
 

ユーエン:

詳しいんだな。
 

ヨウリン:

お嬢様とお人形遊びは切っても切れない関係なんやで?
 

ユーエン:

君がお嬢様とは初耳だよ。……資料に書いてある。人形師のシャン爺さんは五年前に死亡。家族は……いねえみてえだな。で、店はそのまま放置か。ったく、税金は払ってんのか?
 

ヨウリン:

こないにぎょうさん密告文が来るなんて、どっかからえらい羨ましがられとるんやな。
 

ユーエン:

どうだかな。だが、あやしいことに変わりはねえし、このまま無視するわけにもいかねえさ。危険因子はいつ出てくるかわからねえからな。どんな小さな芽も、早めに摘み取るに限る。……血生臭えことにならねえといいんだがな。
 

ヨウリン:

……? ま、お仕事熱心で何よりやわ。はー、忙しくなりそうやね。

 


―間。
―真っ暗な室内。浴槽の縁には腹部を縫い合わされ、身体中に糸を巻かれたフランス人形が横たわっている。

 
フェイロン:

糸はこれぐらいか。縫い合わせも、爪も入れた。ビスクドールじゃないけど、綿入りはこれしかなかったから仕方ない。これで本当に魂が……? わからないけど、やってみるしかない。……「次はアンタが鬼、次はアンタが鬼、次はアンタが鬼。」……「ボクの勝ち、ボクの勝ち、ボクの勝ち。」


―フランス人形がゆっくりと動き出す。フェイロンは気付いていない。


マリアンヌ:

ワシ……メリー……さん。
 

フェイロン:

東洋の呪術……。やっぱり何も起きない。こんなもので魂が宿るわけないか。試す価値もなかった。

 

マリアンヌ:

ワシ……メリーさん。
 

フェイロン:

悪霊でもなんでも、そこに移すことができれば……。
 

マリアンヌ:

いま……
 

フェイロン:

魂さえ宿せば、ボクは完璧になれる。
 

マリアンヌ:

お前さんの、うしろにいるの。へへっ。
 

フェイロン:

うるさい、話しかけるな! ……は?
 

マリアンヌ:

み、い、つ、け、た。(刺されたナイフを引きぬく)
 

フェイロン:

そうか……その辺の悪霊か。おい、その手に持ってるナイフをよこせ。
 

マリアンヌ:

やーだね。
 

フェイロン:

黙れ。(マリアンヌの髪の毛を掴み、浴槽に沈める)
 

マリアンヌ:

あ、あばばばばばば! 溺れる、溺れる、ごぽごぽごぽ……。
 

フェイロン:

まあ、これも一つの魂が宿ったと言えるか。見るも無残だけど。結局ボクの作ったドールではないし、振出しだな。
 

マリアンヌ:

(水の中で)こ、ろ、し、て、やる……う。
 

フェイロン:

ラオシャン。ボクはアンタを超えてみせる。その為には何だってやってやるよ。

 


―間。
―数日後。シャン・ドール店の前で、ヨウリンが無理やりユーエンと腕を組んでいる。


ユーエン:

例の店はここか。「生きる人形、シャン・ドール店」……。
 

ヨウリン:

ねえ、ウチにこの服はちょいと可愛すぎるんやないん? ダー・リン。んと、ダーリン? どっちがええ?
 

ユーエン:

その気色悪い呼び方を何とかしろ。虫唾が走る。あー、入る前に一服いいか?
 

ヨウリン:

ええけど、ウチからあと五十歩くらい離れてや。
 

ユーエン:

……手厳しいな。
 

ヨウリン:

えーっと、ウチは子供を亡くしたかわいそうな奥さん。子供を亡くしたかわいそうな奥さん。
 

ユーエン:

くれぐれもいらねえことは抜かすなよ。君の猿芝居は見てて恥ずかしくなる。
 

ヨウリン:

あら、そないに褒めてくれるなんて、優しいダーリンやな。
 

ユーエン:

ほざけ。……ごめん下さい。どなたかいらっしゃいますか?


―ユーエンが呼び鈴を鳴らすと、ほどなくしてフェイロンが出てくる。


フェイロン:

客か。とりあえず入って。
 

ユーエン:

驚いた。あなたが店主ですか。その……随分とお若いようですが。
 

フェイロン:

店主兼、職人。で、用件は?
 

ユーエン:

妻から聞いたんです。何でも、こちらには魂を宿した人形があるとか。少し見せていただいても?
 

フェイロン:

それは、昔の話。(店内を見せる)ほら、こういうビスクドール。これは、先代の。
 

ヨウリン:

……。(圧倒される)可愛い子ばっかやね。とってもようできとるわ。凝った衣装に、目鼻立ちも本物の人間みたいやし。
 

ユーエン:

本当に、これが人形なんですか? まるで生きてるみたいですね。
 

フェイロン:

(食い気味に)本当に? 本当にそう思う?
 

ユーエン:

え? え、ええ……。
 

フェイロン:

……いや、社交辞令か。おだてても何も出ない。それで、何。ドールの依頼? それとも冷やかし?
 

ヨウリン:

そんなんやない。これでも真剣にお人形さんが欲しい思うて来とるんや。
 

ユーエン:

どれもこれも、子供が遊ぶにしてはサイズが大きめですよね。赤子くらいはありそうですが、まさか……愛玩用?
 

フェイロン:

冷やかしなら帰って。
 

ユーエン:

すみません、つい気になって。これほどの写実性があれば……生きている人間をモデルに頼まれることもあるのでは?
 

フェイロン:

確かに先代はそういうのも作ってた。でもボクには無理。これが、ボクの。(別の人形を指さす)
 

ヨウリン:

さっきのとそっくりそのまんま、おんなじお人形やな。
 

フェイロン:

生きてるようには、見えないだろ。
 

ユーエン:

それはまあ、人形ですし。
 

フェイロン:

先代のとは全然違う。
 

ユーエン:

そんなことは―
 

フェイロン:

おべっかはいい。自分が一番よくわかってる。ボクは先代の贋作師。偽物、コピーしか作れない。
 

ヨウリン:

まだ若いんやから、そないに決めつけんでも……。
 

ユーエン:

では、あなたはオリジナルの人形を作っていない、ということですか。
 

フェイロン:

そういうこと。ここにある見本で欲しいのがあれば言って。無いなら帰って。
 

ヨウリン:

はあ……。商売っ気がありすぎて、閑古鳥も黙りそうやな。
 

ユーエン:

その、無理を承知でお願いなんですが……あなたのオリジナルの人形を、妻に作って頂くことはできませんか?
 

フェイロン:

さっきも言ったろ。ボクは先代の贋作しか作れない。
 

ユーエン:

そこを何とかお願いできませんか。言い値で構いませんから。
 

フェイロン:

なんでそんなに必死なんだ。ボクはオリジナルは―
 

ヨウリン:

ダーリン、あれを。
 

ユーエン:

ああ。(写真を取り出す)これを見てくださいませんか?
 

フェイロン:

写真……女の子か。
 

ヨウリン:

この子。ウチらの宝物やったんや。でも、今はもう。うっ……ぐすっ。(わざとらしく泣き出す)
 

ユーエン:

病気で亡くなった娘です。まだ十五歳でした。
 

フェイロン:

……それは、ご愁傷様。
 

ユーエン:

偽物でもいいから、また一目見たいと思うのはいけないことなのでしょうか。慰めが欲しいのです。
 

フェイロン:

……そう。でも、ボクがいくら丹精込めようと、心血注ごうと、本物に叶うことは決してない。アンタの事情は知らないし興味もないけど、ボクの作る人形に先代のような期待を込めるのはお門違いだよ。
 

ヨウリン:

あんたの、贋作言うてたけど、そうは思えないくらい瓜二つだったやないか。ウチにはそれで充分や。
 

ユーエン:

今はこの通り回復しましたが、妻は病にかかり、次の子を望めない体になってしまいました。この先、何も楽しみがなくなってしまったんです。
 

ヨウリン:

うう……ぐすっ……ぐすっ。ダーリン……思い出させんといて。ますます辛くなるだけやから。
 

フェイロン:

……わかった。手付金は。
 

ユーエン:

五十ゼンでどうでしょう?
 

フェイロン:

わかった。引き受ける。残りの百ゼンは商品と引き換えで。……文字通り、魂を込めてみせるから。
 

ユーエン:

頼みましたよ。

 


―間。
―二人が帰った後。店の奥から、ナイフを持ったマリアンヌが顔を出す。


マリアンヌ:

なあーにビクビクしちゃってんだよ。実は魂宿せる、って言えばもーちょい引っ張れたのになあ。もったいねえ。
 

フェイロン:

ちっ、アンタか。今度はどんな悪戯を仕掛けたんだ?
 

マリアンヌ:

ワシの名前はマリアンヌだ、お前さんがそう名付けたんじゃなかったのか? シリブプレ?
 

フェイロン:

ナイフを投げるな。ドールに当たったらどうしてくれるんだ、この悪霊め。
 

マリアンヌ:

そんな悪霊にも縋りたいのはどこのどちらさんだったかねえ。こんなふうに、動くことが出来たら、お前さんの人形もさぞかし凄かったろうになあ!
 

フェイロン:

動くだけならゼンマイ仕掛けで何とでもなる。口だけは達者な不良品め。
 

マリアンヌ:

でも心がねえんだよなあ。残念だが、お前さんの作品には何も宿ってねえ。あるのはただ、先代を越えられない悔しさ、いや、劣等感だけってなあ?
 

フェイロン:

黙れ!
 

マリアンヌ:

ふっふーん。焼こうが沈めようが人形のワシは死なねえぞ。え、どうする?
 

フェイロン:

逆に言えば、アンタはボクの許可なしにはそこから抜けられない。ボロ雑巾みたいになって動けなくなっても、魂だけはそこにあり続けるんだ。いっそ死にたくなるかもな。
 

マリアンヌ:

ワシはいたいけなフランス人形だぞ。可愛い人形をいたぶるとは、世界中の子供たちを敵に回したも同然だ!
 

フェイロン:

ナイフを振り回しながら言うな。この性悪失敗作め。
 

マリアンヌ:

むきー! せめて球体関節なら、もっと早く動けるのに!
 

フェイロン:

……出かける。しばらく大人しくしてろ。
 

マリアンヌ:

お、行ったか? よし。死ね死ね、爆発しろ。へっ、あのクソガキが。今日のために寝る間も惜しんで用意した、トゲの拷問器具に、電気椅子っと。へへっ。こいつを食らったらひとたまりもねえぜ。(椅子にぶつかり、電気が流れる)―いってえ! あ?……ぎ、ぎゃああああ! ちょ、痺れる! びりびりするう! 止めて、止めて、止めて!
 

フェイロン:

何をやっているかと思えば……はあ。仕事を増やすな。
 

マリアンヌ:

ちょ、早く助けてくれって!
 

フェイロン:

自業自得。(本を拾い上げる)……何、この本。ああ、さっきの衝撃で棚から落ちてきたのか。見たことない。……ラオシャンのか? (何かに気付く)……っ! もしかして、これは―
 

マリアンヌ:

あ、ちょ、どこ行くんだよ!
 

フェイロン:

ただの墓参り。しばらくそこで反省してろ。
 

マリアンヌ:

ちきしょ―!

 


―間。
―ユーエンとヨウリン、仕事場に戻る。

 

ヨウリン:

なあ、ニイニイ。お人形さん、どんなんやろなあ。ウチ好みの可愛いやつやとええけど。楽しみやねえ。
 

ユーエン:

なんだ、その変わり身の早さは。本来の目的を忘れたんじゃねえだろうな?
 

ヨウリン:

わかっとるって。怪しいとこがないかチェックやろ。
 

ユーエン:

杞憂だといいんだがな。
 

ヨウリン:

なあ、あれ経費で落ちるん? あんたの家にはえらいしゃれとると思うんやけど。
 

ユーエン:

持っていきたいのか? 好きにしろ。モデルは俺の母親の若い頃のだけどな。
 

ヨウリン:

……おかんの写真持ち歩いとるん? うわあ、おかん大好きなんやねえ。道理で若い女の子たちからきゃあきゃあ言われるわけやわあ。四十路なんてまだ若いもん、なかなかお嫁さんが決まらんわけやねえ。
 

ユーエン:

君の嫌味はそうと聞こえないのが難点だな。なんとかハラスメントで訴えてやれないのが残念だ。
 

ヨウリン:

ふふ、おおきに。ほんで、この盗聴器は霊界と通じとるんやろか?
 

ユーエン:

は? どういう意味だ。
 

ヨウリン:

聞けばわかるて。……な。なんか愉快なお人やないの。
 

ユーエン:

店にはあの店主一人だけかと思ったが……明らかに別人の声が聞こえるな。
 

ヨウリン:

けったいやなあ。怪奇現象か、もしくは……あの子、ああ見えておめでたい頭なん?
 

ユーエン:

そんな風には見えなかったが……少し注意する必要がありそうだな。いい機会だ。後でもう一人とやらの顔を覗きに行くか。
 

ヨウリン:

はいはーい。

 


―間。
―二人が再びシャン・ドール店を訪れる。

 
ユーエン:

ごめんください。少し忘れ物を―
 

マリアンヌ:

誰かー、たーすーけーてー!
 

ユーエン:

人の声……? あのー、どなたかいらっしゃいます? ……いや、気のせいか。誰もいねえよな?
 

ヨウリン:

んー、せやなあ。そこの椅子に、これまたえらいこぎれいなフランス人形が縛られとるだけやな。
 

マリアンヌ:

うっせえ、黙れ。ワシは誇り高きフレンチのレディー、マリアンヌだ。
 

ユーエン:

……は? 人形が、喋った? もしかして、幻聴か? ……疲れてるのか。はあ、こんな現場は早急に終わらせて、早く一服しないとやってらんねえな。
 

マリアンヌ:

おい。おーい。何とか言えよ、あんちゃん。
 

ユーエン:

なんで喋ってるんだ。……いや、俺にしか聞こえていないのか。君にはあいつの声が聞こえるか?
 

ヨウリン:

ウチの耳がおかしくなったんやなければ。その子、何なん? どういう仕組みなん、これ。
 

マリアンヌ:

ワシはマリアンヌ。いたいけでかわゆいフランス人形だ。
 

ユーエン:

ゼンマイ仕掛け? いや、どう見ても喋っているようにしか聞こえねえ。こちらの声に反応しているということは……どこかに通信機が?
 

ヨウリン:

もしかしてこれが、先代の「魂を宿したお人形さん」……とか? えらく作風変わっとるやん。ゴミ捨て場の方がお似合いやけど。
 

マリアンヌ:

へっへっへ。ワシのことが気になってきたあ? ところで、この紐早くほどいてくんない?
 

ユーエン:

あ~、何がどうなってるんだ。これは現実か? いや悪夢か。(煙草を取り出す)失礼、少し吸わせてくれ。
 

ヨウリン:

ウチの吸う空気を美味しく燻してくれるなんて、えらく親切やないの。
 

ユーエン:

……だめか。
 

ヨウリン:

室内やで?
 

マリアンヌ:

で、お前さんたちはなんだ。サツ? マフィア? ま、どっちでもいいわ、チャカかハジキ持ってる? ソイツで一発ぶすっと、この椅子をやっちゃってくれよ。
 

ユーエン:

そんなことをしなくてもこの通り取れる。(紐をほどく)……はあ。君は何なんだ。あの店主とはどういう関係なんだ。説明してくれ。
 

マリアンヌ:

ただで教えてくれってか? けっ、そいつはごめんだね。
 

ヨウリン:

へー。お人形さんがどこでお金使うんやろ。喋るお人形さんは博物館でさぞかし人気が出るやろなあ。


マリアンヌ:

え。いやそれは困るっつーか。……あー、わあったよ。んー、どこから話せばいいのか。ワシは生前、それはまあダンディーなイケおじでな。色んなかわい子ちゃんと付き合ってたんだぜ。まあ大きい声じゃ言えないが、それなりに危ない橋を渡って資金繰りしててな……ある日それがバレて、全てはおじゃんに。そして目が覚めたら、こうなってたってわけよ。
 

ユーエン:

……何を言ってるだ、こいつは?
 

ヨウリン:

おもろい寝言やな。
 

ユーエン:

いろいろと突っ込みたいところだが……。店にあった人形が随分減っているな。この短期間で売れたとは思えないが……あの店主がどこかへ持っていったのか?
 

ヨウリン:

ウチらの愛娘、もといあんたのおかんの写真も置きっぱなしやで。
 

マリアンヌ:

(写真を覗き込む)うほー! なあにこの写真。だあれ、この可愛い子ちゃん。将来有望株! 知り合い? 紹介して紹介して!
 

ヨウリン:

ぷっ。やって、紹介してやったらどうなん? ニイニイ。
 

ユーエン:

……残念だが、今は見る影もない小太りのばあさんだ。
 

マリアンヌ:

げっ、うそん?! おえー、むりむり。マジで願い下げえ。
 

ユーエン:

随分と低俗な人形だな。ところで、あの店主はどこに?
 

マリアンヌ:

あ? あいつならついさっき、墓参りに行くとか言って……た、……気が。(急に動かなくなる)
 

ユーエン:

おい。どうした、おい!
 

ヨウリン:

急に喋らなくなってもうた。どうなっとるん? 電池切れ?
 

ユーエン:

何が何だかわからねえが……あの店主が何か知ってるかもな。行くぞ。

 


―間。
―墓場にフェイロンがいる。


フェイロン:

このドールたちにふさわしい魂を宿すには、どうすれば……。この本、ところどころ字が途切れてさっぱり読めない。……「決して命を宿すな、墓場に行くな」、か。なんでラオシャンはボクに禁じた? このままだと、ボクは一生贋作しか作れない。魂を宿したドールは、作れないのか?

―ユーエンとマリアンヌを抱えたヨウリンが陰から様子を見ている。

ヨウリン:

あの子、なんで墓場におるんやろ。誰かのお参りやろか。
 

ユーエン:

だとしたら、先代のシャン爺さんか? ……ん? おい、そいつ動き出したぞ。
 

マリアンヌ:

ぷはー! 軽く記憶飛んでたわ。あれ、ここどこ? ワシは誰? そう、ワシはフレンチレディーのマリアンヌ。うほっ、ここは女の子の腕の中、天国か? ぐへへ、こりゃなんて可愛いお嬢さ……いや、微妙だな。目つきと発育の悪さが絶望的にワシのタイプじゃな―ぐはっ!(ヨウリンに殴られる)
 

ヨウリン:

へえ、お人形さんなのに痛みを感じるんや。ふーん、おもろいわあ。
 

ユーエン:

おい、騒ぐな。
 

フェイロン:

誰だ?! ……あの時の客? 何で、ここに。何の用?
 

ユーエン:

いやはや、これは失礼。実はあの後、忘れ物をしまして。お店に行ったところ、このフランス人形が落ちておりまして。
 

フェイロン:

ああ、それでわざわざ。でも、ボクがここにいるのはどうやって?
 

ヨウリン:

んー、えっと……。(小声でユーエンに)どうするん? この子が喋れることは、さすがに知っとるんよな?
 

マリアンヌ:

へっ。へっへっへ。
 

フェイロン:

おい。客の前だ、黙れ! ああ、そいつはその辺に放り出しておいてくれればいいので。ご丁寧にどうも。では。
 

ヨウリン:

はいはーい。(マリアンヌを放り出す)
 

マリアンヌ:

ぐほっ! え、ちょ、ワシの扱い酷くない? 
 

ユーエン:

いえ、隠さなくても結構ですよ。このフランス人形はなぜ喋って動くんです? まさかこれが、先代の作られた「魂を宿したドール」なんですか?
 

フェイロン:

違う。そいつは、ただの市販品。東洋の呪術でその辺にいた悪霊を宿しただけの失敗作。
 

ヨウリン:

悪霊が憑いた……? じゃあ、こんなにこぎれいなんは呪術のせいなん?
 

ユーエン:

随分と下品で低俗な霊魂を選んだものですね。
 

フェイロン:

選んでなんかいない。勝手に憑いてきた。
 

ユーエン:

中身はどこの誰です? 名前は?
 

マリアンヌ:

そんなん、覚えてねーよ!
 

フェイロン:

この通りだからボクも知らない。
 

ヨウリン:

その調子やと、いつ死んだのかもわからなさそうやな。
 

マリアンヌ:

今はちょー可愛いフランス人形になったけど、どうせならイケメンになって人生やり直したいんだけど?! もう誰でもいいからちょっと身体貸してよ、ねえ!
 

ユーエン:

口を開けば開くほど残念な物体だな。……次は綺麗な女子に拾われるといいな。
 

ヨウリン:

えー? ウチはこんなん願い下げやわあ。
 

ユーエン:

誰も君とは言っていない。
 

ヨウリン:

ま、これはウチにも過ぎたもんやしなあ。
 

マリアンヌ:

暴力女は論外として……その手があったか! うふ、うふふん。フランス人形はいかが? って。そんで願わくば一緒のお布団にダイブしちゃってえ……おほ。おほほほほ!
 

フェイロン:

もういい加減黙れ、悪霊!(マリアンヌの首根っこを掴む)
 

マリアンヌ:

ぐえっ! やっぱこいつはぶっ殺す! ……おい、クソガキ。お前さんが外出してる時、いつもワシの記憶がないのはなんでなんだよ。
 

フェイロン:

……外出? そうか。物理的な距離があると、こいつは動けなくなって魂が抜ける? なら売り物にはならない。……ちっ、やっぱり不完全だ。
 

ユーエン:

失礼を承知で伺いますが、君は先代のような人形を作りたくて、こんなことを?
 

フェイロン:

だったら何? 生きたドールはドール職人の悲願、夢のまた夢。それを目指して何が悪い。
 

ヨウリン:

先代さんは、本当にお人形さんへ命を宿しとったん?
 

フェイロン:

わからない。動いたことは無いけど、本当に生きているように見えた。
 

ユーエン:

なるほど。あー、これは大陸の話なんですが、人間に蝋やプラスチックを流し込んで、死体を人形にした医者がいたとか。あまりにも精巧な人形を見ると、そんな与太話も真実味を帯びてきますよね。
 

ヨウリン:

ちょいと踏み込みすぎちゃう?
 

フェイロン:

……ボクのは。
 

ユーエン:

え?
 

フェイロン:

ボクのドールたちには、魂が宿っているように見える?
 

ユーエン:

それは……。
 

ヨウリン:

えーと、見える、見える見える。落ち着き。安心しい。
 

フェイロン:

ふん。及ばないのは自分が一番よくわかってる。
 

ユーエン:

えっと、いや……。それにしても、この辺りはあまり治安が良くないでしょう。子供が攫われたり、迷い込んだり、そういうことは?
 

フェイロン:

興味無いから知らない。ああ、そうか。ボクが魂にこだわるあまり、よもや人間の肉体をドールに使ってないか、不安?
 

マリアンヌ:

ぶっ。ないない、ないぜ。先代はともかく、こいつが作れるのは贋作だけ。たとえ加工した死体を使ったって、魂が宿ってるようには見えやしねえって!
 

ヨウリン:

この店が犯罪の温床になっとる、てのはなさそうやね。てことはあの密告文は悪戯やろか。お人形さん、キャンセル?
 

ユーエン:

いや、もう少し様子を見たい。……その本は?
 

フェイロン:

わからない。うちにあった。
 

ユーエン:

すこし見せてもらっても? ああ、どうも。(本を受け取る)……かなり痛んでいて、破れもひどいな。
 

フェイロン:

アンタ、もしかして何か知ってるの?
 

ユーエン:

うーん……。タイトルは……一昔前の字体か? ここは横線。ここの上の文字は恐らく……。そことここを繋ぎ合わせて、この文字は恐らく……死体呪術師、か。
 

ヨウリン:

なんなん、それ。
 

ユーエン:

わからない。ただ、思い当たるのは―
 

フェイロン:

そうか。……そうだったのか! ちょっと返して。
 

ユーエン:

あ。おい!
 

フェイロン:

(本を取り返す)……死体、呪術師。なら、ここは……こうで。魂を授ける呪文は、これか? 「死者の王の名により命ず。汝は我の手となり足となり、骸(むくろ)の殻に魂を授ける。」
 

マリアンヌ:

う……うぎゃあああああ! (倒れる)
 

ヨウリン:

は?! なんや、また急に倒れたけど……何が起こっとるん?
 

マリアンヌ:

(シャン爺さんが宿る)「フェイロン。フェイロンや。なぜ、ここに来たのじゃ。わしは言ったはずじゃ。」
 

フェイロン:

その口調……マリアンヌじゃない。もしかして、ラオシャン?
 

マリアンヌ:

「決して、墓地に近づくなと。魂を宿すなと。おぬしの呪われた血は……隠さねばならぬ。未来永劫に。」
 

ヨウリン:

なんや、さっきまでのポンコツとは全然ちゃうやん!
 

ユーエン:

まさか中身の悪霊が別の霊に入れ替わったのか?! いや、待て。こいつだけじゃない。墓石が動いているぞ。ちっ、どうなってやがる!
 

フェイロン:

「呪われた血」……? ラオシャン、教えてくれ。どういうことだ。ボクはいったい何者なんだ?
 

マリアンヌ:

「おぬしは一族の生き残り。だがこの力は使ってはならぬ。誰にも見せてはならぬ。さもなくばおぬしは―」
 

ヨウリン:

ニイニイ! あの子の持ってきたお人形さんたちが動き出しとる!
 

フェイロン:

そうか! ついに、ついに……ついにボクはやったんだ。これでラオシャンを超えられる。ラオシャン、見ろ。これで、ボクのドールたちにも魂が宿ったんだ!
 

マリアンヌ:

「馬鹿者! 墓に……霊に近づくなと、あれほど―」(元に戻る) ぐはっ……こいつは、ワシの、もんじゃあ! はあ、はあ、はあ……。
 

フェイロン:

おい、何してくれてるんだ! もう少しでラオシャンの言うことが聞けたかもしれないのに! ……まあいい。あとは、こいつらがボクの手を離れても動けるなら―

ユーエン:

待て。あの人形たち……動きがおかしい。このフランス人形とも違うようだぞ。
 

マリアンヌ:

おいおい、球体関節たちよお! ワシの方が先輩なんだから敬えよ。(人形たちが襲い掛かってくる)は? いやいや、首に手を掛けるなって。なんだよカツアゲか? おいおいやめてくれよ、ワシより質が悪いじゃねえか!
 

ヨウリン:

ちょ、ニイニイ。このお人形さんたち……ウチらに迫ってくるんやけど! うわっ、脚掴まんといて! の、上って来るんやけど?! なんなん、すごい力やで!
 

ユーエン:

ちっ、離れろ。この高さで振り落としても壊れないのか。いや厳密には……壊れても動き続けようとしているのか? おい、どういうことだ!
 

フェイロン:

……なんで。魂が宿ったんじゃなかったのか。これじゃあ……人を襲う道具。不完全だ。こんなの完璧じゃない。生きたドールじゃない!
 

ユーエン:

これ以上は埒が明かねえか。おい、君。悪いがこいつらは破壊させてもらうぞ。ヨウリン、伏せろ!(ヨウリンの肩に張り付いていた人形を蹴り上げる)
 

ヨウリン:

ニイニイ?! すれっすれやわ。危ないやん!
 

ユーエン:

伏せろと言っただろ。
 

ヨウリン:

お人形が迫ってきてそれどころやないねん!
 

ユーエン:

人形が動いているのは……あの本を読み上げたせいか。なら、どうやって止めれば―おい、他に読めそうな部分は?!
 

フェイロン:

(混乱している)……生きてるドールが、なんで墓場で動く? いや、墓場じゃないと動けないのか。霊魂……マリアンヌの時みたいに悪霊が入っただけじゃない?
 

マリアンヌ:

おいクソガキ! 正気に戻れ! お前さんは失敗したんだよ。それより早くこいつらをどうにかしろって。……ダメか。おいあんちゃん、この本が欲しいんだろ! おらよ!(本をユーエンに投げる)
 

ユーエン:

助かった。どこを探せば……。だめだ、何も読めねえ。こいつら、壊れても、手足が取れても、起きてきやがる! 人形だから痛みは感じねえってか?
 

マリアンヌ:

ワシは感じるけどな!
 

ヨウリン:

今はそんなんどうでもええわ。ニイニイ、銃で頭狙うんや!
 

ユーエン:

は? いや、人間じゃあるまいし―
 

ヨウリン:

モノは試しやって。このまんまじゃどうにもならんで!
 

ユーエン:

ちっ! だが、囲まれてるぞ!
 

ヨウリン:

そこのぼろぼろ人形に引き付けてもらったらええんとちゃう?
 

マリアンヌ:

ワシの話聞いてた?
 

ユーエン:

悪いがそのまま走り回ってくれ。できるだけあてないように気を付ける。
 

マリアンヌ:

できるだけってなんだよ!
 

ユーエン:

ヨウリン君は上って来た奴らを捕まえていてくれ。
 

ヨウリン:

はいはい。ほんなら、あと四体や!
 

ユーエン:

マリアンヌとやらは、そのまま人形たちを引き付けていてくれ。
 

マリアンヌ:

あんなあ、いくらあたっても死なねえっつっても、怖いものは怖いんだよ! (走り回りながら)ひえー! 耳がいてえ! とっとと全員壊してくれよ。
 

ヨウリン:

残り、あと二体や!
 

ユーエン:

任せろ!
 

フェイロン:

(壊れていく人形を見て、茫然とする)そんな……ドールたちが……。
 

マリアンヌ:

おうおうよかったな。こいつらも元々陶器だし、晴れて土に還れるってもんだ。
 

ヨウリン:

終わりや! これで全部粉々やな。
 

ユーエン:

すばしっこい奴らだったな。すまねえ、不可抗力だ。許してくれるか?

フェイロン:

……仕方ない。ボクの力不足だ。やっぱりラオシャンは超えられないのか……。
 

ユーエン:

君はもしや……とは思うが。あの「ネクロマンサー」の生き残り、なのか?
 

ヨウリン:

ネクロマンサーてあの、死体を操る、っちゅう黒魔術の? でも、十数年前だかに安調局に摘発されて、粛清されたって話やろ?
 

ユーエン:

マリアンヌ……いや、シャン爺さんが言っていたな。君は生き残りなのだ、と。その本は恐らく両親が遺してくれたものだろうな。
 

フェイロン:

そうか。そうだったのか。だからラオシャンはこの本についても教えず、死体にまつわる場所からボクを遠ざけた……。
 

ユーエン:

君は恐らく、墓場にいた悪霊たちを人形へ入れてしまったのだろう。どういう仕組みかはわからないが、そいつらが暴走して君以外の者たちを襲い始めたようだな。
 

ヨウリン:

ニイニイ。この子、どうするん? 密告文もあったし取り調べとく?
 

ユーエン:

いや……必要ない。
 

ヨウリン:

え? ネクロマンサーはかつての粛清の対象やろ。このままほっといたら何がきっかけになるかわからんし、危険やで。
 

ユーエン:

……今回は観察対象とする。それでいいだろ。
 

ヨウリン:

ふーん。妙に甘いのが気になるけど。まあニイニイがそれでええなら、ウチからは何も言えんし。
 

ユーエン:

恩に着る。
 

マリアンヌ:

おい、話は終わったか?
 

ユーエン:

……そういえば、まさかとは思うが。あの密告文を送ってきたのは、君か?
 

マリアンヌ:

ちっ、バレたか。まあこいつの監視はワシの方でやっとくから、お前さんたちは安心しとけよ。
 

ヨウリン:

いっちょ前に偉そうなのがおもろいわ。
 

フェイロン:

……マリアンヌ。アンタ、ボクを殺すつもりじゃなかったのか。
 

マリアンヌ:

いやー、結局ワシだけが魂を宿した唯一無二の人形みたいだし? お前さんから離れたら動けないこともわかったし、しょうがねえからな。ま、これからは仲良くやろうぜ。な?
 

フェイロン:

急に調子の良いことを言い出すんだな。
 

マリアンヌ:

それでゆくゆくはテレビに出演してかわいこちゃんとお近づきに……ぐふ。ぐふふふふ。
 

フェイロン:

黙れゲス人形! (マリアンヌを殴る)
 

マリアンヌ:

ぐはっ!
 

フェイロン:

それで、さっき密告文がどうとか言ってたけど、あんたらは人形を依頼したいわけじゃなかったのか。
 

ユーエン:

ああ。結果的に商売の邪魔をして悪かったな。その代わり、君たちについては黙っておいてやる。それでいいだろ。
 

フェイロン:

そうか。……けど、ボクは諦めない。ネクロマンサーの力を使わなくても、東洋の呪術でなくても、ラオシャンを越える「生きたドール」を作ってみせるよ。
 

ヨウリン:

そん時は、この人のおかんの若い頃の人形でも作ったげてな。
 

フェイロン:

……え? あ、ああ。
 

ユーエン:

わざわざいらねえことを言うな。

 


―間。
―仕事場に戻ったユーエンとヨウリン。


ヨウリン:

ニイニイ、本当にあれでよかったん? なんか暗い顔しとったんが引っ掛かるんやけど。
 

ユーエン:

君は知らなくていいことだ。
 

ヨウリン:

もしかしてやけど。あの子の家……ネクロマンサーのことで、昔なんかあったん?
 

ユーエン:

……まあ、どうだかな。長いことこの仕事をしてると、知らなくていいことも、忘れたくても忘れられねえこともあるんだよ。
 

ヨウリン:

ふーん。なんや意味深やな。さすが四十路のイケおじは言うことがちゃうわあ。……あんましょい込まんといてな。
 

ユーエン:

……ああ。気が向いたらそのうち話すが、とりあえず今は一服させてくれ。
 

ヨウリン:

あ、そ。じゃあ、まずはウチから五十歩くらい離れてや。
 

ユーエン:

……手厳しいな。

​ーFin

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