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奴隷商人と売れ残り

―ありとあらゆる種族が取り揃えられた奴隷市場で、

いつも売れ残る「売れ残り」がいた。

謳い文句で競りを終えた商人は、売れ残りに向って心情を吐露する。

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・一人称、語尾変更、アドリブ→○

◇登場人物◇

奴隷商人:

​(性別不問)

奴隷市場でエルフにドワーフと言ったあらゆる種族の奴隷を売っている。仕事はきっちりとこなすが、実は嫌気がさしている。

皆様、本日はようこそおいで下さいました。
この市場の競りでは、一風変わった新鮮な生き物がどこよりもお安い価格でお買い求めいただけます。とは言っても、お値段を決めるのはあなた方次第と言ったところですかねえ……ふふふ。

本日のラインナップはなんと! 獣人、ゴブリン、ホビット、エルフにドワーフ、それに妖精までとよりどりみどり! さあさあ、皆様どうぞお気に入りが見つかりましたら、お手をあげてくださいね。ペットにするもよし、奴隷にするもよし。
ああ、逃げられると困るという方は、ちゃーんと名前と住所を書いた首輪をつけておいてくださいね。

さあて、と。お次は……何の変哲もない人間でございます。あれあれ、皆様~? この人間をお買い求めたいというお客様は…? どこにもいらっしゃいませんか? 
は……ははははは。
大変つまらないものをお見せして申し訳ございませんでした。なあに、ほんの余興です。退屈させてしまいましたかな? では本日はこれにて閉幕。

 

ー(競りを終えて)


あーあ、っと…。今日もお前が売れ残ったか。いくら身ぎれいにしてやっても、化粧してやっても、どういうわけかお前だけ売れ残っちまうんだよな。それになぜか、他の業者も引き取りを拒否するし……どうしたもんか。ランニングコストがかかるから、早いとこ売っ払っちまいたいんだが。

あ? んだよ? 俺は今、最高にイライラしてんだ。お前と言う売れ残りがいるから、いつまでたってもこんなクソみてえな仕事から足を洗うこともできねえ。まあ、かと言って辞めて何するって話だがな。


このごみ溜めみてえな町で育った奴は、一生ここから出られねえんだ。金持ちに媚び売った商売して、なんとか食いつないでいくしかねえんだよ。

……少し喋りすぎたな。ったく、安い酒は喉が焼けるぜ。なあ、お前。毎日のんきにくつろいでやがるが、自分がそろそろ殺処分されてもおかしくないってわかっているのか?
あ~…その顔は……わかってねえみたいだな。っは! おめでたいこった。

 

あーもう! 辛気臭い話はやめだやめだ!

もう、今日でこの商売はおしまいだ。俺は旅に出ることにする。お前は、逃げるなり元いた場所へ帰るなり、好きにしろ。だいたい、俺はお前の主でも飼い主でもねえ。ただ、お前を拾って売ろうとしていた極悪人だ。

……はあ? ついていきたい? ったく、とんだ駄犬に懐かれちまったもんだ。ああ、もう好きにしろよ。

ふん。まあこういうのも悪くねえか……。

​ーFin.

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