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胸きゅん研究会議

軽快な漫才風掛け合いのラブコメです。
男性には胸きゅん台詞を読んでいただく箇所もあります。

女性はひたすらボケつつ発狂していただきます。

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・一人称、語尾変更、アドリブ→○​​

・性転換→× ※今回の台本にはそぐわないので。

なお、演者の性別は問いません。

◇登場人物◇

男:

女の腐れ縁で少し彼女のことが気になっている。鋭い突っ込み役。

​『』内は台詞としてキメキメで読んでも、棒読みでも可。


女:

胸きゅん狂。敬語キャラ。冷静に分析する傍ら、鈍感なところがある。

R (7).jpg

女:

では、今回の定例「胸きゅん会議」を始めたいと思います。


男:

いや、えっと。ちょっと待って? 俺はどこから突っ込めばいいの?


女:

いいですか? 今を時めく少女漫画ないしは乙女ゲーム、さらに言うならラブロマンスと呼ばれるジャンルの映画やドラマなど、この世界は胸きゅんに満ち溢れています。
そう、乙女たちは胸きゅんを欲している。いつだって誰だってきゅんきゅんしたいと、そう思ってるはずです。


男:

いや、それはお前だけでは―


女:

(無視)そしてある時ふと私は思ったわけです。これだけあまたの作品があれば共通した胸きゅんシチュエーションがあるはず。いわゆる王道という奴ですね。
 

男:

うわあ……話聞いてねえ。まあ、そういう一大ジャンルがあるのは間違いないけどさ。
 

女:

そうです、それを改めてカテゴライズして研究していこうというのが今回の目的であります。
 

男:

なんかしょっぱなから疲れてきたな……。
 

女:

あなたは借金のカタに、この会議の検証実験に協力いただけるんでしたよね?
 

男:

は? 借金? ああ、昼飯代のことか。えっと、確かメロンパンの150円だったよな。いやあ、あの時はまさか財布置いてくるとは思わなかったからさ。助かったぜ。えーっと、今はもってるぞ。150円150円……
 

女:

約束でしたよね?(圧をかける)
 

男:

あ~……全然聞く気ないじゃん。はいはい、付き合えばいいんでしょ付き合えば。
 

女:

話が早くて助かります。では、まずは「ドン」ものから行きましょうか。
 

男:

「ドン」……何それ。丼(どんぶり)の略か?
 

女:

そんなわけないでしょう! 「壁ドン」「床ドン」「足ドン」「肘ドン」など、主に迫られちゃうというときめきシチュエーションです。いや~、萌えますねえ。
 

男:

意味が解らんのだが。
 

女:

まあこれを読んだ方が早いですね。ほら、会議資料の1ページ三行目を呼んでください。
 

男:

なんだよこれ。わざわざ作ったのか。ええと……
『追い詰められてもう逃げられねえなあ。(ドン)ほら、抜け出せるもんなら抜け出して見ろよ。……ふふっ、無理だよなあ。このまま……どうすると思う?』

 

女:

この後に予想される行動ですが、八割キス、二割何もしない、ってとこですかね。
 

男:

冷静に解説するなよ。
 

女:

こういったドンを繰り広げるのはドSキャラが多いですね。胸きゅん全般にも言えますが、関係性及び顔面偏差値によって許されないこともあるので大きな博打です。
 

男:

あ~……ただしイケメンに限る、ってやつか。いや元も子もねえな! 確かにそうだけどさ。
 

女:

だって、想像してみてくださいよ。こんな状況嫌でしょ?
 

男:

『おっとすみません。ああ、ごめんなさい。ほかに手を付けるところがなくて。混んでますからね。は、はは……』
 

女:

これは満員電車でおじさんを壁ドンしてしまった場合ですね。
 

男:

そんな状況、知りたくなかったよ?!
 

女:

このまま車両入替になったら絶望的ですね。
 

男:

それは死にたくなるやつ!
 

女:

とまあこんなふうに、「ドン」ものはもはや王道中の王道。基本は「壁ドン」ですが、ここから派生してドンする身体の部位を変えれば「足ドン」「肘ドン」とより荒々しさや距離の近さが演出されるというわけです。
 

男:

はあ。いろいろあるんだな……。
 

女:

あるいは、ドンする場所を変えれば「床ドン」「天ドン」なんかも可能になるわけです。
 

男:

いやちょっと待て。最後どう考えてもおかしいだろ。「天ドン」って天井のことか? 何だソイツ。人間辞めてんのか? 
 

女:

さらにはこちらの用語は、胸キュンとは関係ないところでも広く知られております。集合住宅において隣接した部屋の住人が、騒音を訴えるために壁を殴ると言った意味もありますね。
 

男:

あ~……聞いたことある。そういえば、うちの兄貴も、音楽かけててうるさいと壁を叩いてくるな。
 

女:

なるほど。あなたはお兄さんから日々壁ドンされているということですね。
 

男:

その言い方は、さっきの意味で考えると恐ろしい解釈が生まれそうだからやめろ。
 

女:

おっと、私はノーマルなのでそういったものに興味はないですよ。大丈夫です。
 

男:

不安しかねえ……。
 

女:

では、気を取り直して次ですね。さっきの延長で、身体の一部分と動作の擬音語を組み合わせた胸きゅん用語はまだまだありますが、何か気になるものはありますか?
 

男:

「肩ズン」「顎クイ」……なんだこれ。
 

女:

いいですか? 肩ズンはこうやって……肩に頭を預けることを言います。
 

男:

うおっ?!
 

女:

いつも頼りがいのあるのに、恋人の前だけ弱みを見せてしまうギャップ……いいですよねえ。
 

男:

あ、ああ……悪くない、かもな。
 

女:

どうしたんですか急に。あっ、わかりました。ようやく胸きゅんのすばらしさがわかってきたんですね!嬉しい!!
 

男:

え……いや……違うけど違わないって言うか。(小声)なんだよ、無意識かよ。調子狂うな。
 

女:

では、次の「顎クイ」は会議資料の十二行目を読んでください。
 

男:

あ……ああ。
『ほら、上向いて。向いてくれないの? なら、これならどう? ドキドキするね。このまま目閉じてみよっか。』

 

女:

顎に手を添えてクイっと上を向かせる。名付けて顎クイです。この後は九割方キスに移行します。
 

男:

はあ?! は、恥ずかしすぎるだろ。こんなのやるやついるのか?
 

女:

ものは試しです。今度はあなたが私に顎クイしてみますか?
 

男:

……。(女を見つめる)
 

女:

……。(目を瞑る)
 

男:

だああ! 無理、無理無理無理無理! なんの拷問だよこれ。つかお前いいのか?こんなの他の奴らに見られたら、変な噂されるぞ?
 

女:

変な……噂?
 

男:

そうだよ! こういうのは……その。好きな奴にされるから嬉しいんだろ。
 

女:

……好きな、奴……。
 

男:

おい。聞いてるか?
 

女:

は、はい! えっと、何の話をしてましたっけ? ああそうそう、顎ズンと肩クイでしたね?!
 

男:

それ、混ざると大事故になるから。
 

女:

と、とにかく! この他にも、『なろ抱き』『俺コス』『袖クル』『いちゃほん』『NHK』なるものもありますから、よく読んでおいてくださいね。
 

男:

もうなにがなんだかわかんねえ! 最後明らかに違う何かを思い出させるな! 大丈夫? 消されるよ?
 

女:

「二の腕を 引っ張って キス」。略してNHKです。
 

男:

もはやこじつけだろ!
 

女:

長いので仕方ないです。
 

男:

もうわけわかんねえ。
 

女:

そんなこんなで今日は駆け足で進みましたが、胸きゅんについて少しは理解が深まりましたか?
 

男:

まあ、嫌でもな。
 

女:

では何か実践してみたいものはありましたか?
 

男:

いや、そんなのあるわけねえだろ! 大体そんな相手いないし。
 

女:

この会議の目的は日常に胸キュンという素晴らしいイロドリを感じることなんですから、そう冷たいことは言わずにお願いしますよお。あ、もししたくなったら付き合いますからね。まあ貴方に限ってはそんなことは無いとは思いますが―
 

男:

はあ? んだよ、さんざん人を付き合わせて恥ずかしいことばかりさせやがって……。ちょっと、そこに立って。
 

女:

は、はあ。ここですか?
 

男:

そう。その壁際。……これは、仕返ししないとな。(壁ドン)
 

女:

なっ!? こ、こ、こ、これは……
 

男:

俺が今何をしているかって? ああ、そうだな。端的に説明すると、俺の右手が壁についていて、その間にお前がいる。この体勢、確か……壁ドンって言うんだよな。
 

女:

ち、ち、ち、近いんですがっ?!
 

男:

そういうものなんだろ。それとも肘の方が良かったか? ああそうか。少しかがむから、俺の首が痛くならないか心配なんだな。
 

女:

いえ、その、あの……
 

男:

……はあ。だめだ。なんだよこれ。顔が熱い。ヤケになってやるもんじゃねえな。
 

女:

え?
 

男:

こりゃ……この先苦労しそうだ。
 

女:

は? え、えっと……
 

男:

なんてな! どうだ、大好きな壁ドンだぞ。嬉しいだろ。喜べ、バーカ!
 

女:

あ……ああ……意識飛ぶかと。
 

男:

ばっ、何で顔赤くしてんだよ、マジレスすんな。こっちの方が恥ずかしんだよ! もう帰るからな、あほ! じゃあな!
 

女:

はあ……なんだったんでしょう、さっきのアレは。現実の胸きゅんは……心臓に、悪すぎます。

​ーFin

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